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タマちゃん

 童貞を見透かされた瞬間からレオの頭は急激に冷静になっていった。

 クールダウンされたレオのヤンキー回路は相手の少女を瞬時に観察する。

 つるぺた。

 巫女。

 狐のお面。

 そして……


「もふもふ!!!」


 レオの反応は素直なものだった。

 揺れる9本の尻尾。

 獣耳。

 モフりたい。

 それがレオを動かした。

 反射神経的な意味で。


「うおおおおおおお!」


 レオは走った。


「っちょ、なんじゃ!」


 狐っ娘がたじろぐ。

 レオはそれに構わず飛びかかる。

 そしてそのモフモフとした尻尾に抱きつく。


「もふもふ! もふもふ! もふもふ!」


 レオは尻尾に頬ずりする。

 端から見れば幼女に襲いかかる不審者である。


「きゃあああああああ! やめるのじゃ、やめるのじゃ! 尻尾をそんな乱暴に! いやああああああん!」


 このあとめちゃくちゃもふった。

 ぽくぽくぽくちーん。


「はあはあはあはあ……」


 もふられすぎてピクピクと痙攣する幼女。

 完全に事後に見えるがモフっただけである。

 満足すぎて顔がツヤツヤしたレオ。

 警官に見られたら問答無用で射殺コースである。


「……ふう。良いもふだった♪」


 レオは動物好きである。

 金さえあればトリマーの専門学校に行きたいと思っているくらい動物好きである。

 思えば異世界に来てから動物とのふれあいが少なかった。

 決して性的な意味でのビーストではなく動物とのふれあいを欲していたのだ。

 癒やしが欲しい。

 全力でモフりたい。

 モフりたかったのである。


「で、お前誰?」


「あ、あれだけ妾をもてあそんでそれか!」


「ふむ……すまん」


「ああもういい! 妾は柳生(やぎゅう)玉藻(たまも)。柳生の末娘じゃ!」


 レオの貧相な知識の中で柳生と聞いて思い出すのは柳生十兵衛。

 だが時代劇自体の放送数が減っている昨今、そのイメージはとてつもなく歪んでいた。


「柳生十兵衛で有名な……眼帯してて……」


「まあお芝居ではそうじゃな」


「凄く強くて……」


「ふむ。えっへん♪」


「怪物になった天草四郎と頂上バトル……」


「おいこら」


「それで目からビーム出す……」


「まてー!」


 最後はどこから出たのかわからない。


「まあいいや」


「よくない!」


 玉藻はプンスカとすねた。


「で、なんの用だ?」


 ようやくレオは核心に迫る。


「ふふふ。2階のヤクザどもに命令をして貴様を連れてきてもらった! 大人しく婿になるがよい!」


「婿?」


「異世界から現れる救世主と子を成せと亀甲占いで出たのだ!」


 レオは首をひねった。

 なにかがおかしい。

 レオは新政府側のはずだ。

 幕府側に救世主呼ばわりされるいわれはない。


「救世主?」


「うむ。実はな……少子化なのじゃ」


 またもやなにかおかしい話が出た。


「少子化は人間側も同じだぞ……」


 レオは露骨にいやな顔をした。


「男女比が1対12でもか?」


 数学の苦手なレオは理解できず目を丸くしながら首をかしげた。


「あぬしバカじゃな……人口が男1人に女12人なのじゃ」


「……ゴブリンは男ばっかりだったぞ?」


「ゴブリンとオークはそういう種族じゃ」


「じゃあゴブリンとかオークと結婚すれば……」


「ほとんどの種族がゴブリンやオークとの間には子ができんのじゃ」


「ほう……」


「そこでお主じゃ!」


 レオはいやな予感がした。


「他の人間……」


「好みというのがある!」


 レオの中でさらにいやな予感が深まる。


「貴様は我らモンスター基準では超絶美形!」


 予感は確信に変わる。


「ということで妾の婿になるがよい!!!」


 いやぷー。

 真っ先にその言葉がレオの脳に浮かんだ。

 エロ漫画によくある種馬扱いは憧れるものだ。

 だが実際は能力や人格を否定されたように感じ気分が良くないものだった。

 それにもう一つ理由がある。


「玉藻……お前、具体的にどうやって子どもを作るのか知っているか?」


 玉藻は目をぱちくりさせた。

 どう見ても玉藻は幼女である。

 発育が悪い体質だとしてもせいぜい小学生だろう。


「一緒に寝たらコウノトリが赤ん坊を運んでくるのじゃろ?」


 玉藻は偉そうに絶壁を張った。


(あかん。そのレベルか!)


 それはまさにレオの予想通りだった。

 明らかに玉藻は手を出したら懲役刑レベルの存在である。

 警察に発見されたら即射殺レベルの存在なのである。


「タマちゃん。タマちゃん」


 すでにタマちゃん呼ばわりである。


「なんじゃ」


「『童貞』って意味わかって言ってる?」


「父上が『言え』と言ったのじゃ! たぶん婿殿への褒め言葉じゃ!」


 やはりなにもわかっていなかった。

 罵倒以外の何物でもない。

 特にそれが図星の時は。


(磯矢ー! なんでこういうときにいないじゃああああああ!)


 歩く18禁なら虚実交えつつやんわりと説明しただろう。

 林は迷子係だったので子どもには優しい。

 そして意外なことに磯矢もド変態だが子どもには優しいのだ。

 発情して初対面のレオを殺そうとしたヤツなのにだ。

 さすがに若いレオには幼女に子どもの作り方を説明するのは恥ずかしすぎて敷居が高い。

 そういうのは恥じらいというものを持たない磯矢の役目に違いないのだ。


「タマちゃん。タマちゃん」


「なんじゃ?」


「そういうのに無駄に詳しい、磯矢お姉さんというド変態がいるから話を聞きに行こうね」


「ふむ? よくわからんが、そやつの話を聞けばいいのじゃな?」


「おうよ。いい子いい子。とりあえず2階に戻してくれねえかな? ウチの子分を助けてやらねえと」


「ふむ。2階のヤクザどもはもう用済みだし……よかろう♪」


 玉藻は、にぱーっと笑った。

 レオはあまりにぞんざいな扱いを受けている2階のアンデッドヤクザに少しだけ同情した。



 磯矢とヒナは2階に到着すると、その辺にいたヤクザを捕まえた。


「れ、レオ様はどこだあああああ!」


 磯矢はヘッドロックでギリギリと締め付ける。


「っちょ、姐さん苦しい……ぎ、ギブ……」


 レオの前ではドMな磯矢だが、その本性はドSである。


「磯矢ちゃん。苦しがってる! しゃべれないから!」


「苦しいからなんだというのだ! レオ様と引き離されたこの私の悔しさを思い知らせてくれるー!」


 酷い話である。

 そのまま磯矢はシュルシュルと体を変化させ、ヤクザにパロスペシャルをかける。


「ぎゃあああああ!」


 完全にパロスペシャルが極まったその時だった。

 2人にオネエっぽい口調の声がかけられる。


「くっくっく……ほーっほっほっほ! 薄汚い生者のみなさん……この坂上源十郎に恐怖するのです!」


 坂上源十郎はリッチである。

 リッチは強力な力を持った王や魔術師のアンデッドである。

 その強力さにアンデッドの王とまで言われる存在である。

 見た目は通常だったらローブを纏った骸骨やゾンビ、幽霊を想像するだろう。

 ところが坂上源十郎は普通ではなかった。

 見た目は金髪オールバック。

 来ているものは和服。

 ただし時代劇のヤクザ仕様である。

 はだけた胸からは和彫りの入れ墨が見えている。

 ただし顔だけ骸骨である。

 個性的すぎて本人がリッチと言い張っても誰も信じてくれないだろう。


「……」


「……」


「……ド変態ぼそっ


 磯矢たちはかわいそうなものを見てしまったという顔をしていた。

 そして3人とも突然優しい顔になる。

 磯矢はそのままそっとパロスペシャルを外した。


「えっと……レオ様は?」


「あー。あの穴に落ちてしまいました。どうもワープポイントがあるようでアニキは見つかっていやせん」


「どうする磯矢ちゃん。とりあえず短時間なら私飛べるけど……」


「短時間じゃ危ないと思う。悪いけどフェアリーでレオ様の捜索隊を組織してくれるか?」


「へい」


 まるで坂上がそこにいないかのように淡々と打ち合わせをする3人。

 3人とも坂上に関わりたくなかったのだ。


「むーしーすーるーなー!」


 坂上がブチ切れる。

 関わりたくない3人は目を合わそうともしない。


 ぷちっ。


 糸が切れるかのような音と共にぷるぷると坂上が震えだした。


「おどれボケェッ!」


 そう言うと坂上は手を振る。

 動かした手の軌跡に魔方陣が浮かび上がる。


「ダークフレアじゃボケぇ!」


 坂上の怒鳴り声と共に魔方陣から闇属性の炎が射出される。

 磯矢はそれを真正面から受け止める。



「……ほう受け止めますか。でもその戦術はMP切れを狙う戦術」


 坂上は満足そうな顔をする。

 そしてお約束。


「だが無駄です! 私の魔力は53万ですよ!!!」


(まずい……リッチには拙者の攻撃が通じない……)


 磯矢は冷や汗を流した。

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