秘密結社
都内某所。
あのグルメガイドにも掲載された高級店にレオは仲間たちと来ていた。
のだが……
騙された!
レオはようやく理解した。
水島大佐の目的は……
「レオ君。総理大臣に総務大臣に軍の少将に……」
水島によってとても雑な説明がなされる。
「まあなんだ。彼らがこの国を動かしている人間ということはわかったかな?」
「割と」
「私たちはね。山鹿会という……まあ秘密結社のメンバーだ」
「ほう……」
「我々の目的はダンジョンの攻略。そのためにいろいろと手を回してきた。モンスターとの混血、古の魔術の復活、邪神との契約、異世界人の召喚」
「俺もあんたらに呼ばれたと言うことか……」
「ああそうだ。ハルト君が呼び出した。彼は異世界の邪神との混血。創り出された魔人だ」
「俺もそうなのか?」
「さあ? 調べようがないね。だが君はこの世界でなら人間を越えることができる。これが事実だ」
「そうかい。外道な手を使った割にはダンジョンの攻略はうまく行かないようだな」
「ああ。今まで全て失敗した。異能者の保護育成は目的意識の低下が起こり攻略をしようという人材が育たない。モンスターとの混血は能力が安定せず、邪神との混血は体が弱く若くして死んでしまう。唯一成功したのは古の魔術の復活だけだ。ただ普通の人間には扱えないがね。ハルトくん専用魔術だ」
「それでハルトに俺を呼び出させたと」
「そうだ」
「なるほどねえ。まあこちらは文句はないけどな。人生終わってたしな」
「それはありがたい。ところで今日は君の報酬について話し合いたい」
「びた一文まけんぞ!」
「割引の話ではない!」
「じゃあなんだよ……」
「とりあえずこれを受け取りたまえ」
そう言って水島は通帳とカードをレオに渡す。
「額が多すぎてチャージできなかった」
「はあ?」
レオは通帳を開く……
元の世界なら家が買える額が入っている。
「……多すぎないか?」
0がやたら多い。
レオにはどうやって使うか想像もできない額だ。
「これは一部だよ。10代の子に渡すには不適当な額だ。残りは山鹿会で管理させてもらう。と言っても減らさないように運用させてもらうだけだがね」
この超高額な報酬は当たり前と言えば当たり前だった。
なんといっても地下三階層までの資源で数十年も日本国民を食べさせてきた施設だ。
ところが、ここ数十年はダンジョンは膠着状態が続いている。
そこに決定力を持つ男が出現したのだ。
しかもすでに膠着状態の原因になっていた磯矢を下僕にするという快挙を成し遂げた。
さらには1階を完全制圧したのだ。
すでにレオはオリンピックの金メダリストやノーベル賞クラスの学者よりも政治的に重要な人物だったのである。
しかしバカなレオは「何買おう」とかどうでもいいことを考えていたのである。
そんなレオを見て操りやすそうだと思ったのだろう。
ザワザワと政治家たちが話し始める。
その中から声が上がる。
「水島くん。本題本題」
それは人のよさそうな顔をした総理大臣だった。
「はい……かしこまりました」
「レオくん。ボクらは君にお願いがあるんだ」
「なんですか?」
レオはなんだか嫌な予感がする。
「君、子どもを作りなさい」
「はい?」
「君の才能を受け継ぐ子どもを作るのです。君の血を継いだ優秀な子どもたち。次の人類にふさわしいとは思わないかね? そう、これは新たな進化なんですよ! 君にもメリットはありますよ! 教科書に載るような有名人になれますよ!」
(だ、ダメだこいつら……)
話が大きくなりすぎてる。
ただゲームとマンガと小説に囲まれていれば満足なのに!
そんな人類全体の話になるなんて嫌だ。
深夜のコンビニにエロ本買いに行けない人生なんて望んでいないのだ。
レオは焦った。
「そこのお嬢さんがたはどうですか?」
「も、もちろん! レオ様の血さえあれば幕府を滅ぼして地獄を制圧……い、いや、天界にすら戦いを挑めるかも……」
磯矢興奮しすぎて鼻血ブシャー。
「子どもできるの?」
それに対して林は冷静な意見を言った。
「もちろん。我々の調査では人間の世界では精霊の血が混じった家系はたくさん残ってますよ。中国では幽霊との間に子をなしたという記録すらあります」
「ふーん……人間ってそういうの嫌いじゃないの?」
「いいえ。異種間生殖やケモナーなど日本では江戸時代に通り過ぎた道です」
「へー」
「もちろんレオくんには人間とも子どもを作って貰います。なんなら人工授精でもいいですよ。それと、赤城くん。確か彼に話があるんだったよね?」
「ええ。ありますとも!」
それはやたら眼光の鋭いオッサンだった。
「総務大臣の赤城さんだ」
水島大佐がレオにオッサンを紹介した。
その目は真っ直ぐレオを見据えている。
まるで探していたカタキに出会ったかのように。
「貴様……うちのヒナに何をした?」
「はい?」
「ヒナに何をしたか聞いている」
「ヒナって赤城……ってオッサンの娘ぇ!」
「そうだ! うちのかわいい娘に何をした!」
「何ってダンジョンで……」
「えっちな事してたよね」
林は笑顔でそう言った。
なぜか笑みなのに表情が絶対零度だ。
「えっち……きしゃまああああああああああああ!」
「ち、違う! なにもしてない! 触られたけど眠らせた……」
「嘘をつけーい! サキュバスの誘惑を受けてなにもないはずがないだろが! 現に俺は毎日……」
「……毎日?」
「うるしゃーい! とにかくヒナに手を出したからには責任取ってもらうからな! クソ、貴様が異世界の勇者でなければコンクリートに詰めて荒川に沈めたものを!」
「いやいやいやいやいや! なにもしてないって!」
「キサマー! うちのヒナに魅力がないと言うのかー!!!」
「そういう問題じゃねえ!」
ヒナパパが顔を真っ赤に染める。
「まあまあ赤城くん。娘婿になるんだ。仲良くしたまえ。はっはっはっはっは!」
ここでレオは気づいた。
手を出した。
その噂さえあればいいのだ。
火のないところに煙は立たない。
ただし放火してるのはこの連中だ。
事実なんてどうでもいいのだ。
レオが子どもを量産しさえすれば。
おっさんたちはレオを取り込んだ挙げ句に人工の英雄まで作ろうという魂胆なのだ。
「どうだねレオくん。実はうちの孫もね……なあに愛なんて気にした方が負けだよ」
別の大臣がにやあっと嫌な笑顔でそう言った。
(ほ、本気だ……)
そこに集まったのはメーターを振り切ったゲス野郎どもだったのだ。
「い、磯矢、止めてくれ!」
「はわわー♪ レオ様の子どもー♪ さぞかし最強なのー♪ ダンジョンの男は皆殺しにして女は奴隷にするのー。しゅてきー♪」
(ダメだ磯矢はポンコツだ)
「は、林!」
「知らない!」
なぜか林は怒っている。
(こちらもダメだー!)
レオはこの急展開に頭がついていけなかった。
始めて訪れたモテ期。
だがこんな欲まみれのモテ期などレオは望んでいなかったのである。