サキュバスさんは地味子
サキュバス。
一言で言えばえっちなお姉さん種族である。
全男の子の夢。
本当の意味での歩く18禁。
男の子の妄想を体現したような存在である。
その姿は男性の妄想により様々なものが存在し、かならず美しい姿とは限らない。
容姿が端麗なことがエロいわけではないからだ。
その証拠に中世の文献には女性型の他に頭部が豚や鶏のものも確認されている。
紳士はいつ時代でもどこの土地でも存在したのだ。
ではヒナはどうなのか?
『学級委員長とかにありがちな地味で真面目な眼鏡っ娘だけど、実は眼鏡を取ったらもの凄い美人でいい体してる。だけど男っ気なくて、俺の世話焼いてくれて俺の言うことなんでも聞いてくれる都合のいい女で、俺にだけ超絶淫乱。だけど処女』型サキュバスである。
男の浪漫というものを凝縮したようなサキュバスである。
逆に女性からは「ちょっと体育館裏来いよ。殴るから」レベルの存在である。
そう問題は男子ではない。
女子なのだ。
女子の世界は厳しい。
サッカー部の女子マネというだけでビッチ扱いで手ひどい弾圧を受ける修羅の世界なのだ。
もちろんヒナはその辺を理解しているので男と一切の交流を断っている。
人間社会で世界の半分を敵に回して生きていけるはずがないからである。
ヒナは人間ではない。
高度な知能を持つ人間型モンスターの中には軍、人に紛れてダンジョンから脱出し、人間社会に紛れているものも少数ながら存在する。
もちろん人間を食べるようなモンスターは、人間社会に溶け込んでいるモンスター全体の不利益になるため人知れず排除される。
ヒナの母もそんな人間社会に紛れたサキュバスの一人だった。
彼女はサキュバスとその生態と体力に理解のある紳士と結婚。
いまだに新婚が続いているかのようにイチャコラしている。
だが、ヒナは思う。
一生独身でいようと。
端から見てあんな痛々しい夫婦なんかやってられっか!
一生一人で生きてくもん!
その思いがヒナをダンジョン攻略へと駆り立てた。
稼ぐだけ稼いで一生男に縁のない生活をしてやる!
ところがヒナは出会ってしまったのだ。
ダンジョンの最強生物にして暴虐のハーレム王、溝口獅子に。
しかもそのハーレムの一人に正体がばれてしまったのだ。
ヒナは焦った。
口を封じねばならない。
このウィンデーネを殺さなければならない。
だがどうやって?
彼女は溝口の仲間だ。
魔法の腕前も尋常ではない。
どうすればいい?
ヒナがゴクリとつばを飲み込むと
「おーい。軍の連中が来たみたいだぞ」
とレオの声がした。
びくり。
ヒナはびくついた。
「あ、溝口が呼んでる。まあいいや。なんか相談があったら言ってねー」
そう言うと林は笑顔でどこかに行ってしまったのだ。
純粋に愚問の答えを聞きたかっただけらしい。
ヒナは何も答えられなかった。
「どうした? えーっと……名前……」
ハーレム王がヒナの方へやってくる。
「赤城陽菜だ! 名前も知らないで共闘したのか!」
「おう、スマン。ええっとなんか軍の人が面倒なことを言っててな。よくわからんのだ」
「面倒?」
◇
ダブルピースをさせられたゴブリンたちが運び出される。
それは複数の意味で壮絶な光景だった。
その中でレオは困っていた。
「ええっと、支払いは審議後になります」
兵士が残虐な言葉を言った。
「しょ、しょんなー!」
ハルトが情けない声を出す。
ヒナは軽く目眩がした。
それは当たり前だった。
偵察の依頼でターゲットを滅ぼしたのである。
支払いが問題になるのは当然である。
「ああああああ。ゲーム機に俺のPCにマンガにラノベに……くふう。欲しかったのにー!」
「欲しがるものとイメージが全く合ってないな君は!」
思わずヒナはツッコミを入れた。
「すまねえ。分け前も払えねえ……」
レオは申し訳なさそうに謝った。
(これだけ強いのに素直だなあ)
ヒナは少しだけレオを見直した。
バカだが悪い奴ではないらしい。
と思った瞬間、ヒナの鼻孔にあのニオイが入ってきた。
あのいいニオイだ。
このニオイをかぐと、なぜか体が熱くなってくる。
だんだんと頭がボケて意識が飛んでしまいそうになる。
「おい。大丈夫か?」
「え、何が?」
「顔が真っ赤だぞ」
「なんでもない! なんでも……」
と言いながらヒナはボケた頭でレオのシャツのめくる。
それと同時にヒナはだんだんと頭がボケてくる。
「な、なにをする」
「んー? 君って肌がすべすべだなあー」
「おいおかしいぞ。目がとろんとして顔が真っ赤だぞ。熱あるんじゃないか」
「うーんなにがー?」
さわさわさわ。
「おい。マジでどうなった?」
「うーん?」
さわさわ。
「林! 赤城が病気みたいだ来てくれ!」
レオが慌てて呼ぶと何事かと林がやってくる。
「おお、すまねえ。病気みたいだヒール頼むぜ!」
「はーい♪ ってこの子サキュバスだよ」
「はい?」
「レオ様どうなされた!」
磯矢まで駆けつけた。
「いやこの子がおかしくて……」
「サキュバスですな……」
「つまり?」
「うーん……拙者もわかりませぬが、つがいを見つけたサキュバスはこうなると聞いたことが……」
「はい?」
「はあはあ。すべすべー♪」
さわさわなでなでとヒナはレオの体を触る。
だが本人も男性経験がないためそれ以上は行かない。
なんとなく本能に従っているだけである。
「……はう。じゃなくて、つまり?」
「……しゃしゅが、レオしゃまあ! ただそこにいるだけで女を落としちゃうなんてー♪」
磯矢が発情した。
唇を突き出して抱きついてきたので、レオはその顔にアイアンクローをする。
淫魔が二人もいたら気が変になってしまうのだ。
「ひ、ひぎい! でもこれが新世界のレボリューション!!!」
「林、磯矢じゃ話が進まねえから説明しろ!」
「簡単に言うと溝口殿のフェロモンに当てられておかしくなったと言うことかなあ」
「……なんで林さんは大丈夫なので?」
「ふふふ。それがしは水の精霊。状態変化無効なのだー♪」
「じゃ、じゃあどうすればいい? なあ?」
「さあ?」
「すべすべー」
さわさわ。
「誰かなんとかして。かなりマジでだんだん変な気持ちに……」
レオは物理攻撃以外で物事を解決するのが苦手なのだ。
さわさわー。
「うーん?」
ヒナが首をかしげる。
「えい♪」
首筋をぺろぺろ。
「っちょ! ヤバい!」
レオはぞくりとした。
(この女! エロい!)
相手はサキュバスだ。
本当であればヒナの容姿はレオの好みではない。
地味で真面目そうな顔だ。
それなのにだんだんと美しく見えてきたのだ。
「おい、ヤバい。精神攻撃を受けてる!」
レオは慌てる。
いや慌てる必要はないのだが慌てておかないと後々自分の立場が大変なことになるのがわかっていたのだ。
「じゃあそこどいて! 眠らせるから」
「いや林、ちょっと今は……」
それはエマージェンシーでデンジャーだったのだ。
「なんだよ。邪魔だからどいてよ」
林がレオの手を引っ張る。
そうエッチなお姉さんに迫られたら男はどうなるのか?
特に女慣れしてない男の場合は。
少しせっかちなハイパーマグナムが起動を始めてしまっても仕方がないのである。
ぱおーん。
「み、みゃああああああああああ!」
林の悲鳴。
林は顔を真っ赤にしながらレオへ水をぶつける。
「……え? 嘘……ビデオより……」
磯矢の不思議な発言。
「み、見るなああああああああああッ! やめてえええええ!」
真っ赤になるレオ。
「もうッ! 勝手にしろこの変態!」
林はむくれた。
「なぜだー!!!」
その後、レオはなんとか林をなだめて林にヒナを眠らせて貰い寮へ帰った。
(よし。全てなかったことにしよう)
レオはあくまで紳士でいることにした。
だがこの余計なお節介がさらなる混乱を引き起こすのだった。
◇
ヒナは寮で目覚めた。
なぜかダンジョン用の戦闘服を着たままだった。
(ものすっげえエロイ夢を見た……)
ヒナは寝ぼけ眼でそう思った。
「……最近見なかったけどなんか凄いの見たな。まさか溝口弟を襲う夢なんて」
夢の中で最後までしてしまったのである。
いや、ゴールがどこにあるかわからないレベルのもっと凄いことをしてしまったのである。
サキュバスにはよくある事ではあるが、今回はずいぶん生々しい夢だった。
実は途中までは本当にやらかしたのだが、ヒナは覚えていない。
全て忘却の彼方である。
「とりあえずご飯食べよう」
ヒナは独り言を言い終わるとポリポリと頭をかいた。
その途端、全てを思い出す。
(あれ……私……ダンジョンにいたはずじゃ……確か溝口弟と……)
その途端、ヒナの顔が真っ赤になる。
(も、もしかしてあの夢は全て昨日あったことじゃ……)
ヒナは気を失いかける。
(いやいやいやいや……4人同時プレイとかないでしょ!)
マルチプレイである。
COOPプレイである。
その辺が記憶とエロい夢の境目なのだがヒナはそれがわからない。
完全に「(複数の意味で)やっちまった!」と思っていた。
(完全にバレた。しかもハーレム王の精神攻撃で弄ばれた!)
完全に誤解するヒナ。
(どうにかしなければ! でもどうやって?)
ヒナの頭の中で二人の顔が浮かんだ。
(ううううう。屈辱だ。あのバカップルの力を借りるなんて。でも確かにあの二人なら権力もあるし……)
もう手段を選んでいる暇はない。
ヒナは両親に電話をかけることにした。