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赤城陽菜

 これまでモンスターたちとは全く意思疎通ができなかったため村の制圧は初めてだった。

 そもそも村の占領とか統治などという発想がなかったのである。

 ところがレオの活躍によりウィンデーネの村を制圧することに成功した。

 これは軍もどう扱っていいかわからない案件だった。

 そこで軍はある計画を立てたのである。


「あ、お代官様ー!」


 ウィンデーネがレオたちを出迎える。

 呼び名は『お役人様』から『お代官様』に変更になった。

 レオは代官に任命されたのである。

 もちろんレオに統治能力はないので名前だけである。


「『おやめくだされお代官様』『よいではないか、よいではないか』『あーれー』ですね。さすがレオ様」


 磯矢が目を輝かせる。

 すっかりテレビに毒されているようだ。


「さすが覇王。まさにビースト! はあ、はあ、はあ、はあ♪」


 スパーン!


「あん♪」


 磯矢は喜んでいる。


(マジで一遍犯してくれようか!)


 とレオが思ったその時だった。

 端末からコール音がした。


「はいはーい」


 林が端末を操る。

 林は電子機器の操作をあっという間に覚えてしまった。

 今では機械と相性の悪いレオよりも自在に操作している。


「クエストの依頼だぞー♪」



 調査依頼


 1階ゴブリンの集落に強力なリーダー大鳥(おおとりの)逸平いっぺいなるものが出現しました。

 最後まで抵抗を続けているゴブリンの村で大鳥逸平の写真を撮影してください。


 報酬:100万円


 予想難易度:★★★★ 4つ星



「……100万!」


 レオの目の色が変わる。

 なんと言っても100万円である。

 本当のところは官公庁が払う100万円なので、普通は死ぬレベルのミッションなのだがレオはそれを知らない。

 もうすでに100万円の使い道を考えていたのだ。


 寮にいれば食事は無料。

 つまり100万円を自由に使える。

 山分けで33万円。

 ゲームにマンガに毎日寿司だって可能である。


 と、こすっからい計算をしながらも、ちゃんと林と磯矢に分けることを考えているのがレオという男なのである。


「よしやるぞ! 林、食べ放題に行けるぞ!」


「な、なんです……と……」


「磯矢、置くとこないから三角木馬とかは買うなよ……」


「な、なぜそれがしの考えを!? レオ様はエスパーであられますか!?」


 わからないわけがない。

 すでに磯矢は陵辱モノのエロゲーにまで目覚めていた。

 大型のSMグッズを欲しがるのは時間の問題だったのである。

 こうして偵察任務が始まったのである。



 指令書にあった大まかな場所を頼りにマッピングをしていく。

 赤城(アカギ)陽菜ヒナはレンジャーである。

 この場合のレンジャーとは軍のレンジャー部隊ではなく、ダンジョンでの異能者の兵科のことである。

 レオは召喚師(サモナー)である。

 レンジャーは鍵開け、罠の解除、警戒などの補助能力を持つ。

 特に隠れるのが得意なためダンジョン探索では奥地まで入ってお金を稼ぎやすい。

 そのためほとんどの学生はレンジャーの訓練を受ける。

 魔道士や戦士の適性があってもレンジャーになるため人手不足に拍車をかけている。

 だが100年以上の経験から一番安全なのはレンジャーなのが知れ渡っているため誰も文句を言わないのだ。


 優等生であるヒナも攻略法に従ってレンジャーになった。

 ある理由からダンジョンを攻略して金と名誉を手に入れる必要があったのだ。

 ヒナは朝の件を思い出す。


(あやうくバレそうになった……)


 溝口弟の異能はマズイ。

 ヒナと相性が悪いのだ。

 このままでは隠し続けたあのことが露見してしまう。


 溝口弟との接触はなるべく避けねばならない。


 ヒナは気を引き締めた。

 だが、


「オーッス!」


 ヒナのすぐ後ろから聞き覚えのある声がする。

 ギギギという音を立てながらヒナが後ろを見ると、新世界のハーレムキング、史上最悪の女ったらしが女連れでダンジョンへ来ていたのだ。


(こんのおバカ!)


 なんという間の悪さ。

 ヒナは歯がみした。

 ところがレオは空気など関係ない。

 読むほど頭が良くないのだ。


「お前も偵察かあ。んじゃ一緒にやろうぜ! がははははは!」


「ちょっとアンタなに勝手に決めてるのよ」


「いいからいいから。一人25万でいいよな?」


「御意!」


「いいよー♪」


「なんで勝手に決めてるのよ!」


「ようっしやるか!」


 人の話を聞かない集団が勝手にヒナをメンバーに加える。


「おうっし。まずはこの壁壊すぞ」


「はい?」


「いやだから壁壊して正面突破。全員殴ってから写真撮って帰ってくればいいんだろ?」


「写真撮る意味ねえだろ!」


 ヒナはついキレてしまった。


「なん……だと……でもやめない」


 レオは笑顔で壁に正拳を放つ。

 壁は吹き飛び穴が空く。


「おいーっす!」


 悠然とレオはその穴に入っていく。


「アホか貴様ァッ!」


 と、ヒナは怒鳴った。

 穴の中からは怒声が聞こえてくる。


「なんじゃワリャアァッ!」


「おどれボケェ!」


 パンチパーマに金のネックレス、ワニ皮の靴、そしてシャツからチラチラと入れ墨が見えるゴブリンたち。

 実はここはゴブリンの集落などではない。

 幕府と通信手段が経たれて100年以上の月日が流れた。

 最初こそ真面目に民兵をやりながらゲリラ戦を繰り返していたゴブリンたちも次第に目的を見失っていた。

 金の供給されない民兵組織は急激に幕府への忠義心を失いマフィア化した。

 今ではダンジョンを根城とする暴力団ゴブリン組と化していた。


「おうおうおうおう。兄ちゃんいい度胸だな」


 ボキリボキリと拳を鳴らしながらガタイのいいゴブリンが前に出る。


「ヤクザ舐めてると八つ裂きにすんぞボケェ! えぶらッ!」


 もちろんレオはヤクザの口上など聞かない。

 問答無用で裏拳をその顔面にねじ込む。

 レオはさらに空中で回転するヤクザに踵落としをかまして地面に落とした。


「おい、コイツがボスか?」


 ぐりぐりとゴブリンを踏みながらの笑顔。

 その笑顔は殺人マシーンにしか見えない。


「ひいい! 化け物だ!」


「いや逃げんなって!」


「助けてー!」


「いやだから逃げんなって」


「ぎゃあああああああああああっ!」


「てめえら逃げんなって言ってんだろが!」


 ゴブリンがたちが泣きながら逃げ惑う。

 それを殺人兵器のごとく追いかけ片っ端から殴り飛ばす。

 二人の精霊も黙って見ている。


「ちょっと二人とも止めないの」


「無理だ。ああなったら誰も止められん」


 林が人ごとのようにそう言い。


「ああん♪ レオ様。ゴブリン相手に容赦のない攻撃。そこに痺れる憧れるー♪」


 一人はエロい顔でモジモジしていた。

 とんでもない奴に関わってしまった。

 ようやくヒナは理解した。


「おい磯矢にヒナ! 写真撮ってくれ! 林は強化と自動回復に集中」


「御意!」


「了解!」


「あ、ああ」


 レオがヒナたちに指令を出す。

 全てが間違っているがヒナはもうどうでも良くなっていた。

 磯矢は白目をむいて倒れたゴブリンたちをダブルピースにして並べていく。


(いやちげえだろ)


 と、ヒナはツッコミを入れたい気持ちを押し込めて写真を撮って本部に送っていく。

 写真を送るとすぐに本部から音声チャットの要請が入る。

 あの面倒臭い無線通信ではなく音声チャットだ。

 たった数日で通信はここまで進化したのだ。

 1階では今まで音声通話機能が使えなかったが、レオがあちこちにアンテナを設置したため、かなり広い地域で音声チャットが可能になったのである。

 レオはバカだけど真面目なので仕事は早いのである。


「こちら本部」


「赤城陽菜です」


「な、なにをした?」


「溝口弟がゴブリンヤクザの事務所に殴り込みました。あのバカ偵察の意味がわかっていません! 今交戦してます」


「戦況はどうなっている?」


「圧倒的暴力で溝口弟が敵を蹂躙しています」


「……マジ?」


「マジです」


「えーっと……水島大佐に相談するので待機」


「無理です。私では溝口弟を止められません」


「で、では継続」


 実に官僚的な態度でオペレーターは言った。

 おそらく下士官だろう。

 今まで戦線を守ることだけ考えてきた人間だ。

 決定権はない。

 あっても松下村塾でレンジャークラスになって適当に卒業したような人間だ。

 決定できるほどの賢さはない。

 賢ければ今ごろフリーで活躍しているだろう。


「ぬははははは!」


 壁越しにレオの声がヒナの耳に聞こえた。

 殴り合う音。

 なぜかガシャーンとかドカーンである。


(お前はサイボーグか!)


 ヒナはあきれ果てる。

 実はスライムの村を開放したことでレオはパワーアップしていた。

 もはやここまで来るとダンジョンに戦車を持ち込むようなものである。


「うけけけけ!」


 レオの嫌な笑い声と共にヒナの近くにあった壁が突如として爆砕した。

 そこからゴブリンの頭が見えていた。

 レオの攻撃を受けたに違いない。

 その直後、哀れなゴブリンたちの悲鳴が止む。

 どうやら全員倒したようだ。


「で、どれがターゲットだっけ」


「いやもう写真撮る必要ねえよ!」


 ヒナはツッコミが止まらない。


(いやおかしいだろが!)


 ツッコミを入れたい!

 あのバカを正座させて小一時間説教したい!


 だがヒナは震える手で冷静に本部に連絡を入れる。


「本部。ゴブリンの村を制圧しました……」


「こちら本部……なんか悪かったな」


「ええ。もうホントなにがなんだか……」


「兵をそちらに送った。10分ほどででつくはずだ」


「ワカリマシター」


 もうどうでもいいわ。

 ヒナは疲れ果てていた。

 疲れてその場にへたり込んだ。

 そんなヒナに近づくものがいた。

 ウィンデーネの林だ。

 林は磯矢やレオと比べれば比較的まともだと評判である。

 その評判のためかヒナも全く警戒してなかった。

 林がヒナの隣に座る。


「えへへ。疲れちゃったでゴザル」


 そう言って林は屈託なく笑う。

 元モンスターなのに妙にコミュニケーション能力が高い。

 ヒナも感じがいい子だなと思っていた。


「うん。そうだね。レオ君っていつもああなの?」


「溝口殿を人間と考えると疲れるからそう言う生き物だと思った方がいいよ」


 部下にまでその認識である。

 どれだけ化け物なのだろうとヒナは思った。


「ところで……ええっと?」


「赤城陽菜よ。ウィンデーネの林さん」


「よろしくー。ところでさ……なんでサキュバスが新政府側にいるの?」


 ヒナは息を呑んだ。

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