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女子生徒

 ジャイアントラット討伐。

 その知らせは瞬く間に人間サイドへ広まった。

 これまで人類は階段付近を抑え防衛体制を敷いていた。

 モンスターを外に出さないためである。

 だが今回は一階の大半を制圧するという快挙だったのだ。

 そしてその知らせは、歪められて広まったのである。


「また溝口弟がやらかしたって……」


 食堂で学生たちがひそひそと話をしていた。


「美女の村を占領ってどこのオークだよ!」


「やだぁ不潔!」


「逆らったハムスターを皆殺しにしたってよ」


「動物虐待じゃない!」


 交易しようとした村が美女の村になっただけであるし、ジャイアントラットは決してハムスターではない。

 だがそれは重要ではなかった。

 ごく少数の例外を除いて彼ら異能者は妙な特権意識を持っている。

 軍属なのに自由を許され、少し働けば食うには困らない金を得ることができる。

 しかも数は非常に少ない。

 卒業後はフリーになって三階までの比較的安全な地帯でゴミ漁りでもすれば稼ぎ放題。

 在学中にスニークスキルを磨いて4階以下の探索ができれば億を稼ぐことも夢ではない。

 生まれながらの勝ち組である。

 そんな彼らの大部分には向上心というものがない。

 そのくせ気位は高い。

 金のために名前を捨てるほど金に汚いレオとは基本的に価値観が合わないのだ。


「溝口。いいのか言わせといて」


「かまわねえ言わせておけ」


 何を言われてもレオは涼しい顔をしていた。

 正面から喧嘩を売ってこない時点で彼らはレオに負けているのだ。

 それをレオはヤンキー特有の動物的な勘で見抜いていた。


 ぐははは!

 羨め愚民ども!

 嫉妬するがよい!


 と、までは言わないまでも近い線をレオのヤンキー回路ははじき出していたのだ。

 だがその涼しい態度が余計に嫉妬心をかき立てていた。


「さ、さすがレオ様。お、王者の貫禄です」


 なぜか恋する少女の目で磯矢が言った。

 興奮のあまり鼻血を垂らしている。


「こ、これから『汚い目で見やがって俺好みに調教してくれる! げへへへ! 俺のいられない体にしてやる!』と全裸土下座させてから好き放題弄ぶんですね! グレイトォッ!」


「しねえよ!」


「も、もしかして……これが……伝説の……放置プレー」


 スパーン!


「顔を赤らめるな! モジモジするな!」


「ありがとうございました!」


 そんないつものやりとりをしていると陰口は大きくなっていく。


「女の子叩くなんて最低!」


「まさに野獣!」


「くそ羨ましすぎる!」


 いつもの悪口など馬の耳に念仏。

 しかも割と正しい。

 レオはスルーしながら反省した。

 あまり叩くはやめよう。

 少し優しくしてやろうと。

 自分がバカであると自覚しているレオはちゃんと人の意見には耳を傾けられるのだ。

 ところが見逃せないヤジを言うヤツも中にはいた。


「アイツってハルト君の双子の弟なんでしょ? 弟がアレじゃあ、ハルト君のレベルもたいしたことないよね」


「ぎゃはは! あいつガンで死にそうなんだってザマア!」


 がたん。

 レオは立ち上がった。

 レオ本人の悪口なら我慢しただろう。

 だがハルトの悪口は許さない。


「おいお前ら」


 レオは悪口を言った女子たちへ近寄った。

 食堂がざわざわと騒々しくなる。

 ほとんどの生徒はレオと目が合わないようにしている。

 とうとう食堂で覇王が凶行に走ろうとしている。

 全員がそう思って恐れていたのだ。

 レオ自身は一言文句を言ってやろうと考えていただけなのに。


「俺の悪口はいい。だが頼むからハルトの悪口はやめてくれねえかな。あいつ今さ、病気とがんばって戦ってるんだ」


「ひいいいいい! 殺さないで!」


 言っていることは至極まともなのだが評判が悪すぎた。

 女子生徒たちが悲鳴を上げる。

 それこそ命乞いのために全裸土下座しそうな勢いである。

 ちなみにこのとき林はレオの残りの鮭をぱくりと口に入れ、磯矢は恋する少女の目で「しゅ、しゅごいよおおお」と発情していた。

 そんなクズと自由人溢れる食堂にもまともな人間がいた。


「やめないか!」


 それは黒髪を三つ編みにして眼鏡をかけた少女だった。


「前々から言いたかったが努力もせずに人を批判するのは浅ましいぞ! それに溝口弟は頼んでるだけだろ!」


 少女は堂々とレオをかばう。


「なんだよこのブス! うぜえな!」


 女子生徒たちはそう言うと逃げ出した。

 レオがいつ襲いかかってくるかわからない。

 今のうちに逃げよう。

 小ずるい彼女たちはそう判断したのだ。


「ところでキミもだ!」


「はあ」


「なんだね。その髪型は!」


 レオの髪型はサイドと襟足を刈り上げたカジュアルパンクである。

 かと言って特に染めているわけでもない。

 伸びてくると根元から色が変わるので管理が面倒だからだ。

 ピアスも喧嘩で不利になるのでつけていない。

 つかまれて引っ張られたら痛いじゃすまない。

 もちろんタトゥーも入れてない。

 アクセサリーに関してもメリケンサックが引っかかるのを避けるために指輪すらつけていない。

 なので怒られるほどのことはしてないのだ。

 教師にすら注意されたことがないのだ。


「それになんだそのニオイは! 香水なんてつけて!」


「へ?」


 レオは香水はつけていない。


「いや香水なんてつけてないぞ」


 レオは反論するが少女は聞いていない。


「なんだこのニオイは、なんだか胸がムズムズする……なんだか変な気分に……くんくん」


「レオ様はいいニオイがするからなあ。くんかくんか」


 磯矢のその言葉にレオは思い出した。

 ウィンデーネの村で、村人がいいニオイがすると言ってたことを。


「い、磯矢……もしかして俺の下着をくんかくんかしてたのって……」


「いいニオイがするからでございます!」


(ド変態に理由があったー!)


「このニオイの理由もそれがしはネットで調べ申した。えっへん! なんでも『ふぇろもん』というのが動物にはあるそうで、おそらくそれではないかと」


 その途端、レオはハルト時代の光景を走馬燈のように思い出した。

 バレンタインチョコレートは義理すらもらったことはない。

 女子が落としたシャープペンシルを拾ってやったらゴミ箱にアウトサイド★シュート。

 「班を決めます。まずはお友達と組んでください。」

 なぜか女子に嫌われる日々。

 好きな子に告白したら恐怖のあまり泣かれたこともある。

 高校生になれば自動的に彼女ができると思っていた。

 もちろんそんなことはない。

 その謎が今解けたのである。


「つ、つまり、モン娘にはモテるけど、その代償として我が輩は……人間にモテないと?」


 動揺のあまり口調がバグる。


「左様でございますな」


 げふっ!

 レオが血を吹く。


「れ、レオ様!」


「い、いや、大丈夫だ」


「あの……大丈夫?」


 なぜか女子生徒は顔を赤らめながら言った。


(いや……おかしいぞ!)


「なんでお前、俺に反応してるんだ!?」


 その途端、女子生徒が青ざめる。


「あ、あの! 私急ぐから!」


 そのまま女生徒は焦って逃げ出した。


「え、な、なに?」


「あのもの……モンスターのニオイがする。なぜだろう?」


 一人遠くで麦茶を飲んでいた林は疑問に思いながら食事を終えた。

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