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ダンジョン最優秀種族(自称)

 水島から解放されたレオたちは外出許可を取り秋葉原で買い物を済ます。

 小型のテレビやラジオ、それにゲーム機、それに林のお菓子などを購入し、予定通り三人で回転寿司を食べる。


「三人で一万円……だと……」


 林というブラックホールに吸い込まれた惑星の残骸が積まれている。

 「お願いだから堪忍してください」と頼んだにもかかわらず金色の皿も遠慮無く何枚も積まれていた。

 だがレオは怒らない。

 なぜなら金に余裕があるからだ。

 今であれば林に食いつぶされることはない。

 たとえ一万円がわずか30分で消えたとしても、怒らないだけの余裕があるのだ。


 こうしてスライム村との交易路を開いたレオたち。

 全てが順調だった。

 ところがレオは一つ勘違いをしていた。

 そして次の日、それは起こったのだ。



 入り組んだ迷宮の回廊を抜けるとそこは桃源郷だった。

 白い肌の儚げな女性たちが笑っている。

 そこはスライムの村だったはずなのに。

 レオは知っていた。

 彼女たちは人間ではない。

 ウィンデーネ。

 ウィンデーネ。

 ウィンデーネ。

 ウィンデーネだらけである。

 幼いウィンデーネ。

 お姉様ウィンデーネ。

 ボーイッシュなウィンデーネ。

 いろいろなウィンデーネがいたのだ。


「スライムは?」


 レオは指をさしながら震えた。

 スライムがいなくなった理由。

 それは明白であった。


「も、もしかして!!!」


「あ、おやくにんさまー!」


 ウィンデーネの一人がレオに気づいた。


「お役人さまー!」


「おやくにんさまー!」


 何人ものウィンデーネが嬉しそうに女の子走りでレオを囲む。

 そして両手を差し出して……



「おやつくだしゃーい♪」



 それは明らかにスライムの村だったのである。


「どうしてこうなった! 交易の結果だろ!」


「溝口殿。教育を受けてない村で交易と下賜の違いがわかるはずがなかろう」


「うおおお! つまりどういうことだ!」


「うむ。全員精霊化完了で今やこの村の支配者は溝口殿ということだ。いやめでたい!」


「しゅごーい! たったあれだけで村を征服しゅるなんて……はあああああああん♪」


 林が感心し、磯矢は身を悶えさせている。


「レオ様は生まれながらの帝王れすー★」


 顔を真っ赤にして抱きつこうとする磯矢。

 しかもダブルピースしながら。

 スパーン!

 もちろん磯矢に指一本振れさせない状態からバカ用スリッパを炸裂させる。


「もう♪ レオ様ぁん♪ そう言いながら『俺たちは話し合いに来た』とか言いながら皆殺しモードなのにぃ♪」


 スパーン!


「人聞きの悪いことを言うな! 俺はどこの荒野の支配者だ! 林はお菓子配るの手伝ってくれ。お前の分もあるから」


「はーい♪」


 ここまでは昨日までと同じだ。

 だが今日は他にも任務があった。

 レオは携帯端末と朝方渡された装置を取り出す。


「ふむふむ。アンテナ設置手順と」


 元は電気科に所属していたレオは器用な手つきでアンテナを設置していく。

 担任には「頼むから電気関係の職には就かないでくれ」と懇願される腕前だが、幸いにもアンテナはキットになっていて組み立てるだけだった。

 オシロスコープ(1台75万円)を爆発させるのとは違うのである。

 これならレオでも設置可能である。

 作業は30分ほどで問題なく終了した。


「よしできた!」


 そしてレオは端末を操り通信を実行する。

 2分ほど待つと本部から無線通信が入る。

 無線通信なので「了解」と「どうぞ」の間に言葉を挟む形になる。

 ちなみにレオは『スライムの村』。

 本部は『本部』という呼称を使う約束になっている。


「こちら本部、こちら本部。スライムの村応答せよ」


「こちらスライムの村。本部どうぞ」


「了解。回線開通確認しました。現在の状況を説明してください。どうぞ」


「了解。えーっと、スライムの村に到着。アンテナ設置しました。どうぞ」


「了解。なにか異常はありましたか? どうぞ」


「了解。えー……スライムの村を丸ごと精霊化完了。日本語が通じるようになりました。どうぞ」


「了解。本部では対処出来ない事態だ。大佐に報告します。どうぞ」


「了解。その間はどうしたらいいでしょうか?どうぞ」


「了解。とりあえず隊員を派遣しますので予定通り任務続行してください。どうぞ」


「了解。予定通り任務続行します。どうぞ」


「本部了解。以上」


 以上で通信は終了である。


「うっわ……人間って面倒くさいことしてるんだなあ」


 林がうげえという顔をしている。


「しかたないだろが!」


 レオはムキになって反論した。

 だがとりあえず任務は完了である。

 あとは兵士が来てアーティファクトを渡すだけである。

 ふふんとレオは勝ち誇った。

 それはあまりにも楽すぎた。

 不自然なほどに。

 そう。

 レオは完全に忘れていた。

 昨日倒したネズミがどうなったかなんて。



 太鼓の音が鳴る。

 炎で照らされる通路でネズミたちが太鼓を打ち鳴らしていた。

 その中に鎧と鉄仮面をつけた奇妙なネズミがいた。

 ネズミはやたら良い声でネズミ訛りのモンスター語による演説を始める。


「我が兄弟が何者かに重傷を負わされた。この一階層の支配者たるこの鉄仮面ベルルスコーニ様の愛しい兄弟を襲ったものがいるのだ! 我らに敵対する愚か者が現れたのだ!」


「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


 ネズミたちが一斉に殺せコールを叫ぶ。


「そうだ! 兄弟たちよ報復をするのだ!」


「報復! 報復! 報復! 報復! 報復! 報復! 報復!」


「我らの兄弟に手をかけたことを地獄で後悔させるのだ!」


「まずは近くにある人間の軍を襲うのだ! ヤツらを倒しこの一階層の支配者が誰であるか思い知らせるのだ!」


「ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ!」


「モヒカンよ。先導するがよい! 今日たった今から我らの伝説は始まるのだ!」


 足軽より下の階級であったジャイアントラットは幕府にその存在を完全に忘れられていた。

 しかも寿命が短いネズミたちは祖先が誰に仕えていたかなど、とうに忘却の彼方であったのである。

 そのせいで自分たちが一階層の支配者であると……

 いやこのダンジョンの支配者であるとジャイアントラットは本気で考えていたのだ。

 弱体化した人間に勝利し続け、完全に調子に乗っていたのだ。

 スライムの村に最強の危険生物がいることさえも知らずに。


 頭部の毛を逆立てたモヒカンネズミたちがネズミたちの軍団を先導する。

 それに伴い太鼓の音が次第に大きくなる。

 ベルルスコーニの野望はこのとき最高潮を迎えていた。



 数十分後。

 1階の本部では。

 大変なことが起こっていた。


「ネズミが! ネズミがああああああああ!」


 銃声。

 手榴弾の破裂する音。

 悲鳴。

 まさにそこは地獄だった。


「ひいいいい来るなあああああああ!」


 兵士が銃を乱射する。

 彼はジャイアントラットにあちこちを噛まれ血まみれになっていた。

 襲撃したのはベルルスコーニの軍勢。

 兄弟の弔い合戦として1階征服のための遠征を開始。

 まずは人間を標的にしたのである。


「が、学生を逃がせ!」


「クソ! なぜこうなった!」


 銃弾が当らないほどに素早く、そしてその繁殖力の高さで圧倒的な数で襲いかかる。

 異能者が少なく慢性的に人手不足の軍は圧倒的に不利。

 相性は最悪だった。

 この戦闘では重傷者も含め怪我人多数。

 最悪の結果に終わった。


「ふはははは! 我らはダンジョン最優秀種族。このまま1階を制圧し我らの王国を作るのだ!」


 ベルルスコーニは高らかに笑う。

 それを見てジャイアントラットたちは興奮する。


「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


「ふはははは! 兄弟たちよ! この世で一番優秀な種族は?」


「我らジャイアントラット!」


「このダンジョンを征服する種族は?」


「我らジャイアントラット!」


「そしてその王は誰だ?」


「我らが偉大なるベルルコーニ!」


「そうだ! 我らこそダンジョン内最強! 最優秀種族なのだ!」


「ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ!」


 ベルルスコーニのアジテーションが最高潮を迎えていた。


「兄弟たちよ! 次は薄汚いスライムどもの村を滅ぼすのだ!」


「ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ! ベルルスコーニ!」


 ベルルスコーニを讃えるジャイアントラットたちの声が響いた。

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