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彼女が愛したもの  作者: せんと
小春日和
3/3

それから【娘視点】

すこし未来のお話。娘(高校1年生)視点です。

それから


夢を見た。


見上げる父の顔は今よりずっと若く、握られる私の手は今よりずっとずっと小さい。

父との久しぶりの散歩に、私は少しはしゃいで、沢山話しかけていた。

子ども特有の甲高い声が辺りに響いている。



おとうさん、今日はいい天気だね!

ふゆなのにさむくない!


ーーーそうだね。こんな日を何て言うか知っているかい?


しってるよ!"こはるびより"って言うんでしょ?


ーーーそうだね、よく知っているね。


おかあさんがおしえてくれたの!


ーーーそうか。お父さんもだ。


お父さんも?


ーーーああ。お父さんも、お母さんに教わったんだよ。


そっかぁ。おかあさん、ものしりなんだね!


ーーーその通りだ。…さぁ、そろそろ帰ろうか。お母さんがご飯作って待ってるから。





…あぁ、そうか。お母さんが待ってるんだね。




「私」の声で呟いた時、パチリと目を覚ました。



部屋はまだ薄暗い。時計を見ると、何時も起きる時間より30分ほど早い時間だった。二度寝するには微妙な時間だし、何より目覚めが良かったのか、眠気が一切ない。

損したような少し残念な気持ちをため息で吐き出して、私はさっさと起きることに決めた。



朝の身支度をいつもより丁寧に済ませ、リビングに降りる。父はまだ起きていないみたい。

電気をつけて、カーテンを開け、少し考えてから暖房をつける。

ご飯が炊けているかを確認して、キッチンに向かった。


エプロンをつけて、いつも通り手早く朝ごはんとお弁当2人分をつくる。早起きした分、おかずは少し多めだ。

大体の支度が終わった頃、階段を降りる音が聞こえた。父が起きたみたい。

すぐにリビングのドアが開き、父が顔を覗かせた。


「おはよう、お父さん」

「おはよう美晴みはる。今日も手伝えなくて悪かった」

「別に大丈夫だよ。それに昨日もまた遅かったんでしょ?」

「それはそうなんだが…」


わりと良くあることなのに、今日は一段と気まずげな表情だ。

不思議に思い、カレンダーをチラリと確認する。今日の日付けが赤い丸で囲ってある。


今日は私の16歳の誕生日だった。


尚も謝ってくる父に笑いかけ、配膳を手伝ってもらう。

お茶を用意してくれるというので、そのうちにおかずを少し盛ったお皿を仏壇まで持っていく。


仏壇には幸せそうに笑う女性の写真。私の母だ。

写真の前にお皿を置き、線香をあげてから手を合わせる。



母が亡くなってから、もう8年の月日が経とうとしていた。



心の中ですこしお喋りをして、また食卓まで戻る。

父は湯のみを持ったまま、窓の外を眺めていた。その表情は、どこか悲しげで、憎々しげで、愛おしいようなものだった。


「お父さん」


声をかけると父はハッとしたようにこちらを見て、誤魔化すように笑った。

私は湯のみをもらい、ご飯にしようかと言った。



席に着くと、父から誕生祝いの言葉とプレゼントをもらった。

この年になると少し照れ臭い。

ありがとう、と笑って返し、そのまま会話をしながら食事を済ます。


食器を洗い、仕事に行く父を見送ってから、私も学校に行く支度をする。コートはまだいらないだろうから、マフラーだけ手に持ってドアを開けた。



その瞬間、この時期にしては暖かい陽気に包まれ、私はさっきの父の表情の意味に気がついた。



今日は、今年初めての小春日和だった。






小春日和ってあんまり意識しないけど、すごく気持ちいい天気ですよね。

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