在りし日【妻視点】
妻視点で高校生時代のお話。全話とは雰囲気が違いますのでご注意です。
紅葉も終わり、冬に入ったようなそうでもないようなこの季節。
木枯らしは身に染みるような冷たさなのに、陽射しだけはまるで春のように暖かい。
落ち葉がカラカラと音を立てながら風に飛ばされる姿を、暖房の効いた教室からぼんやりと見つめる昼休み。
私こと松尾佐奈はまさしく暇を持て余していた。
普段であれば友人たちと馬鹿な話をしながら愉快なランチタイムをおくっていたことだろう。
そんな愛すべき友人たちは揃いも揃って用事とやらで私を置いて行ってしまった。もはや可愛さ余って憎さ百倍である。
そんな若干荒んだ心では、教室の賑やかな声もただの騒音だ。ぼっちにとっては不愉快指数をあげる要因でしかない。
こんな時はさっさとお気に入りの音楽を聴きながら惰眠を貪るのに限るが、こんなポカポカな陽射しが当たる状態で寝てみろ。そのまま深い眠りにつくこと間違いなしだ。
だがしかし、ぼーっとしていたら眠くなるのもまた自然の定理。私は無駄な抵抗をやめて眠る態勢に移った。
隣の関くん、もしくは後ろの百田さん、授業が始まったら起こしてください。
意識に別れを告げようとしたその時、なにやら横に気配を感じた。それと同時にトントン、と机を軽く叩く音と振動。
確かに先ほど起こしてくれとは心の中で頼んだが、タイミングが早すぎではないでしょうかね。
伏せていた顔をあげ、隣に立つ人を見上げると、そこに居たのは斜め右前さらに右隣の席の宮村亮太だった。仲はそれほど悪くはないが、これといって言い訳でもない。席順も仲の良さも何とも微妙なクラスメイトだ。
「わ、悪い松尾…今日の範囲について少し聞きたいことがあるんだが…」
口角をピクピクとさせながら彼が言った。大方、わたしの顔に袖の跡が残っているのだろう。
ちなみに彼とは同じ塾に通っていて、今日は宿題が出ている。質問とはその範囲についてだった。
彼の質問に答えている間にも、日差しは容赦なく降り注ぐ。
欠伸を噛み殺していると、彼が笑った。
「随分と眠そうだな。冬眠でもする気か?」
まあ気持ちがわからんでもないが、と苦笑しながら言う。
そうだねぇ…でも、と私も笑いながら返した。
「今日はどちらかといえば、【春眠暁を覚えず】に近いかなぁ」
まだ冬だぞ、ときょとんとする彼に笑い、太陽を見上げた。
ほら、今日は日差しが春の様に暖かいでしょう?
「こんな日のことを小春日和って言うんだって」
言い得て妙だとは思わない?と私は笑った。