不幸
この世には、何も持たないものがごく稀に存在する。その理由は様々で生まれつきの者もいれば、生きて行く上で何らかの事故にあいそれを不幸にも失った者もいる。ナンナは後者であった。
軍師として活躍していた時に、元帥に歯向かったがために苦痛に耐えるしか無かった日々があった。苦痛から逃げることもできたのだろうが、元帥と初めて会った時に念のためと言われそれを取られた。念のためなんて嘘だと直ぐにわかった。元帥の部屋に一度だけ呼ばれたことがあったが、その時は喜びなんて微塵も感じなかった。
流石元帥。軍のトップ。そう思って少しの憧れと恨みを持ったのもつかの間で、部屋に飾ってあった沢山の輝く透明の石が僕の心を支配した。何て綺麗なんだろう、一つ欲しいな。そう強く思った。
「綺麗だろう? これらは全部力の石なんだ。私はこれを原力と読んでいる。」
原力と呼ばれるそれらの石は壁に隙間なく飾られていた。どれもこれも、眼を瞑りたくなるほど眩しく美しかった。自分のもあるはず、ここに始めてきて初めて元帥にあって初めてとられた僕の石。そう思いあちこちを見回すと、僕の考えを元帥は読んだのかニヤニヤしながら僕に告げた。
「これが私の力なのだ。人の力を石にかえる。石は本人が飲み込めば元に戻る。が、残念ながら君の石は市民の誰か、もしくは貴族の誰かが持っているよ。ここのコレクションが随分増えたものだから、いくつか彼らに抽選でプレゼントしたんだ。彼らはそれが力の石とは知らないから、ただの綺麗な石と喜んでいたよ」
最初に言った、何も持たないもの。彼らは差別を受けていた。何も持たないと言うことは極端に言えばただの人形だった。生まれつきのものは永遠に死ぬまで底辺を彷徨う。ある日突然そうなってしまったものは、ある日突然底辺を行くことになってしまう。だから貧困層の殆どは何も持たないものだった。ナンナはその世界で生まれ13まで育った。親は力の話など一度もしなかったためナンナは力を知らなかった。力があれば裕福者になれるのだがナンナは自分が人と少し違うと思いつつもそれを誰かに相談はしようとしなかった。もし相談して、本当に力があってしまったのなら人々は皆ナンナを裕福者にしようとするだろうと思った。ナンナは好かれていた。町の皆ナンナのことが好きであった。だから本人の幸せを望んでいた。でも、だからこそそれを知って更にナンナは力を誰にも言いたく無かった。貧困に生まれながらも、毎日が病みそうな日々でもそんなの日々をナンナは愛していた。自分だけが金を持つなんて絶対にいやだった。持つなら皆と一緒出ないと絶対に嫌だと思っていた。
そう思っていたナンナが軍師になったのは、怒りを覚えたからだった。裕福者が提案した。ジェノサイド。今の幸せを壊させてたまるそう思ったからだ。ものの起こりは些細なことだ。