そいつだけがヤる気有り
目の前に広がるのは、宙に舞う金と無数の転がる死体だった。急な事で焦ってしまう。視線を一つに集中できない。手も震えが止まらなく、怖くて見ることができない。
「そんなに慌てることではないだろう?」
少し笑いながら声がした。声の方向を向こうとしたが、混乱のせいかどこから声がしたのかわからない。早く返事をしなくてはならない気がした。無意識のうちにそう思っていた。それが、培った教育のお陰か謎の恐怖によるものかは定かではないが…。ただひたすらにあちらこちらを見回すしか無かった。
「どこをみている? 後ろだ」
直ぐに後ろを向こうとしたが、足が動かなかった。恐怖だった。ひたすらに。
必死になりながら足を動かそうとしているとため息が聞こえ、後ろから右側へと床を踏み歩く音がし、視界に男が現れた。男は美男子と言うよりはナイスガイと言った感じで筋肉のせいでかなり大きく見え(体がそもそも大きいかもしれない)、年は20代後半と言ったところだった。眼が綺麗だと思った。
「お前は今の状況を理解しているか?」
少し落ち着いた今、初めて意識して聞く声はおそらく、母親が子供に語りかけるように優しいものだった。なのに、そのはずなのに自分が感じるのはやはり恐怖で質問の返事を、と言うより質問すら理解できなかった。本当に話しかけられたかも怪しくなってきて夢であったらとすら望んでいた。
「その様子だと理解していないみたいだな」小さくそれならちょうどいいと付け加え、細く微笑んだ。そして、男は地面に転がるそれらを踏まないように、それでいて確実にこちらに歩いてきた。その姿に思わず数歩後ろに下がってしまいそうになる。そして男はこう言った。
「俺に従えば、お前の知りたいことなんでも教えてやる。」