陽はまた昇る
「貧困層と裕福者との戦いに、最大権力者のメイク氏がジェノサイドと名付けました。繰り返します。貧困層と…」
テレビは繰り返しそう告げていた。ジェノサイド、ジェノサイドと。
少年は嗜みの紅茶を口から机へと移動させた。パチンッと少年が指を鳴らすと、少年の側にスーツなのかタキシードなのかはわからないが取り敢えず正装を着た老人がきて少年に向かって一礼をした。
「お茶のお代わりをお持ち致しましょうか」
老人は丁寧に聞いたが少年イラついた態度で今にも殴りかかりそうな勢いできつく言い返した。
「ふざけるな。俺がそんなに食いしんぼうに見えるのか? いい加減にしろ。俺はそろそろ出るぞ。」
そのセリフに老人は焦りを見せた。どうやら少年が出て行くのを阻止したいらしい。が、恐らくどんなに頑張ったところで少年は出て行ってしまうだろうと本人も気づいてはいた。
「坊ちゃんが居なくなったら、この屋敷は一体どうしたら…私共だけではとても寂しいのです。」
少年は老人には見えないように少し顔を歪ませた。目には涙も浮かんでいた。それ程少年と老人には熱い絆があったのだろうか。
しかし少年は声を抑えて答えた。
「俺のことを坊ちゃんって呼ぶなよな。あと心配しなくても子供の一人や二人居なくなったってたいしたことはないし、いつか帰る。必ず帰る。俺は太陽だ。この屋敷は星だと思え。これから太陽は屋敷から出て沈んで行く。しかし陽はまた昇る。俺の名前はソールだからな! 覚えとけ!」
そう言って少年ーーソルーーは屋敷の扉から出て行った。