一つ
僕は気づくとそいつの下に居た。立場的な物もあるが物理的にも下にいた。そこから見るそいつは、一般、僕じゃ無い誰はきっと…いや違う。
「私の顔に、何かついているか? そんなに不思議そうに…何を見ている?」
そう言って大きな手をナンナの顔に添えてきたが、男は少しクスッと笑いナンナの上から退いてしまった。そして男はそばにあった、大きなソファのようにフカフカな椅子に座りナンナを見た。
「なぁ、お前は私のことを何一つとて知らないのか? 私を見て、何も思わずただ不思議に思うだけなのか?」
男は、定期的に同じことを聞いてくるがナンナにとってそれは愚問で何度聞いても答えは同じでYesだった。
「何回も同じことを…言わせないでください…。本当に何も感じ…いや思わないし、貴方が誰かも…わからないんだ…。」
男はあまり信用していないようだった。男は心の中ではまだこいつ粘るか、そう思っていた。だが口には出さなかった。口に出したらナンナが力を発揮して逃げ出そうとするかもしれないからだった。相手の力が何なのか知れない以上余計なことはしない方が良いのだ。それに、男はナンナの力が自分に及ばないこともわかっていた。男がナンナに出会った時に感じた、己から出る無限にも等しい力に男は恐怖と興奮を感じたのをよく覚えていた。
「随分と疲れているようだなァ。体力が無いようだな。ゆっくり休め。」
ナンナは、酷くムカついた。
「貴方が体力有りすぎなんですよ!…まぁ、人より体力がないのは認めますけど…」
男は椅子から立ち上がりナンナの居るベットに近づき、ナンナの顔に自分の顔を近づけ目を見た。
「だったら無駄なことを言うんじゃ無い。 お前、本当にあそこに住んでいたのか? いくらなんでも体力がなさすぎるぞ。嘘では無いよなァ?」
さっきの言葉で怒りに火種のついたナンナを男はさらに風を吹かせた。が、ナンナには力はすでに無く男の目論見どうりにはいかなかった。本当だったらナンナは力出していたが力は出なかったので行動にうつした。
ナンナは体力が無かったが、男を精一杯の力で殴った。が、その前に男に首を掴まれ息ができなくなってしまい焦った。
「こんなスピードで、こんな力で私に勝てるとでも? だいたい何が気に入らなかったんだ? 私は君の何かを傷つけたか? ん? 凄くムカついた。気分が悪くなった。もう一度私に付き合え。悪いのは前だ。 フフフッなぁ? 理不尽だとは思わないか? ん?」
ナンナの心には理不尽と言う言葉は無かった。生まれた時から理不尽に生きてきたナンナは何が理不尽かを知らずに育っている。だから、ナンナが理不尽と感じた時があったなら、それは彼が成長した、報われた、そう言った時でしか有り得ないのだ。
「痛い!…やめろ…苦しいぃ…」
男は占めたと思った。こいつは簡単に堕ちるとも思った。
「私に出会ったことでお前の人生は、ただの円から渦巻きへと変わったのだ。私と出会いお前の人生は360度回転したのだ。つまり新たな人生の始まりで、輝かしい物にするチャンスなのだ。わかるか? 回転するだけではダメだ。人生を変えた私の指揮に従わなければ確実には渦にならずにまただだの円へと戻るのだ。賢いお前ならわかるだろう? なぁ?」
「…」は息切れを表していますここでは。
腕が無くてごめんなさい