背中 さんじゅうさん
大ちゃんが帰ってこない。
どこに行ったんだろう。
私のかわいい弟。
今日は一緒に遊びに行った。
大ちゃんは消えちゃった。
先に帰っちゃったんだと思っていたのに。
どうしよう、明日までの宿題。
大ちゃんの後ろ姿の絵を描いていたのに。
続きが描けなくなっちゃった。
大人たちが叫んでる。
あちこち走って周ってる。
お母さんが泣いている。
お父さんが帰ってきた。
大ちゃん。
大ちゃん。
かわいそうに。
ずっと川にいたなんて。
水浸しで、とっても寒そう。
私?
知らない。
知―らない。
今日は大ちゃんとは遊んでいないの。
私はずっと絵を描いていたの。
大ちゃんの絵じゃないよ。
これは、おとなりのクラスの子。
そうよ、仲良しなの。
ねえ、私たち、仲良しよね。
私のためなら、何でもしてくれるわよね。
お願い、大ちゃん、ここに、この箪笥の中に隠れていて。
誰が来てもしゃべっちゃだめ。
大人たちが叫んでる。
あちこち走って周ってる。
知らないおばさんが尋ねてきた。
お母さんが困ってる。
私?
知らない。
知―らない。
そんな子、全然知らない子。
私は弟とお絵描きして遊んでいたんだもの。
あら、大ちゃん。
寝ちゃったのね。
息もしないでぐっすり眠っちゃったのね。
でも、ここじゃだめだわ。鬼に見つかっちゃう。
そうだ、縁の下に隠そう。
雪ばっかり降るな。
外で遊べなくてつまんない。
何かへんな臭いがするってお父さんが言う。
私にはわからないな。
早く春にならないかな。
子猫を探して縁の下を覗いたら、変なものがあった。
なんだろう、これ。しわくちゃだ。しわくちゃが服を着ている。
そうだ。大ちゃんの絵を描いていたんだった。
大ちゃん、どこに行ったんだろう。