表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/78

背中 にじゅうし

 まるくなってねむる。

 なにもきこえない。

 しんぞうのおともきこえない。

 まっくらだ。


 薄暗い和室で、百合子のタオルケットを借りて横になっていると、百合子が電話している声が聞こえてきた。


「先生、百合子です。はい。今日のお仕事、お休みさせてください。申し訳ありません、突然で。弟の具合が悪くなって……」


 弟?

 百合子さんの弟の具合が悪い……?


 なんだ、弟ってオレのことか。そうだな、弟って言っておいた方が通りがいい……。

 彼女にとって、オレは弟なんだな……。

 うつらうつらしながら、身体の熱さに揺さぶられる。頭のてっぺんにひもをつけて、くるくる回されているようだ。


 人形のように。


 くるくるくるくるくる。


 ひもの先をにぎっている男。


 ぎょろぎょろした目玉。


 人形をながめまわす。


 人形を仔細にながめている。


 あちらに、ゆすると足がはね。


 こちらに、ゆすると腕がはね。


 だんだん激しくぐるぐるぐるぐる。


 回しているうち、ひもは切れ。


 人形は、ぽーん、とびちった。


 腕も、足も、頭も、ばらばら。


 ひもの先には背中だけ。


 男の目玉はぎょろぎょろと、ぎょろぎょろと。


 あいもかわらず手をはやし。


 「さあ、見るのだ。見たら描けるのだ」


 そう言う手にはひもしか持たぬ。


 ひもにぶら下がる、その背中。


 つきつけられる、その背中。


 「君は見ておいたほうがいい」


 目の前には背中。


 この背中は知っている。


 少し小さい、かわいらしい、背中。


 さゆみの背中が泣いている。


 オレがいないと言って泣く。


 なに言ってるんだ。


 オレはここにいるじゃないか。


 さゆみが絵を描いている。


 オレの背中の絵……?


 いや、違う。


 子供の背中?大人の?老人の?


 背中は絵の中で急速に年をとる。


 さゆみ、さゆみ、やめろ、やめてくれ。


 それ以上はだめだ。


 それ以上描いちゃいけないんだ。


 それ以上年をとってしまったら……。

 ひっしに手をのばす。


 手は肩にふれ、背中がふりかえる。


 しかし目の前には、また背中。


 また手をかける、ふりかえる。


 背中。


 ふりかえる。


 背中。


 ふりかえる。


 背中。


 ひっしになって手をかける。


 次々にめくっていく。


 ひとつの背中の後ろにはまた背中。


 色んな背中が次々と出てくる。


 背中はどんどん年若く。


 ふいに、おしまい。


 おしまいのその背中は、小学生くらいの男の子のようだった。


 その先にあるのは、





「ツキクルウ」。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ