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背中 はち

 あいも変わらず、お客も来ない画廊の受付をしつつ、自分の人生についてぼんやり考えてみた。私はこのままでいいのだろうか、と。


 ほとんど雑談のような接客と、掃除、たまに絵を買いたいというお客が来たら、電話してオーナーを呼び出す。簡単な出納帳をつけるけれど、本当に収支を書くだけ、お小遣い帳みたいなものだ。あとは月に一度、会計士が取りに来るから出納帳を渡す。私の仕事はそれくらいだ。


 あ、重要な仕事を忘れていた。電球の交換だ。一度、これを忘れて、よりによってお客がいる時にライトが消えたことがある。


 ライトに照らされなくなって、なぜか絵は陰影を濃くしたように見えた。一番大きな背中の絵がふいに息づいたような気がした。ぞくりとした。

 お客も同じように感じたのか、そそくさと出て行った。すぐに電球を交換して明るい光にさらされた背中は、のっぺりとした壁のような印象に戻った。けれど、それ以来、私は出来る限り背中の絵を見ないようにするようになったのだ。


 それは置いておいて。とにかく、私の人生設計について本格的に考えるべきだと思うのだ。このまま、この画廊がいつまでも長く存在するとは思えない。

 高坂百合子の絵は売らない、オーナーはお金持ちだから仕事は趣味の範疇。時々、オーナーの兄の絵がかなり高い値段で売れるけれど、収支を見ているととても儲かっているとは言えない。オーナーは経費でいろいろ高額なものを買い漁っているようなのだ。

 

 そんな職場でキャリアも積めず、ビジネスマナーにも不安がある、受付嬢なんて若いか仕事がさばける人でないと務まらないだろう。私の取り柄は若いことだけ。年々、その価値は下がっていく。


 そんなことを考えていたある日、ふいにオーナーが画廊に顔を出した。もちろん、この店のオーナーなのだから、いつ来たって不思議はないのだが、月に一、二度しかやって来ないオーナーが三日連続でやってきたのだ。そして何をするでもなく私を観察して帰っていく。

 もしかして、私が何かミスでもしたのだろうか。いや、そんなにミスを出来るほどの仕事はしていない。では、なんのために?

 もやもやしたまま、まさか「なにをしに来たんですか?」なんて聞けるはずもないまま、数日を過ごした。

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