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 大基はめずらしく午後の授業をサボってアパートに帰った。

 1DKのボロアパート。画材を置くスペースが必要なため、多少の贅沢をして広めの部屋を選んだのだが、今では台所にまで紙やら筆やら絵皿やらがはみ出してきて足の踏み場もない。大基の居場所はたった一箇所、ベッドの上だけだった。いつも持ち歩いているカバンとスケッチブックをベッドに放り出して自分も尻を落ち着ける。


 久しぶりに、絵を描きたいと思った。ベッドの上に胡坐して膝を机代わりにスケッチブックを開く。枕元のペン立てから抜き取った鉛筆を持って、さて、何を描こう。と白々しく考えるフリをしてみたが、描きたいものはただ一つ。高坂百合子の姿だった。


 ところが実際に紙に鉛筆を置くと、百合子がどんな顔をしていたのか、輪郭は、耳は、首の長さは、すべてが曖昧に手をすりぬけて何一つ描くことができない。


 目をつぶれば、ただ、彼女が呼ぶ「大ちゃん」と言う声と、見つめられた感触だけが耳によみがえり、大基は半そでから出た二の腕に鳥肌がたつのを感じた。腰から背中までをかけ上る快感を覚えた。

 ぶるっと身震いして、一人きりの部屋なのに何故かバツが悪く、自画像でも描こうと鏡を引っ張り出してのぞきこんだ。


 ふと、違和感を感じた。

 オレの顔って、前からこんなふうだったっけ?


 なぜか見慣れた自分の顔という感じがしない。しかしつくづくと検分してみても、どこかが変わったようにも見えない。無精ひげのせいかもしれない。そう結論付けて鏡は放り出してしまった。


 大基は大の字にベッドに寝転んだ。百合子の顔を思い出そうとする。

 しかし、美しいと言う印象と彼女の声ばかりが現れ、具体的な顔立ちは思い出せなかった。


 明日、学校でまた会えるだろうか……。その時を想像すると、また腰から背中へ這い上がるむず痒さを感じ、誤魔化すように目を閉じた。

 大基はそのまま眠ってしまった。

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