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四十
橋田画廊で行われた新人画家の初展覧会は連日大盛況だった。
謎の変死を遂げた狂気の画家、橋田坂下のすべてを受け継いだ、ただひとりの弟子。マスコミが食いつき、無名の美人画家は一躍、超売れっ子になった。
受賞歴もないのに、美人画家はゴシップ記事に載ったことが数回あり、橋田坂下の死因のすべてを語る、唯一の人物であろうと誰もが思っていた。
しかし警察発表による画家の死因は、餓死。
冷蔵庫に用意された大量の食事は手つかずのままで、橋田坂下は数ヶ月何も食べていないような、ミイラになりかけのような状態で、鍵が開いたままの金庫の中から発見された。発見したのは橋田の弟子。
ただ一人、画家のアトリエの鍵を持つ美人画家だった。
警察が到着した時、女性は画家の死体のそばの椅子に腰をかけ、婉然と微笑んでいた。
死体が抱きついていた天女が描かれた日本画と、そっくりの微笑で。
女性は長期間、拘留されたが、警察は女性の供述と死体の状況、橋田の関係者の聞き込み捜査から、女性が橋田の死に関係していないと断定。
狂気の画家の死は、自死と目されている。