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三十八

(やだ、あたし、そそっかしすぎる……)


 大基のアパートに向かいながら、さゆみは自分の頬を両手で挟んだ。

 カッカと上気しているのがわかる。陽が傾いて薄暗くなっているのが幸いだった。


 いくらなんでもあんな美人が、大基なんかを相手にするわけがない。

 勝手に勘違いして勝手にやきもちを焼いて……。

 考えるほどに恥ずかしさがこみ上げた。きっと今頃、大基は部屋でゴロゴロしてテレビでも見ていることだろう。


 テレビ……。


 ふと、先ほど大基の部屋を訪ねたときの不可解な現象を思い出した。


 ぶるぶると頭を振って妄想を追い出す。きっと、何かの錯覚だよ。

 そう心に言い聞かせ、元気良く大基のアパートに入っていった。


 鍵は開いていた。

 ノブをひねると、ドアは軽々と開いた。玄関には相変わらず大基のスニーカーが脱ぎ散らかしてある。

 もうしょうがないなあ、などと言いつつ靴を並べてやって、さゆみは部屋に上がった。


 奥の部屋からテレビの明かりだけが玄関まで届いている。部屋を覗いてみたが大基はいない。


 テレビはチャンネルが合わないまま何も映さず、真っ黒の画面が光っている。

 ぞっ、と背筋が寒くなる。


「大基! いるんでしょ?」


 トイレのドアをノックする。返事はない。

 そっと開けてみたが、電気はついておらず、大基もいない。

 台所にも、風呂場にも、ベランダにもいない。ぺたんこの布団をはいでみたが、もちろんいない。


 高坂百合子の部屋で見た、こんもりと盛り上がった毛布が目の前に蘇る。


 大基はいつも丸くなって眠る。それはちょうど、あの部屋で見たような。

 大基が毛布をかぶった寝姿は、勾玉のような形に見えるのだ。

 本当に、大基が寝ているとしか思えない毛布の形だったのだ。

 しかし、さゆみ自身が毛布を剥ぎ取り、そこに誰もいないことを確認したのだ。


「大基……。どこにいっちゃったの……?」

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