二十八
百合子の部屋を出たのは、午後十一時を過ぎていた。
真っ暗な道をぼーっとした頭のまま歩く。なんだか、何も考えられない。
あのまま、あの部屋にいたかったのに何で自分は出てきてしまったんだろうと後悔する。今からでもとってかえそうかなどと、なかば本気な自分が可笑しくなる。
一人でくすくす笑いながら歩く。
通りすがった若い女性が、大基を見ないように大げさに目をそらした。それがまた可笑しくて、笑いが止まらない。
くすくす、くすくす。
なんだか、肌寒いような気がする。そういえば、先ほどの女性はジャケットを着ていた。自分は半袖だ。それがまた可笑しくて、
くすくすくすくす。
くすくすくすくすくす。
笑う。
ドアを開けて部屋に入ると、ベッドの上で置いてけぼりの携帯電話がピカピカと光っていた。取り上げてみると着信もメールも大量に入っている。ほとんどが、さゆみからだ。
一件だけ、さゆみからの留守電メッセージを聞いてみた。
「ちょっと、あんた、いいかげんにしなさいよ。牧田先生から呼び出し! 明日、十時、牧田先生の部屋。行かないと単位はないって! 以上!」
目の前に能面のようなさゆみの顔が浮かんだ。また可笑しくなって、くすくす笑う。
メールは見ない。どうせ大した内容じゃないだろう。
服も着替えず、そのままベッドに倒れこんだ。体が重い。
地にもぐるような感覚にひきずられ、眠りに落ちた。