二十七
目を覚ますと襖の向こうに明かりがついていた。もそもそと身を起こすと、物音を聞きつけたのか、百合子が声をかけた。
「大ちゃん、大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ」
ぼんやりしたまま答える。本当は大丈夫かどうか、判然としない。ぐるぐると眩暈がするし、身体はぐったりと重い。
しかし、いつまでも寝ているわけにもいかない。今、何時だろうかと思ったが、時計も携帯も持っていない。
キッチンに顔を出すと、真っ白いあかりが目にしみた。
「まだ寝ていたらいいのに」
「そろそろ帰らないと……」
百合子は、にこにこしている。
「何か、ご用事?」
「用事というわけでは……。そろそろ帰らないと、明日、学校だし……」
「休めない講義があるのかしら?」
なんで百合子さんは、こんなに質問するんだろう? まるでオレを帰したくないみたいじゃないか。
また、淡い期待を抱きそうになり、苦笑する。オレは、彼女の弟でしかないのに。
「前期の牧田ゼミ落としてるから、後期は頑張らないと。それに、就活事務局にも登録しないと……」
百合子は小首をかしげてたずねる。
「就職活動って……。大ちゃん、教職員の資格を取るんでしょう? だったら、まだまだ先の話だわ。もっと、ゆっくりでも大丈夫よ。焦ってもしょうがないわよ。ね、とにかく、ご飯にしましょう」
「はあ……」
曖昧にうなずきながら、そういえば百合子さんは就職活動はしているんだろうかと考えたが、聞いてみるのも悪い気がして、黙っていた。