二十六
しばらく、こんこんと眠ったようだった。ずいぶんと深いところでたゆたうように、夢を、見ていたようだった。
目を開けて暗い天井をぼんやりと見る。
夢の内容は覚えていない。ただ何か、大事なものを忘れてきたような気分だけが残っていた。
だいじなだいじなわすれもの。
何だったろう。
喉が渇いていた。のっそりと身を起こし、台所に向かう。
マグカップに水道の水を注いで飲んだ。カルキくさい。
なんだか、ずいぶん久しぶりに水を飲んだような気がする。和室に戻り、横になろうとして、ふと襖を開けてみた。
大事なものは、ここに入っていたのではなかったっけ?
しかし、何も入っていない。ガランとしている。
そうだここじゃない。
天袋を開け、手で探ってみる。布包みがあった。引っ張り出して畳に下ろす。
古臭い紺色の風呂敷包みを開いてみると、幾枚かのキャンバスだった。男の子の背中の絵。
そうか、ライフワークだ。
一枚ずつめくって見る。
下に行くほど、背中は幼くなっていく。
学生服を着ている背中が数枚、一番若い背中は小学生くらいだろう。
白いTシャツを来た背中を、ケント紙に水彩絵の具で描いてある。裏面には「大吾 十歳」と書かれている。几帳面な文字だった。
ふと、なにか違和感をおぼえた。考えてみても見当がつかない。
あきらめて絵を元通りに包み、押入れにしまった。
なぜか天袋に戻すのではなく、押入れに入れるべきなのだという気がした。