二十
帰宅すると、アパートの入り口にさゆみが立っていた。
「なんだ、入ってたら良かったのに……。あ、そうか、カバンはここか。鍵、なかったんだ?」
さゆみは黙って首を横に振り、パーカーのポケットから鍵を出して見せた。
「なんだよ。なんで入らないの?」
心なしか、さゆみの顔が青白い。
「……やっぱり、ヘンよ。大基の部屋」
「ヘンって、何が?」
「鍵、開けて入ったの。中で待ってようと思って……。そしたら、急にテレビがついて。誰もいないのに! あたし、怖くて……」
大基はフッと鼻で笑う。
「なによ! なんで笑ってるのよ!」
「怒るなよ。教えてやるから、来いよ」
そう言って歩き出したが、さゆみは動こうとしない。
「大丈夫だから。ホラ」
大基はさゆみの手を握ると、引っぱった。鍵を開けようとしたが、玄関は開いていた。
「お前、鍵かけずに出てきたのか? 不用心だろ」
「だって! 怖かったんだもん!」
嫌がるさゆみの手を引き部屋に入る。
無人の部屋でテレビだけが、真っ黒な光を放っていた。
大基はテレビのリモコンを取り上げると操作して、画面に「視聴予約」の表示を出して見せた。
「しちょうよやく?」
「そう。録画予約みたいに、設定しておいたらテレビが勝手につくようになってるの」
さゆみの肩から力が抜ける。
「なんだあ。なーんだあああ。もう、びっくりしたんだからあ。怖かったんだからあ」
力の入らない手で、大基の胸を、ぽすぽすと叩く真似をする。
「安心した?」
「した」
「もう怒ってない?」
「ない」
大基はさゆみを、ぎゅっと抱きしめてやって、しかし、ふと、首をかしげた。
視聴予約なんていつ設定したっけ?
考えてみたが、思い出せなかった。