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十八

 それから、何度か百合子の部屋に通った。


 百合子に背中を見つめられると、いつも寒気がして脂汗が流れる。モデルとは、こんなに体に負担がかかるものなのか。

 大学で人体デッサンをしながら、モデルの女性の胆力に舌を巻いた。


 けだるい体をひきずって、どうにか講義を終えて駅にむかっていると、さゆみが走って追いかけてきた。


「話があるんだけど」


 目を吊り上げている。ああ、怒ってるな、とぼんやり思う。


「なに? 早く帰りたいんだけど」


 さゆみの目が、さらに吊りあがる。


「あの女の部屋に通ってるって、ホントなの?」


 低い声で聞く。あの女……? 大基の頭は、ぼーっとして、何の話かよくわからない。


「あの女?」


 さゆみは声を荒らげた。


「高坂百合子よ! 一人暮らしの女の家に通ってるって、どういうことかわかんないの?」


「モデルに行ってるだけだよ。卒業制作の」


「絵なら学校で描けばいいじゃない! あんたはホントにあの女の魂胆がわかんないの?」


 大基はさゆみの顔を眺め、こういう顔の能面があったな、あれはなんて名前だったっけ、とぼんやり考えていた。


「魂胆って、なんの」


「あの女、男狂いなのよ! 知ってる? 彼女の学費、橋田坂下が出してるのよ。ただのモデルにそんなことする? それから、橋田の弟ともデキてるって、そのスジじゃ有名なんだって!」


 大基は思わずフっと笑う。


「どこにあるんだよ、そのスジって。コメカミあたり?」


 笑われて、さゆみは怒りが頂点を越えたようだ。手にしたカバンを大基の胸めがけて投げつける。涙をうかべ、歯をくいしばっている。


「いたいな、なにするんだよ」


 あくまで冷静な大基を睨みつけた。


「気付いてないの? あんた、だんだんあの女と同じニオイになってきてるのよ!」


「ニオイ……?」


 大基は自分の腕をにおってみる。


「そうじゃなくて! 具体的なニオイのことじゃなくて、なんていうか……。あるでしょ!」


「わかった、わかった。オレがかまってやらないから拗ねてるわけね。悪いんだけど慣れないモデルで疲れてるから、また今度にしてくれる?」


 さゆみはぶるぶるとコブシを震わせていたが「バカ!」と叫ぶと、走って行ってしまった。


「……なんだ、あいつ」


 大基はのっそりと身をかがめ、さゆみのカバンを拾う。落ちた時に散乱した中身を拾っていると、ポストカードが目に止まった。


 橋田坂下の弟の、画廊の案内状だった。百合子が橋田坂下とデキているなどと言うキテレツな話は、橋田坂下ご本人を見た今では毛ほどの信憑性もなかった。

 が、画廊を営む橋田の弟を大基は知らない。なんとなく、気になった。


 大基はさゆみのカバンを担いだまま、繁華街に向かった。

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