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十七

 ふと目覚めて、転転と体の向きを変えていると


「大ちゃん?」


 明るいほうから声をかけられた。襖が半分開いていて、薄暗い和室に蛍光灯の灯りが薄く差し込んでいる。


「起きた? 喉かわいていない?」


 百合子がマグカップを持って和室に入ってきた。逆行で顔が見えない。頬の横にマグカップを差し出された。起き上がり、両手で受け取り口をつける。冷たい水だった。一口、二口飲む。


「ごめんなさいね。慣れないことなのに、長い時間お願いしたから、疲れちゃったのね」


 お願い……。

 いったい、なにを、お願いされたんだったろうか?


「今日は、おしまいにしましょう。起きられる? それとも、まだ休む?」


 身体は、まだ休みたいと言っている。しかし、理性が頭の隅で拒否している。


「今日は、帰ります」


「そう。じゃ、仕度ができたら送っていくわね」


 そう言って彼女が去って、しかし自分がどこへ帰るのか、何の仕度があるのか、ぼうっとした頭ではよくわからなかった。


 とりあえずタオルケットをどけて立ち上がる。頭がふわふわして今すぐにでも横になって眠ってしまいたいと思う。帰ろうと騒ぐ理性が邪魔だ。半分、無意識にケットを畳み、クッションを乗せて部屋の隅に置く。


 仕度……、と言って、とくに思い当たる事はない。ぐるりと部屋を見渡しても、何もない。半開きの襖を完全に開け、和室を出る。





 あかるかった。




 せかいがかわったように。



 ただ、普通に灯りがともっているだけなのだが。

 地中から這いでてきた蝉の幼虫のような心持ちで、大基は目をしばたたいた。


「大ちゃん。用意はいいのかしら?」


「あ、はい。ご面倒かけて、すみません」


 ペコリと頭を下げる。

 そうだ。オレはモデルをしに来ていたのに、途中でへばってしまったんだっけ。


「ほんとに無理をさせてごめんなさい。じゃあ、行きましょうか」


 背中を押され、玄関へ向かう。

 ふと、和室を振り返る。がらん、と、何もない部屋からは、百合子の手のような冷たい空気が流れ出していた。

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