表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/78

十六

 目をつぶり、うとうとしていると、夢を見た。


 無人の和室に背中がある。中学生くらいの男の子か。背中がぽつんと浮いている。

 膝を抱えている。いや、ちがう、膝はない。顔もない、胸もない、腹もない。

 ただ、背中だけ。ぽつんと浮いている。


 背中が立ち上がる。押入れを開ける。天袋から何かを下ろす。押入れにしまう。

 なにをしまったのか。

 見てみたくなった。

 背中の後ろから覗き込む。そこには確かに何かがある。何かがあるのがわかる。


 しかし何も見えない。ただ、何かがある。これを、知っている。直感でそう思う。

 これをどこかで見たことがある。いや、嗅いだことがある? もしくは聞いたことが? 触ったことが?


 背中がくるりと振り向く。振り向いても、背中。玄関から外へ出る。急いで追いかける。ぶにゃぶにゃした感触の中を走って行く。

 靄の中から現れたように突然に姿を見せた扉に、背中が入って行く。追いかけてドアを開けると、薄暗い部屋にいた。


 リモコンを取る。

 ボタンを押す。

 何も映らない。

 ざーざー。


 誰かが玄関を開け、台所へ入っていった。後を追う。廊下がギシッときしむ。


 なにも見えない。

 そこには、なにもなかった。


 ドアもなかった。


 床も無かった。


 天井も壁も無かった。


 自分の体さえ、無かった。


 ああ、そうだった。


 すべてあそこに置いてきたんじゃないか。


 あの森のような庭に建つ、墓石。あの、金庫の中に。


 ツキクルウ。


 はじめから、わかっていたじゃないか。

 彼女の要求にはすべてこたえるだろう。

 すべてを無くし。自分自身さえ手放して。

 この世のなにものでもないものになって。

 誰からも忘れられて。


 けれど、それは、とても幸せな気持ちがするものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ