7話 “心の傷”
前回の戦いから後の事…
過去の事に悩まされる優翔…
その傷を癒せる者は無いのだが…
・・・
「ここがあなたのお部屋でございます」
咲夜さんが部屋のドアを開けながらそう言った。
俺は部屋の中へ入った。
部屋は明るい。
どうやらこの館には電気が通っているようだ。
洋風な館なだけある。
しかし慣れないなぁ…
こんな洋風な館、まず入る事が無いからなぁ…
「如何でしょうか?」
咲夜さんはそう訊いてきた。
勿論、文句無し。
だから俺は率直に…
「良い部屋ですね」
と、言った。
「気に入って頂けて何よりです。では、ごゆっくりと…」
咲夜さんは静かに部屋のドアを閉めた。
「はぁ…疲れた…」
そう言い、俺は腕を真上に伸ばし、身体をうんと伸ばした。
そして目の前のベッドに倒れ込んだ。
すると俺は思った…
全く…何でみんな俺に戦いを挑むんだ?
今日だって死ぬかと思った…
しかし、それでも助かっている。
俺の能力…“心殺”で…
何の感情も表情も出さない…
でも、この能力はヤバい…
感情も表情も無いから、何も躊躇わない。
だから人を殺すのも…躊躇しない…
幸いにも、まだ人は殺めてない。
だけど、まだ殺していないとしても…その内、本当に人を殺してしまいそうで怖い…
てか、そもそもこうなったのは…
「…ぁあっ!!」
こ…この感覚は…!!
フラッシュバック…!!!
俺の脳内にあの時の記憶が流れて来た…
もうやめてくれ…!!!
あの時の記憶はもう忘れたいんだ!!!
もう嫌なんだ…!!!
だけど、記憶はより一層鮮明に流れるだけ…
頼む…!
もう…もう……!!!
「やめてくれぇぇぇええええぇぇぇええぇぇぇぇ!!!!!」
俺は体を上げ、両手で頭を押えながら部屋の天井に向かって思いっ切り叫んだ。
そして俺の身体から力が抜け、ベッドに倒れ込んだ瞬間、眠りについた…
・・・
翌日…
俺は外の音で目覚めた。
部屋に窓は無いが、その音が轟音だった為、目が覚めた。
俺はベッドから起き上がり、ドアの方まで歩き、ドアを開けた。
ドアを開けた時、俺はふと右を見た。
大窓の景色には、灰色の雲が空全体を覆い、物凄い勢いの暴風雨を降らせていた。
外はどうやら嵐のようだ。
「気が沈む雨… でも、そんな雨が嫌いじゃない俺…」
そう。雨は嫌いじゃない。
小さい頃はよく外の雨で濡れながら遊んでたな…
……!!!
………
危うくまたフラッシュバックが来そうだった。
もう御免だ…
あんな事…二度と……
俺は大窓の反対方向の階段側を向き、歩いた。
・・・
今気になったが、この館って…外装だけでなく、内装までもが紅色だったんだな…
目が痛くなりそうだ…
そんな事を考えながら階段に着き、降りた。
そして、俺は恐らく一階と思われる場所にやって来た。
何故恐らくなのか…
この館、初めて来たから全然わかんないし、窓までそんな無いから外の状況や景色を見るには一定の場所で無いと確認出来ない。
しかも無駄に広い…
こんなに広くてよく迷わないな…全く…
で、何故一階に居るのか…
それはレミリアお嬢様を捜してるからだ。
とりあえず、朝なんだから挨拶をしないといけないのもあるし、そろそろ家に帰らないといけないからだ。
と、思ってたが…
「道わかんね…」
迷った…
やっぱり迷った。
当たり前だ。こんな無駄に広い館で迷わない奴は居ない。
どうしようか…
そうして考えていた所に…
「おはようございます」
そう声が聞こえてきたから振り向くと、そこには咲夜さんが立っていた。
咲夜さんは俺が振り向いた後、お辞儀をした。
「あぁ…おはようございます」
俺も釣られながらに挨拶とお辞儀をした。
しかし…この人は本当かっこ良いなぁ…
この人の事を“瀟洒”って言うんだろうな。
きっぱりとして何にでも気が利いて…
垢抜けてて洒落てる感じ。
言う事無しでしょ。
「どうされましたか?こんな所で」
咲夜さんが心配そうに訊いてきた。
「実は…迷ってしまって…」
俺がそう言うと、咲夜さんはくすくすと笑いながら言った。
「まあ、それは…ウフフ」
「だって、この館凄く広いし…」
「では、朝御飯も出来ておりますし、その場所に案内致しましょう」
咲夜さんは笑顔でそう言った。
俺が「はい」と返事をしたら、咲夜さんは「こちらです」と言い、歩き始めた。
俺は咲夜さんの後を付いて行った。
そして暫らく歩いてたら扉が目の前に見えた。
「ここです」
どうやら到着したようだ。
すると咲夜さんは扉を開けた。
そこにはレミリアお嬢様と昨日の門番さんにフラン…見知らぬ紫髪の少女が長いテーブルに座っていた。
「さぁどうぞ」
咲夜さんの案内で、俺はテーブルに備えてある椅子に座った。
座った瞬間、妙に視線を感じた。
視線の方向には見知らぬ紫髪の少女が居た。
すると、少女は俺に話し掛けてきた。
「レミィから訊いたわ。あなたが優翔君ね」
「……はい…あなたは?」
「初めまして、私はパチュリー・ノーレッジよ」
「パチュリー…さん…?」
と、そこに咲夜さんがお皿をたくさん持って来て、俺や他の人達の前に並べた。
気付いたら豪華なディナーが俺や他の人達の前に並んでた。
そしてみんなが食べ始めたが、俺は食べる気になれない…
そんな俺にレミリアお嬢様が話し掛けてきた。
「どうしたの?ひょっとしてお口に合わないかしら?」
「あぁ…いえ」
すると、レミリアお嬢様は何かを思い出したように「そう言えば」と話を切り出した。
「昨日、叫び声がこの館中に響いたのだけど…」
瞬間、レミリアお嬢様は鋭く俺を見てこう言った…
「あれってもしかして…あなたの声じゃないかしら?」
それを聞いた俺は驚いた。
だけど冷静になって言葉を返した。
「何故、俺だと言えるんですか?」
そう返したらレミリアお嬢様は言った。
「あなたの眼を見ればわかるわ」
何だと…!?
ど…どう言う意味だ!?
「あの…どう言う意味ですか?」
「あなた…過去の事で悩んでいるでしょ」
「⁉…何故それを…?」
するとレミリアお嬢様は鋭い眼を解き、こう言った…
「あなたの眼は、哀しみに満ち溢れている。きっと…幻想郷にやって来る前、辛い事があったのね…」
俺はその言葉を聞いた瞬間、全身から怒りが湧き出た。
「うるせえ!!!てめぇに俺の気持ちの何がわかるって言うんだ!!!!!」
俺は椅子から立ち上がり、テーブルを力強く叩き、思いっ切り言葉を発した。
俺の行動に対し、レミリアお嬢様以外のみんなが驚いていた。
みんなの驚く顔を見た俺は正気に戻り、椅子に座った。
「あ、あの…すいません…何か、急に騒いで…」
するとレミリアお嬢様は溜息を吐いてこう言った。
「まあいいわ。それがあなたの気持ちなんだから、仕方が無いわ… あなたの心の傷が、それだけ深いと言う事なのだから…」
「すいません…」
「謝る事は無いわ。その傷に塩を塗ったのは私だし、謝らなければいけないのは私の方。ゴメンなさい」
レミリアお嬢様は目を閉じながらそう言った。
「そんな…謝らなくても…」
俺はそう言った後、席を立った。
「じゃあ…俺、そろそろ帰ります」
「わかったわ。咲夜、お見送りをして」
「かしこまりました」
咲夜さんは俺が出口の扉に向かうとこをついて来た。
そこへ、レミリアお嬢様が「待って」と俺を止めた。
俺はレミリアお嬢様の方を向いた。
するとレミリアお嬢様はこう言った…
「あなたの傷を癒せるわけじゃ無いけど、辛くなったら、いつでも来てちょうだい。快く歓迎するわ」
レミリアお嬢様は笑顔でそう言った。
「はい。是非」
俺はそう言って扉を開けて出た。
そしたら咲夜さんが前に出て来た。
「お出口はこちらです」
咲夜さんはそう言って案内を始めた。
少し歩いてたら、咲夜さんが話し掛けてきた。
「優翔さん。我が主レミリアお嬢様の事は、どう思いましたか?」
「そうですね。とても良い方だと思います」
「そうですか。でも、お嬢様は実は吸血鬼なんですよ?」
「えっ!?本当ですか?」
「嘘ではございません。何より、後ろの羽根を見たらわかる事です」
「そう言えば全然気付かなかった…」
「まあ、知らない方が良い事だってありますし、気にしなくても大丈夫です」
「いや、俺はその知っちゃいけない事を知っちゃった気がするんですが…」
「あ、ここです」
長々と話していて気が付いたら既に玄関の前だった。
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ。またいつでもいらっしゃってください」
「はい。では…」
そう言って俺は玄関の扉を開けた。
外に出ると、嵐も既に止んでいた。
ふと玄関の方を向くと、咲夜さんが扉が閉まるまでお辞儀をしていた。
そして、館の扉が閉じた。
「あぁ~…!何だかとても長い時を過ごした気がするな」
俺は両腕を上に上げて身体を伸ばした。
「さて…帰るか」
そう言うと、俺は走って勢いをつけ、力強く地面を蹴って空を飛び、俺の今現在の家へと向かった。
~紫 視点~
・・・
遅いわね…
いきなり吸血鬼の館に向かわせたのはまずかったかしら…?
でも、後少しで帰って来なかったら、吸血鬼の所へ…
と、私が優翔の家の中でそう考えていた時だった…
「ただいま~!」
この声は…
優翔!?
声が庭から聞こえてきた為、私は戸を開けて庭へ出た。
すると、優翔が飛んで帰って来た。
そして、庭へ優翔が着地した。
「はぁ。あれ?紫さん来てたんですか?」
「えぇ…それより、大丈夫なの?」
「えっ?何がですか?」
「怪我は?具合は悪くない?」
「大丈夫ですよ。てか、何でそんなに…」
「えっ…?あ、いやぁ…」
「まあいいや。そうだ紫さん。今日、俺んとこでご飯どうですか?」
「えっ?いいの?」
「はい。じゃあ、今準備してきますんで…」
そう言って優翔は家の中へ入って行った。
どうやら何とも無いみたいだし…
良かった。
続く…
心の傷は一層深まり…
彼を更に悩ませ、精神を削る…
そんな彼の癒しとなるのはもしや…