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11話 寺の前のボムボイス

優翔は思った。


もし自分が、誰かを殺めてしまったなら……


俺は二度と俺では居られないだろう、と……

・・・






 突如空に大量に現れた神霊と言う霊魂のような浮遊物の異変、この異変を解決するべく、俺達は冥界の奥へと飛び立った。何だか異変を解決するって言う事に大変なモノを覚えるけど、霊夢達を見てると、とても簡単そうに思えてしまうのは、何故だろうか?


 俺の予想では、霊夢達はこれまでに幾度と無くこのような異変を解決へと導いたのだろうと思う。そうで無ければ、談笑する余裕も、遊んでいる暇も無い筈だろう。


「でも、何で優翔さんが私達と一緒に異変を解決しようとしてるのでしょうか? もしかして腕に覚えがあるのですか?」


 ふとして問い掛けて来たのは俺の見知らぬニューフェイス、早苗さん。早苗さんの問い掛けた言葉に霊夢と魔理沙は顔の血の気を引いて青ざめ、二人の顔色を見て妖夢と早苗さんが互いを見合わせて疑問符を浮かべた。


 どうやら、俺が反撃した時の事が今だにトラウマらしい、何故このような事になったかは言わずともわかるけど……。何だか話が進まない為に更なる疑問符を打たれそうなので、ここは俺が何とか収める事にしよう。


「い、いや、何と言うか、力及ばずながら、その……みんなの手助けにでもなれたら良いなぁ、なんて……」


「なんだそう言う事だったんですか。でも無茶しないでくださいよ? 困った時は異変解決のスペシャリストである私達に頼ってくださっても良いんですよ?」


「早苗さん、鼻が伸びてますよ……」


 早苗さんが自称でスペシャリストと胸を張り、堂々と自慢気に言うところを、妖夢に鼻が伸びてるとツッコまれ、早苗さんはわかりやすく鼻を押さえる。その姿に霊夢は鼻で笑い、魔理沙は声を抑えて笑う。


「あぁ! 霊夢さん今笑いましたね!?」


「んふっ、何の事かしら?」


「魔理沙さんも!」


「クククッ、何の事だ?」


「トボけないでくださいよ! 今笑ったでしょ!!」


「何を言ってるかサッパリだぜ」


「変な事言わないでくれる?」


「んも〜!!!」



『ギャオース!!!』



 楽し気にふざけていた俺達の体に突然ぶつかるようにして耳に入って来た爆音。いや、これは爆音なんかじゃない、人の声だ、人が喉から、腹から出してる声だ。


 爆音とも呼べるほどの大きい声が突然俺達を襲い、その音に霊夢は驚き、魔理沙は帽子を押さえ、妖夢は刀を抜かんとし、早苗さんは髪の毛が逆上がった。


「何だ何だ今の音は!?」


「敵ですか!?」


「あれは音じゃない、声よ!」


「お、お、おそろしいですね、おとって……」


「みんな、あれを!」


 魔理沙と妖夢が敵を索敵し始め、霊夢が音を分析した頃に、早苗さんが髪が逆上がって放心状態のまま爆音の感想を述べた。その中で俺は爆音を出したであろう人物を見つけて指差した。


 お寺と思わしき建物の正面で掃除をしている茶色の耳飾り……いや、あれは恐らく耳か。とにかく、茶色の耳と青緑色の髪のよくわからない言葉を放っている少女だ。


「ぎゃーてーぎゃーてー♪」


 ね? よくわからない言葉を放っているでしょ?


「あのーどちら様ですかー」


 声のボリュームの調節の仕方を知らないのか、はたまた調節出来ないのか、少女は俺達に気付き、頭に響く声でこちらに尋ねた。この場合、素直に名前を口にしてしまうのは俺だけだと思うんだ。


「神霊の件でこの先に用があるの、何か知っている事は無いかしら?」


「何も知らないけどー、あなた達アレでしょー? この騒ぎに色々と殺生しちゃう人達でしょー?」


「何だよ、色々と殺生しちゃうって……とにかく評判はかなり悪いって事らしいな」


「そんな、私まだ人殺しなんてした事無いのに!」


「早苗さん、俺の解釈だけど、そう言う事じゃ無いと思うんだ……」


「殺生、楼観剣……いやまだ誰も斬ってなかったんだった。良かった……」


「ここは俺がーー俺は鳴神 優翔! この先を異変の調査として入る事を許可頂きたいんですが」


『ダメだよ』


 少女の思わぬ即答に俺達一同空中でバランスを崩し掛けた。まさか考える事も無く即座に返答されるとは思わなかった、こうなると何と無く"アレ"に発展するような気がする、いや絶対発展するね。


「ならちょっとした殺生をしなくちゃいけないわね、これは」


「だな、悪いが私達は強いぜ」


「いや、待ってちょっと二人共! ここは俺が」


「優翔さんが行くまでもありません、ここは私が一瞬で……」


「いや、だからここは俺が」


「そうですよ、アマチュアの優翔さんが出るより、ここは私が行ってカッコ良くキメた方が!」


「いやあの……」


「お前がどうにかするには良いんだが、私は何か心配だぜ……」


「そうね、私も何か心配だわ」


「そんなに心配しなくても、ある程度はやれるから大丈夫だよ」


 俺は少女の居る目の前に降りて、これまで戦ってきた事を思い出す。思えば良い事無しで戦いに発展して、それで俺は度々記憶に悩まされる繰り返しで、"心殺"を発動させてきた。


 頼む、今回は、今回だけは出ないでくれ! フラッシュバックも、連想させるような出来事も……! もし出たら、相手は妖怪、人間とはワケが違うが、それでも自分が自分の手に負えない!


「ったく、そう言う事じゃ無い(・・・・・・・・・)んだよなぁ……」


「そう言う事じゃ無いって、一体どう言う事なんですか? 優翔さんに何かあるんですか、魔理沙さん?」


「この際だから言っちまうが、優翔は……奴は、強い。それもかなり……」


「優翔さんが強い? でもさっき優翔さんは"力及ばず"と、まるで自分じゃ戦力の足しにならないような事を言っていたのに」


「そう言えば、幽々子様が変な事を言ってました。『あなた異変を起こしたそうじゃない。話を聞かせてもらえるかしら?』ってーーまさか幽々子様は優翔さんの実力を知っていたのでは……」


「或いは、それを見越した結果とも言えるわね。今の優翔さんには紫が強く絡んでる。共に異変解決に出れば、確実に私達の手助けにはなる。でも、間違いなく異変を起こした者、絡んだ者が"被害者"になる。その事を知った上の事なの……? 紫……!」


 今、俺の目の前には少女が居る、妖怪の少女だ。だが殺すな、断じて、流血するな、させるな、迫る攻撃は全て避けろ。でなきゃ、何がスイッチになるかは俺も全くわからない、気絶させるだけで良い、これは俺の挑戦だ。


「よし、始めよう!」


「何だかやる気だね、私も修行の身だけど、負けないよ!」


 少女は掃除に用いてた竹箒をゆっくりと石畳みの上に置き、空気を一度全て吐き出してから深く深く息を吸い込む。直後、少女の口から出た叫び声が音の衝撃波へとなり変わる。


「音なら遮断出来れば良いんだけど、ここに遮断物は無し。なら、逃げるしか……」


 俺は勢いよく駆け出して少女の周囲を周るように走り、音の衝撃波を躱す。少女の真横にまで移動した時、俺が先ほどまで立っていた石畳みが震えたのをこの目で確認した。


「危なかった、音って意外と遅いって聞いたから、どうなのかと思ったけど、本当に遅くて良かった」


「どうかな? 音は確かに遅い、でも弾は速い筈だよ!」


 少女は俺の居る方向とは反対側に鱗のような形の青い光弾を複数飛ばし、それがそのまま飛んでいく事なく、見えない壁にぶつかるようにして跳ね返った。


 跳ね返った複数の光弾は上側の見えない壁と横側の見えない壁を跳ね返って全て俺に向かって来たのだ。奇妙な事に何も無い、俺が呼称する"見えない壁"に当たって跳ね返っているんだ。


「んなバカな!? 何も無い場所を跳ね返るなんてどう言う仕組みだよ!」


 理解し難い現象に俺はただ必死に走って避けるだけ。迫る青い鱗弾を寸でのところで何とか躱す事が出来たが、一体何なんだ? 何故光弾が跳ね返るんだ?


「私は幽谷 響子(かそだに きょうこ)! あなた、山に向かって叫んだ時、声が返ってくる"山彦"を知ってるでしょ?」


「あぁ、知ってる」


「それ、全部私だから」


「……へぇ。それで?」


「それでじゃないでしょ! もう人の苦労も知らないで!」


「苦労と言うか、科学的に山彦は山の肌に当たった音が反響と言う形で聴こえる現象の事だと思うけど」


「うぅ……もう嫌……とにかく、私の声は反響を利用して壁を作る(・・・・)。文字通り、"音の壁"よ!」


「と言う事は、さっきの光弾の跳ね返りもまさか」


「そう! 音の反響で出来た壁に跳ね返った」


「さっきの音の衝撃波はただ放っただけじゃなかったのか」


 つまりは解けた、音はいつか潰えるから、いつまでも音の壁が在るワケじゃない。でも、音の壁がある間は弾が忙しい、弾が終わってもまた音の壁を展開されたんじゃそれまでだ。


「じゃあどうしたら……」


「余所見はしない!」


 響子の声に気が付いた俺は目を見開いて前を見ると、目の前には真っ直ぐに長い楕円形の赤い光弾が一発飛んで来ていた。しまった、考える時間が長過ぎて隙だらけだったか!?


 間一髪で頭を下げて赤い楕円弾を避ける事に成功ーーそれも束の間、俺の背後に僅かな熱と後ろ迫る危機感を身に受けた。まさか、この熱とこの感覚は……!


 ドバァッ


 刹那、俺の背中には火のように熱い物体が直撃し、後ろ迫る危機感は痛覚へと変化していた。響子の放った光弾が音の壁に跳ね返り、俺のガラ空きの背中に被弾したんだ。


「うおッ!!?」


 突然現れた背中への痛みと熱に驚いて仰け反るが、勿論背中が痛いので前に倒れ込む。この痛み……そうだ、紅魔館でも似たような痛みを受けたんだ、でもあの時はナイフ、今度は正真正銘の弾幕。


「おい大丈夫か優翔!」


 膝と手を地に付いて四つん這いになっているところ、魔理沙が後ろから声を掛けて来た。振り向くと魔理沙は少し離れた距離から危ない物を触るような表情で居る。


「大丈夫! ちょっと当たっただけだッ!」


 魔理沙に返事をしようとするところでも休む間も無くやって来る光弾を俺は声に状態を表しながらその場から飛び退く。音の壁を跳ね返る、差し詰め、危険な弾(ピンボール)と言ったところか、常識外れで困るぜ。


 スペルカードとやらで何とかしたいが、生憎俺にはスペルカードが無い(・・・・・・・・・)、と言うか、有るには有るんだが、使ってはいけない気しかしない。唱える時はいつも無意識なんだ、どんなモンなのかもあまり正確には把握出来ないんだ。


 そんな危ない(もの)使えるワケ無いだろ!!!


「そろそろ決めるッ! 大声『チャージドクライ』!」


 響子が大口を開けて音の衝撃波を放った後赤い鱗弾を前方に広く飛ばした。するとだ、光弾は何も無い空を跳ね返りながらこちらに接近しつつ徐々に解きほぐれるように且つ一斉にバラけ飛んだ。


「なんて忙しいんだ! やってらんないよ全く!」


 嫌になるほど忙しい弾幕が飛び交い、ばらけ、体力が底を突こうとしていた。これ以上動いていられない、まだ弾幕は止まない、赤い鱗弾が散らばり続けて息も切れる。


 ふと気が付いた時、俺は鱗弾の飛び交う空間のど真ん中に立っていた。鱗弾が飛び交ってるって事は、まさかであって、俺は知らない間に響子の音の壁の範囲に入ってしまっていた。


「なッ!? しまっ……」


 無論鱗弾の中心に居た為に避ける間など無く、俺はギリギリの防御を行って鱗弾のダメージを抑えた。しかし弾の量が多く、全身に隈無く被弾してしまい、服が光弾の熱で所々焼け落ち、服が焼け落ちて露出した皮膚は火傷を負い、僅かに焦げ色が付着していた。


「熱ッ……痛ァッ!!」


 意識が遠退いていくような感覚だ、でもおかしい、何故かまだ力は有り余ってる……。いや待て、力が有り余ってる状態で意識が遠退くなんて、あり得ない筈だーーまさか……!?


「これはまさか……あれ?」


 再びふとして気が付いた時には、俺は何故か暗闇に佇み、何の音もしない、聴こえない空間に居た。そして目の前には映画のようなモニターが俺の記憶にある親や友達が映された。


「これは、俺の記憶の……みんなが流れてーー何だこれはッ……!? やめろ! まさかここで……!!? ここッでッガァッ!? ああああああああッ!! ァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」






・・・"心"ガ"殺"されていく・・・


・・・間モ無ク"情"すら絶エテしまおう・・・


・・・お前ニ"心"など必要ナイ・・・


・・・タダノサツリク者ヘト堕チルノダカラ・・・






『ヤメロオオオォォォォォォォーーー!!!』



 俺の意識は確かに残っていた、残っていたんだ……でも、感情が出ないんだ、何も感じないんだ……。ただ、目の前の光景に目を移すだけなんだ、それだけなんだ……。


 誰か、誰でも良い……俺を、この俺をどうか、止めてくれ……。誰かを殺す前にどうか、誰か、止めてくれ……頼む…………。








続く

誰か、止めてくれ……


無感情の奥で響く悲しき叫び……


しかし、その声が届く事は無かった……

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