不死の賢者と囚われ幼女
何となく思いついて書いてみた。
不死の賢者と囚われ幼女
――魔力。
それは魔に属する忌むべき力である。
「う、ぐす……」
幾分幼い少女は首に鋼鉄の輪を嵌め、壁から両手足に延びる鎖は縛った人間の可動を拒絶していた。
少女は嘆く。 ――ああ何故自分がと。
少女はうずくまり、ひたすら涙を流していた。
「帰りたい……」
其処は王宮の地下に位置する人には知られざる場所。 ――魔力を持つ忌むべき人間を収容し、飼殺す牢屋である。 魔族と同じ力。 魔族と同じ異能。 人独りで国家を転覆させることも可能な力。 古より魔力持ちの人間は迫害されるまでもなく持って生まれた時点で殺された。 赤子より上が存在しない。 ――何故なら魔力を感知するモノがあるからだ。
――それでも、極稀に魔力を持っているにも関わらず生き延びるモノ達が居る。
囚われ、嘆いている少女もその一人だ。
少女の居る其処は魔力持ちが集まる場所である。 そして、壁から少女を縛る鎖は魔力を吸い上げ、強制的に生命力に転換、余った魔力を王宮の、城下街の結界を張る供物にされている。 ――一度そこに捕まれば、自殺か老死より逃げる術はない。
囚われた当初は魔力を操り、行使し、逃げ出そうとするモノもいるであろう。 だがしかし、直ぐに気付くのだ。 ――ああ、此処からは逃げれないと。
ここに囚われる人間は稀――そもそも生まれて直ぐ殺されるため――であり、また囚われたモノ達も直ぐに絶望して死を望むのだ。
「お母さん……」
嘆く少女の母は既に殺されているだろう。 だが、少女は知らない。 知る必要も、知る術もまたない。
「よう、お向かいさん」
「え……だ、誰」
と、そこで嘆く少女に声をかける存在がいた。
その声を当てに顔を其方へと向ける。
「ひっ!?」
「酷いなぁ。 一応仲間だろう? 仲良くしようじゃないか"魔族堕ち"ちゃん?」
「っ!?」
少女の肩がビクッと震えた。
その声の持ち主は手を槍で壁に縫い付けられ、絶えず血が地面に染み込んでいる。 勿論手足には鎖が付けられており、しかし手は縫い付けられている為に足は地についていない。
少女は痛くないのだろうかと思う余裕もなく、平然としているその存在に恐怖を覚えた。
「どうにも怯えられてるね、参ったねこりゃ」
そんな少女を一目で見抜き、ため息をワザとらしく吐く男。
「オジサンは何もしないから大丈夫ダヨ」
「……痛く、ないんですか」
お道化る様に言うその男に勇気を振り絞って声をかける少女。 尤も、その肩は震えているが。
「いやぁ、痛いのなんのって地獄の苦しみとは将にこの事さ。 いやはや、600年こうしているとは言え、痛いモノは痛いよねぇ。 何事も慣れるなんて絶対嘘だね嘘」
600年。 何の冗談だろうか。 この男は美しい白い布で出来た服を羽織り、その下には無地で真っ黒な服を着ている。 下半身も然りだ。 それら全ては薄汚れておらず、顔には髭が生えていないし髪も伸びていない。 600年は嘘だとしてもこれの何処が長年いる人間であろうか。 自分をからかう男に少女は憤って思わず言い返した。
「そんな見え見えの嘘を吐いてどうしたいんですか。 嘘は吐いちゃ駄目なんですよ。 お母さんがそういってました」
「おやまあ、なんとも立派なお母様だ。 だが嘘は人生を変える大切な要素だよ。 人は嘘無しでは生きていけない」
「……そんなことありません」
「なら君は何故ここにいる?」
「それは……」
そして再び少女はうずくまり嗚咽が牢屋に響いた。 男はバツが悪そうな顔をした。
「ふむ、悪かったね。 お詫びに一つ、昔の話をしてあげよう」
「いらないです」
すねる様に言う少女。
「まま、そういわず聞き給え。 何しろ私が人と話すのはかれこれ36年ぶりだからね」
「嘘、ですよね」
「いや、本当さ。 さて――」
この世には別の世界、異世界というやつがあるのは知っているかい?
そう、男は切り出した。
◇
当時、私はここよりもずっとずっと文明が発達した世界で世界の理を解明していた。 所謂学者というやつだね。
当然、と言っていいのか、その世界には魔力なんて代物は無かったし、異世界なんて宇宙は数あれども存在するはずもなかった。 ――え、宇宙って何かって? まあ、聞き流していなさい。
けれど、私は不幸にも天才だったのだ。 類を見ない天才。 一瞬で世界の在り様を理解し、次々に世界の理を解明していった。 そんな時、ふと考えたのだ。 ――他の世界とやらに行けはしないのか、と。 どうせその世界は直ぐにでも崩壊しただろうしね。
当然、馬鹿にされた。 だがまあ、なんというか成功したのだ。 そして私はここ、フラデイル王国に降り立った。 ――運悪く王の目の前に。
当然私は捕えられ、暗殺しに来たのかと拷問された。 だが、私にとってはそれは新しい人生の始まりだった。 ――って君、引かないでくれ。 別に拷問されたからといって槍で貼り付けにあってるからといって痛いのが好きな変態ではないよ。 コラ、後ずさらない、オジサンハコワクナイヨ?
その時に使われたのが魔法でね。 ――何? 有り得ない? まあ、聞きなさい。
私は歓喜に打ち震えた。 何故か新しい発見に喜んでいたらその次から拷問がされなくなったのも幸運だったね。
そして牢屋に放置されて二日、私は王の目の前に連れてこられた。 そして王はいったんだ。 ――君は私を殺しに来たのかね? と。 当然違う。 私は懇切丁寧に説明した。
するとどうだ、その頭脳を私に役立てるならば自由を約束しよう。 そうのたまったのだ。 私は自由など如何でも良かった。 只々研究がしたかったのだ。 魔法を、魔力を。
それからの日々、私は監視付ではあるが、研究に勤しみ、人生を謳歌した。 ――ツマラナイ? まま、もう少しで面白くなるから聞き給え。
そして五年の月日が経ち、私は魔法というものの扱い方、そして魔力というものの全てを理解した。 ――そのころには王とは親友でね、真っ先に王に報告しに行ったよ。
――魔力を使えば不死にも世界を束ねる王にも成れるんだ! とね。
さて、私は半信半疑の親友に実践して見せた。 攻めてくる他国の軍隊を一つの魔法で全滅させ、その殺しつくした総勢32760名の命を持ってして自分自身を不死へと至らせたのだ。
◇
「それもどうせ嘘なんでしょ。 それだったら貴方はここを抜けれる筈じゃない」
余りに滑稽な話だった為か、少女は余裕を取り戻していた。 だが、そんな少女を他所に男は言った。
「この槍がね、魔力を封じているんだ。 この流れたる血にね、膨大な魔力を宿らせているんだ。 この鎖にね、魔力を吸い続けられているんだ。 この地下がね、私の不死性を微弱だけども魔力と共に張り巡らせているんだ。 ――だから此処に入れられる人間は何もしなくても生きていける。 何も食べなくても大丈夫。 何も飲まなくても大丈夫。 何も動かなくても大丈夫。 何も排泄しなくても大丈夫。 尤も年は取るけどね」
「そんなのって……」
ショックを受ける少女に男は言った。
「哀れだよね。 尤も、不死というのは、自身の時間を止める魔法なんだよね。 頭が吹っ飛んでも、脳髄が沸騰しても、手足が千切られても、健康だった頃に巻き戻る。 時間がね、使った瞬間に巻き戻るんだ。 でも記憶は維持している。 其処が一番気を使ったとさ! 死んだ瞬間、記憶が無くなるんじゃ面白くないし簡単すぎる!」
誇らしげに言う男を少女は気味悪く思った。 ――男の目には狂気が渦巻いている。 濁り切っている。 そうだと良かったのに。 男は純粋だった。 ただ、自分の研究成果を自慢しているだけ、それだけなのだ。 人から外れようとも、魔王を超えた化け物になろうとも、男に興味があるのは自分の研究だけ。 それだけだ。 純然たる無邪気であり、完全なる狂気。 それがこの男の全てだった。
「まあ、後は簡単だ。 我が親友は私を恐れて、殺そうとした。 ――その時は不死を確認しようとしたのかとでも思ったんだけどね、まあそして死なずに傷が瞬時に治り、笑いかけた私を殺せないと理解したのだろう。 王宮に帰る途中でね、後ろから襲われて呆気なく気絶しちゃった。 殺されてないからね、気絶はするよね。 で、私の研究を元にこのシステムを立ち上げた訳さ」
「そ、それじゃあ――」
男は少女の声にかぶせる様にして言った。
「そう、魔力持ちが忌避されるのも、この牢屋の存在も、全て初代王のせいさ。 全く、酷い話さ。 解放せずにここにやく600年。 性格には597年入れてるんだから。 ――この牢屋はね、僕を監視する為だけにあるんだ。 それが何時しか忘れられ、世界の在り様が変わって魔力持ちが忌避される様になって魔力持ち全てがここに入れられる様になった。 上の結界は実質私一人だけで大丈夫だというのにね」
やれやれと語る男に少女は恐怖した。 全て、自分が発端だというのにそれを何も理解していないのだ。 全て王の責任だという。 違う、責任があるのはこの男だ。 そして、そんな何千万人という人間を一瞬で塵芥にし、あまつさえその奪った命を弄び永遠の命を手に入れる。 何の冗談だ。 だが、男ならやりかねない。 男が不死なのは、貫かれた腕より絶えず流れ出る血を見れば明らかだった。
「さて、話は終わりだ。 どうも最後まで聞いてくれて有難う。 願わくば良い隣人であることを願うよ」
一人は些か退屈だからね、と男は締めくくった。 ――暫くして、少女は自分が考えたこの地獄を脱出する手口を手にする為に口を開けた。 例えこの目の前の悪魔しか手がかりが無いのだろうと、それが母親と再開する事が叶うのならば。 魔力を持った自分を育ててくれた母親。 父親がおらず、母の手一つで育ててくれた。 大好きな母親に何としても会うんだと心に固く誓って。
「私に、ここから抜け出せる力を――魔法を教えてください」
ある時、突如王宮の地下から爆発が発生し、王宮は壊滅した。 当然、王宮に勤務する神官、大臣、貴族、騎士団、近衛兵、そして王宮に住む王の一族。 ありとあらゆる人間が巻き込まれて死亡した。
そしてそれから一ヵ月後、王宮に携わる殆どの人間が死に混乱の最中にあるフラデイル王国が消滅した。
原因は不明。 どうやったのかも不明。 ただ、膨大な光と魔力が観察されたという。 ――そしてそれと同時刻、一人の魔王が世界に誕生を告げた。
「すべての魔力持ちを私の国へと渡せ」という一言と共に。
少女…またの名を幼女。 母親大好き。 マザコン。
賢者…あり得ない天才。 白衣を着ていて、自身研究で世界がどうなろうと知ったこっちゃない。 元々いた世界でも自身の研究によって滅びそうになっていた。 600年くらい囚われているが、思考できれば大体は大丈夫なので地獄の痛みに負けず頑張っている。 ぶっちゃけ全部コイツのせい。 現在は32760名の命を変換した魔力を持っているが、32760名を殺した魔法は大気に漂う魔力を使用した為ぶっちゃけこいつに魔力は必要ない。 不死も大気の魔力で補たりする。 チート
魔王…言わずとも幼女である。 母が殺されたことを知り、絶望。 賢者直伝の魔法で王国を消滅させ、二度と悲劇が起こらぬよう魔力持ちをだけの国を作ろうと奮闘。 だけど多少から回っていて魔王として世界の敵認定されている。 幼女。
魔族墜ち…魔力持ちにつけられた蔑称。 魔族というか、魔物が世界に存在するが、魔族とは魔力を持ったモノ。
魔力持ち…別に魔力を持っているからといって魔族という訳では無い。 魔力の力を恐れた初代王が殺す様に命じ、また、危険性を世界に解いて現在にいたる。 賢者にしか理解できないレベルなので、賢者を地下にやっとけばここまでする必要もなかったと言える
初代王…絶世の美女。 実は賢者の事好きだったりするが、賢者の無邪気さを危惧し、苦悩の中王の責務を全うした。 魔力持ちを世界から排除したのもこの人。 ちなみに、賢者は色恋沙汰に関心が皆無な為、結局報われない。
拷問課の皆さん…賢者を拷問していたが、魔法を使った瞬間に歓喜に打ち震えた姿を見てドン引きした。 中にはトラウマになった人もいたという。 間接的にこの人たちのせいとも言える。
幼女の母親…超子煩悩な素敵お姉さん。 幼女を取り上げられ殺された哀れな人。