01 邂逅
数分で黒の隊服に着替えてロビーに向かった。
三階の自室から黒い鉄製の螺旋階段を下りていく。この階段はロビーと直接繋がっているので移動するのに楽だ。
おかげでロビーには程なく着いた。すでにロビーにはミネアを除く隊員たちが待っていた。隊員たちの目はやや充血気味で体も気だるそうである。先ほどまで寝ていたことが窺える。アイマスクをしている者さえいた。
その中で一人落ち着いた様子で地図を見ている者がいた。第二十一部隊隊長イーザンだ。短く整えた藍色の髪に銀縁の眼鏡は、いつ見ても知的な印象を受ける。
ミネアは到着したことを伝えにイーザンに駆け寄る。
「すみません。遅れました」
ミネアはそう言ってイーザンに頭を下げ、その次に隊員にも頭を下げた。
イーザンが軽く頷いて周囲を確認した。とりあえず怒っていない様子にミネアは安堵する。
イーザンは全員いることを確認して、手を叩いて注目を集める。作戦内容が告げられるようだ。先ほどまでだらけていた隊員たちの目の色が変わる。真剣な眼差しでイーザンを見つめる。
イーザンは納得したようで話し始めた。
「皆、非番の日に呼び出してすまない。だがこういう場合もありえるということだ。切り替えて作戦に移るように」
イーザンの命令に、隊員たちの眠気は完全に去った。もうすでに戦地へ赴く眼に変わっている。
「ではまず現状を確認する。エーリ、頼む」
イーザンが隣のエーリに話の綱を渡す。エーリはこの隊の情報伝達の役割を担っている者だ。
エーリが一歩前へ出て説明する。
「私から説明させていただきます。午前一時五十分に巨大な幻影をレーダーが感知。当直隊の第二十部隊が現場に向かいましたが十分も耐えきれず敗北。死者は出ていませんが、骨折などの重傷者が三名出ています。また同隊の情報管理者によると敵は一体だけのようです。敵は現在レグルス中央住宅街を進行中です。ここまでで質問は?」
長い説明を素早く、噛まずに言う。その姿にミネアは毎度のことながら感心してしまう。精巧な機械ではないかと思う。
しかし、そんなことよりも当直隊が十分足らずで敗北したという事実に衝撃を受けた。学生とはいえ訓練を積んだ鎮魂師の集団である。その集団が十分もかからず撤退するとは、今回の幻影は相当ヤバいようだ。
他の隊員たちにも衝撃的だったようで、ザワザワし始めた。イーザンとエーリだけは動揺していない様子だった。
誰も質問しない――あまりにも衝撃的でできない――ので、エーリは話を続けた。
「次に作戦を伝えます。敵は一体だけということですので、全方位からの一斉攻撃を仕掛けます。そこでまず囮が敵を引きつけ、防戦を繰り広げているうちに残り全員が攻撃を仕掛けてください」
「囮は誰がやるんだ?」
どこからともなく質問が出てきた。
声の正体は、一番裏でアイマスクをしていた男、シャマルだ。アイマスクから少しだけ覗かせる瞳はどこか楽しそうだ。
ミネアは背中がゾワゾワしていくのを感じた。シャマルは普段気だるそうにしているが、こういう誰かがやらなくてはいけないという時に目を輝かせる。そして罰ゲーム的なノリで誰がやるか決めてしまう。
エーリがため息を一つついてから答えた。またあなたですか、と言いたげな表情である。
「囮はまだ決まっていません。何か良い人がいますか?」
エーリの機械的な対応にシャマルがニヤッと不敵な笑みを浮かべた。そして迷うことなく、いるよと答えてミネアの方を見た。ヘラヘラとした顔がさらに歪んでいく。
ミネアは悪魔を見た気分だった。
シャマルが全員に聞こえるように大声で宣言する。
「囮役は一番最後に来た人にやってもらいま~す」
その瞬間に大きな歓声が上がった。自分じゃなくてよかったと万歳する奴もいる。その光景にミネアはがっくり項垂れる。出動をこれほど疎ましいと思えたことはない。
気付けばシャマルがミネアの前に来ていた。ミネアの気など知らず、シャマルはどこまでも愉快そうである。終いには満面の笑みで、右手の親指を立ててグッとミネアに突き付けてくる。
ミネアは吐き捨てるように呟いた。
「……一度死んで来い」