02 入学と入隊
乱暴に開けられた扉からずかずかと人が入ってくる。
靴音は三つ。そのうちの一つだけが力強く乱暴だった。おそらく扉を蹴ったのはこの人だろう。
アスレイの背後から来る音だったが、アスレイが振り向くことはなかった。そのときアスレイは、何故だかその人物が脳裏に浮かんでいた。昨日出会った少女、活発で行動力のありそうな少女。だから忘れるはずがない。
――確か名を。
「第二十一部隊副隊長ミネア=スターチス! 只今参上しました」
アスレイの予想通りだった。昨日で少しは慣れたが、もう少しボリュームを下げてもらいたい。
声を荒げながらも言葉づかいは礼儀正しい。少し硬すぎるかもしれない。その後に遅れながら男が二人ついてきた。
「失礼します。第二十一部隊隊長イーザン=オーキッドです」
「失礼しまあす。第二十一部隊隊員シャマル=ターナップでえす」
イーザンはミネアに比べ落ち着いた様子で、冷静な隊長の風格だ。一方、シャマルは間抜けた言葉で態度もどこか気だるそうな印象を受ける。
オズウェルが無言で頷き、どうしたねと訊ねる。
「どうしたね……じゃないですよ! 呼び出したのは校長先生じゃないですか!」
ミネアが声を荒げたまま答える。
アスレイの横でルピナスが耳を塞いで、予想以上だわと嘆いた。そうでしょうとアスレイは笑った。
そんなことは知らずミネアが続ける。
「『式の前に校長室に来てくれ』って言ったじゃないですか。一体何の用ですか? 他の生徒に迷惑になりますよ」
一気に畳みかけてきたミネアにオズウェルは思わず耳を塞ぐ。どちらが生徒だか分からない。
「……まあ落ち着け」
ようやくイーザンが宥めて、渋々ミネアも静かになった。
オズウェルが一つ溜め息をついて前を向いた。どうやらオズウェルはミネアが苦手なようだ。
「すまんな。君たちを呼んだのは別に気まぐれではない」
「そんなことは分かっています」
「まあ、そうせっかちになるな。……というより気付かんかね? 呼ばれた訳が」
「分からないから訊いて……」
そこでミネアの言葉が止まった。今まで冷静を欠いていたので周りがよく見えていなかったのだろう。ミネアの視線が白いソファに向けられる。そこに座っている二人に、特に栗毛の少年に向けられる。
どこかで見た後姿。どこかで見た栗毛の髪。その背中から感じられる強いオーラ。昨日感じたあの大きな力に似ていた。
忘れるはずがないその名がミネアの脳裏をよぎる。
――アスレイ=スヴェン=エーデルワイス。
「お前……何で、ここにいる?」
その言葉がアスレイに向けられたのは明白で、それを無視することはできなかった。アスレイはソファから立ち上がって振り向く。燃えるような赤い瞳でミネアを見つめる。
そして微笑んだ。
「また会いましたね、『先輩』」
『先輩』に力を入れて、楽しそうにアスレイが答えた。隣のルピナスがニヤニヤしていたのがむかついたが。