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戦慄の鎮魂歌  作者: 片瀬 瞬
月夜の支配者
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01 邂逅

 アスレイは再び足に力を集中させる。今度は一気に幻影に追いつくために最初から火足を使う。アスレイの両足が次第に赤みを帯びていく。そして、空間が熱を帯びたかのように蒸気に包まれる。

 アスレイが準備はできたか、とミネアを見る。するとアスレイに比べて力を弱いものの、両足は赤みを帯びていた。どうやら彼女も炎の鎮魂歌を使えるらしい。

 

「あなたも炎の鎮魂師か……」


 感慨深げに言うアスレイにミネアは怪訝な顔をする。そして即座に問う。


「それがどうしたのだ?」


 ミネアがおかしいか、とやや不機嫌なのが見てとれたので、アスレイはすぐに修正する。


「いや、別に。ただ、昔あなたみたいな炎の鎮魂師がいたのを思い出しただけです。……といっても僕もその子も子供でしたけどね」


 その瞬間、ミネアは、アスレイが自分のことを言っているのではないかと思った。夢で見た光景は現実にあったことで、その時は栗毛の少年に助けられた。何よりも燃えるような赤い瞳が印象的だった。そういえば、こいつも……。

 ミネアはアスレイの顔を見つめる。やはり栗毛で、燃えるような赤い瞳をしていた。

 その瞬間、ミネアは胸の高鳴りというか、妙な親近感をアスレイに覚えた。まだアスレイがあの時の少年だと決まったわけでもないのに。それにアスレイの言っている子が自分と決まったわけではない。

 しかしながら、頭で分かっていても心ではどうにも意識してしまうものだ。アスレイをちらっと見ると、怪訝な顔でこちらを見ていた。


「ええと、どうかしましたか?」

「な、なんでもない!」

「……何で怒ってるんですか」

「お、怒ってなどい、いない! さあ、そろそろ行くぞ」


 アスレイはまだ怪訝そうな顔をしていたが、これ以上会話をしていると口が滑りそうだ。迂闊にも、「あの時の少年か?」と訊ねればどうなることやら。

 ミネアは高ぶる感情を抑えて、赤い足で力強く地面を蹴る。燃えるような赤い光がレグルスに出来上がる。

 納得いかないまま、それに倣う形でアスレイも続く。

 

 ――炎の鎮魂歌独奏、火足


 

 地面を蹴るやいなや、先ほどまで小さかった幻影がどんどん大きくなっていく。アスレイはミネアに合わせて速度を落としているが、それでもミネアの火足も速かった。

 赤い光と化した二人の両足がブゥォォオオという音を立てながら住宅街を駆けていく。もの凄い速さで煉瓦造りの家が後ろに流れていく。

 アスレイが右手を刀の柄に添えた。抜刀の構えに入るつもりだ。左手を払い、ミネアに後ろに下がるように指示する。威力が尋常ではないため、攻撃の余波は横にも及ぶ。もし横に人がいたら腕の一本はなくなることだろう。

 ミネアは素直に後ろに下がり、アスレイの攻撃を見ることにした。

 幻影の黒い肉体が目の前をふさぐ。巨大な壁が目の前に存在しているようだった。幻影はまだこちらに気づく様子はなく、ゆっくりとした足取りで前に進んでいる。一歩進むたびに道路にひびが入り、大きな地鳴りが聞こえる。

 アスレイは高速移動の状態のままタイミングを計る。抜刀する手、狙いを定める表情から尋常でない闘

気が表れていた。もし、対峙していたらその闘気だけで圧倒されることだろう。すでに何もしていないのに、ミネアは巨大なプレッシャーで汗ジトだ。

 アスレイはさらに上体を地面と平行にして、激しい勢いをさらに激しくする。赤い光が更に大きくなる。

 来る。ミネアは直感的に思った。抜刀のタイミングはアスレイ自身が決めることで、後ろからでは抜いた後にしかそれを認識できない。しかし、それでもミネアにはアスレイが抜刀するタイミングが分かった。


「これが、あなたと僕の差です!」


 アスレイがそう叫んだ気がした。高速移動のためうまく聞き取れないのだ。

 刹那、前方からもの凄い力を感じた。言うまでもなくアスレイが抜刀したのだ。しかし、今までに感じたことのないような鋭く、大きな力。空間が割れたのではないかと思った。特に抜刀速度は尋常ではない。数ある剣術の中でも抜刀術は速度において最高の部類だ。ミネアも何回か見たことがある。しかし、これほどまで速いのは見たことがなかった。というより速すぎてよく見えなかった。

 聞こえてきたのは音三つ。

 チャキ

 シュ

 グシュ

 アスレイが行った一連の動作。たった三つの効果音だけで壁のような巨体を斬り裂く一撃必殺の技。

 ミネアはアスレイの実力に畏怖の念を覚える。今まで見てきた中で最強の技、最強の人間だ。自然と追いつきたい、そう思った。生唾が咽喉を通る。

 ――これが、『王都守護六帝』。……アスレイ=スヴェン=エーデルワイス。

 鋭い衝撃はしばらく続き、止んだ。

 刹那、前方からこの世のものとは思えないほど激しい断末魔の音が轟いた。

 そして次に飛び込んできたのは、刀を右へ振り切ったアスレイと黒い血しぶきを上げながら真っ二つになっている幻影だった。ミネアは急いでアスレイに駆け寄る。少なからずともあの技を見て興奮していたのだろう。


「お前……凄いな」

「ええ、当然です」


 アスレイがきっぱり言い切る。少しだけむかつく。

 断末魔はやっと収まりになり、アスレイが二つになった幻影に語りかけた。ミネアにはその横顔がどこか悲しげな表情に見えた。

 それはミネアにとって聞き覚えのある言葉。


「苦しいか? 苦しいよな。でもな、これでお前は救えたよ」


 そう言ってアスレイは微笑んだ。

 黒い肉片と化した幻影は、しばらくして塵となり舞い、そして消えた。

これにて01 邂逅は終わりです!

02でお会いしましょう^^

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