表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦慄の鎮魂歌  作者: 片瀬 瞬
月夜の支配者
10/16

01 邂逅

 右手を柄に添えたままアスレイは加速する。距離はさほどない。火足を使うまでもないだろう。

 幻影も雄たけびを上げて迎え撃つ様子だ。鋭い角が勇ましい。動きはおそらく俊敏ではないだろう。致命傷を負わせてじわじわと攻めるより一気に畳みかけた方がいい。

 アスレイは上体を地面と平行になるように倒す。そして勢いはますます激しくなる。一筋の光が巨大な闇に向かうようであった。

 これはアスレイが得意とする抜刀術の構えだ。低い姿勢で勢いをつけ、そのまま抜刀することによって威力を何倍にも膨れ上がらす。アスレイの数ある剣術の中でも一撃必殺の威力を誇る。

 アスレイは慎重にタイミングを計る。一撃必殺であるがゆえに失敗した時のリスクが大きい。はずせばおそらく相手の格好の餌食となるだろう。ミスは許されない。

 しかし、結果的にアスレイはその一撃必殺の技を放つことはできなかった。

 ――その刹那、けたたましい声が広場に響き渡った。アスレイの声でも、幻影の雄たけびでもない。荘厳な鐘の音を思わせる、力強い声だった。

 次の瞬間、アスレイはその声の正体がわかった。アスレイの視界が上空に人影を捉えた。シルエットからすると女性だが、ルピナスではない。

 おそらくレグルスの学生鎮魂師だ。女学生は幻影の斜め上に位置し、振り上げられた腕には長剣が握られている。絶好の攻撃機会。女学生はこの時を待っていた、と言わんばかりに雄たけびを上げて突っ込む。

 だがそれがどれだけ無謀かアスレイには分かっていた。だから必死に逃げるように叫ぶが届くはずはない。

 くそ、と短く吐き捨てアスレイは高く跳躍した。目標は女学生だ。

 アスレイの体は空中で燃え盛る火炎の如く加速した。やがて赤い光と化して女学生に向かっていく。


「らああぁぁぁああ!」


 女学生の勇敢な雄たけびが聞こえる。気合は十分だ。その意気込みだけは誉め讃えよう。

 しかし、相手が悪すぎる。

 その威嚇する声に幻影が気付いた。突っ込んでくる女学生を認識すると、不気味な赤い目が細くなった。ニヤッと笑ったのだ。幻影からしてみれば、『鴨が葱を背負ってきた』としか思っていないに違いない。黒い腕を顔面付近に上げて防御態勢をとる。おそらくそこからカウンターパンチを繰り出すのだろう。

 そんなことも露知らず、女学生はいざ参らん、と長剣を振りかざそうとしていた。

 だがそれは叶わなかった。

 

 キィィイイイン


 金属同士が激しくぶつかる音がした。何者かの刀が割り込んで受け止めたのだ。

 女学生の目の前には、ふぅと安堵するアスレイがいた。

 女学生は驚愕の表情で、理解できないといった様子だった。しかし、やがて怒り狂った様子で、「何故止めた!」と言う始末である。

 アスレイからすれば、「何をしている! どアホっ!」と叫びたかったがそんな状態ではない。

 ――来た。

 直感的に背後から強烈なプレッシャーを感じた。死神と対峙しているかのような、死を感じさせるプレッシャー。振り向くことはしない。もし万が一でも顔は殴られたくない。顔を殴られたらおそらく潰れることだろう。

 

「グルアァァアア!」


 けたたましい雄たけびとともに、死神と化した幻影の拳がアスレイの背中を捉えた。

 体を砕かれるような音と共に、アスレイと女学生は地面へと叩きつけられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ