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一晩で絆されてしまった─物語の裏側で嗤う者─  作者: ヒトミ


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8/10

体調不良

難民たちを都市まで連れてきて、仕事を紹介した後、ノヴァリーとジャスティーナは都市の観光名所で、新婚旅行を楽しんでいた。


だが、疲れが出たのか旅行中、ジャスティーナが体調を崩したため残りの期間宿屋で過ごし、王都の公爵邸に戻ってきていた。


ジャスティーナは大丈夫だと気丈に振舞っていたが、ノヴァリーは大事をとって彼女の部屋で休ませていた。


自身はロヴァンの執務室に赴き、視察の結果を報告した後のこと。


「……デラルフィス王国との交流会……ですか?」


ロヴァンに隣国との行事があると伝えられ、ノヴァリーは渋い顔になった。


「ああ、そうだよ。国境の離宮で行われる」


ジャスティーナの不遇な扱いを知っているのに、ロヴァンは何の動揺も見せずに言ってきた。


父の考えを読もうと頭を巡らせ、ノヴァリーは一つの答えを見つけて口を開く。


「……ジャスティーナをアスタレスク次期公爵夫人として知らしめるため、でしょうか」

「そうだね。そして、彼女に汚名を着せた隣国の王太子に公式な謝罪を要求するための行事でもある」


ロヴァンが落ち着いている理由が分かり納得する。頭では理解しているのに、拒絶感が首をもたげて自制できない。


「ジャスティーナを王太子の目に晒したくありません。まだ体調も回復してないのに、無理もさせたくないです。そもそも、謝罪を要求するより、隣国を叩き潰した方が良くないですか」


その方が手っ取り早いし、ジャスティーナを嫌な目に遭わせずに済む。


ソファの上で足を組み、手に持ったティーカップの中身が波打つのを眺める。


自身の目が仄暗く輝いているように見えたが、ノヴァリーは意に介さなかった。


「……すごい振り切れようだね。どうしたんだい? もしかして、ジャスティーナの過去を聞いたのかい?」

「聞きました。国王陛下がジャスティーナを保護したのは英断だったと思います」


彼女が放逐(ほうちく)されたままだったらと考え、背筋を凍らせる。ジャスティーナが言っていたように、彼女は誰にも知られることなく、その短い一生を終えていただろう。それか、もっと筆舌に尽くし難い目に遭っていたに違いない。


「そうだね。私もそう思うよ。だけどねノヴァリー、大義名分がなければ、我々はただの侵略者となってしまう。分かるよね」


伏し目がちに鋭い視線をロヴァンに向ける。毎回煙に巻けると思わないで欲しい。ノヴァリーは騙されずに反論する。


「大義名分ならあるじゃないですか。あちらはアスタレスク家の次期公爵夫人の名誉を傷つけたんですよ」

「……ノヴァリー、気持ちは分かるが、私たちの肩には守るべき領民たちがいる。無闇に血を流すことはできないよ。だから、王太子から謝罪を引き出すに留めておくんだ。分かったね? これは公爵命令だよ」


ロヴァンの目に一瞬苛烈な光が閃いたように見えたが、すぐにいつもの厳格な眼差しに戻ったため、ノヴァリーは違和感を感じなかった。


「……王太子に反省の色が見えなければ、容赦はしませんから」

「ノヴァ。先走るのだけはやめなさい。いいね?」


ロヴァンの命令に今回ばかりは大人しく従えず、ノヴァリーは抵抗を示した。


それでも穏やかな声で念を押され、渋々口を開く。


「……分かりました。俺はジャスティーナの様子を見てきます」


執務室に居続ける気になれず、ノヴァリーはソファから立ち上がり、ロヴァンの返事も聞かずに退室した。


◆◆◆


執務室を出てジャスティーナの部屋へ向かった。


扉の前で侍女に許可を得て部屋に入ると、彼女はソファの背もたれに体を預け、小さな寝息を立てていた。


顔色はそこまで悪くなく、ノヴァリーは知らずため息をついた。


(結婚式と新婚旅行、しかも領地視察も重なって……忙しくさせ過ぎたな。また交流会で忙しくなる。休めるときに休ませておこう)


ジャスティーナを起こさないように抱え上げ、寝台に運ぼうとしたとき。


「……ノヴァリーさま? ……あ、わたくし、寝てしまって……」

「起こしてしまったな……すまない。(ねむ)たければ寝てていいぞ」


抱え上げた気配でも感じたのか、ジャスティーナがぼんやりと目を開けてノヴァリーを見上げてきた。


「申し訳ありません……なんだか、ずっと、眠たくて」


ジャスティーナは何でもないことのように言うが、ずっと眠いのがまず異常なことだ。ノヴァリーは眉間に(しわ)を寄せた。


「……そう言えば、さきほど、お義母様が部屋を訪ねて下さったのです」

「母上が?」

「ええ。心配して下さったようで。眠いだけで、なんともないのですけれど。明日お医者様を呼んで下さるとのことで。わたくしが、お母様の子だからかとても優しくして下さるのです」


ジャスティーナが嬉しそうに目を細めた。


(母上が先に手を打ってくれたのか。だが、彼女がローザンベリー公爵夫人の子だから優しいと思うのは、違うだろうな)


「それだけじゃないと思うぞ。母上は、ジャスティーナ自身のことも見て接してるんだ。あの人はああ見えて愛情深い人だから」

「ああ見えては、お義母様に失礼ですよ……」


眠そうな声でジャスティーナが(たしな)めてくる。ノヴァリーは彼女を寝台に寝かせ、額に口付けを落とした。


「冗談だ。ところでジャスティーナ。今度、隣国との交流会があるんだが……出られそうか? 医者の判断によっては、欠席することもできるとは思うが。俺は欠席して欲しいくらいなんだが……」


ジャスティーナの顔を覗き込み、懇願するように囁く。彼女は少し頬を赤らめ、ノヴァリーの胸元を押し返してくる。


「交流会……ですか。アスタレスク家の一員として、ノヴァリー様の妻として欠席することなどできません。体調も大丈夫ですよ。起きていられないほどではないのですから。心配し過ぎないで下さい。こう見えてわたくし、とても丈夫なのですよ? 心も体も!」


ジャスティーナに押し返され、ノヴァリーは渋々寝台の横に置かれた椅子に移動した。


彼女はノヴァリーの動きを目で追ってきながら、自身の胸元を軽く叩く仕草をする。


「心が強いのは分かってるが……医者に止められなかったらだぞ。無理はしないでくれ」

「はい、分かりました。ありがとうございます」


ノヴァリーが念を押すと、ジャスティーナはぼんやりとした目つきで答えてくる。その後、口元を押さえて小さくあくびを漏らす。


「何かあったら呼んでくれ。おやすみ」


ノヴァリーはジャスティーナを休ませるため、(いとま)を告げて後ろ髪を引かれながら部屋を出た。

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