共闘とは? 方法・メリットについて
シエル様から水晶と薬をいただいてから五日。
「そろそろだと思うんだよなぁ」
私は薪割り用の斧を背負って、街への道を歩いていた。その目的は、商人からの板材の購入。
斧の刃は何かに刺さらないよう、分厚い布で包んでいる。
『要救助者の防衛』。
それが、次に発生するクエストの名前だ。
『1.森の中で倒れている夫婦を見つける
※発見速度が早いほど、防衛時間が短くなる
2.魔物が出現するので、制限時間の間夫婦を守る
3.防衛対象が倒れるムービーイベント発生。その後『怒れるフルムーンベア』との戦闘
4.城へ戻り、兵士と会話する』
(中略)
前回と違って、こちらはクリア必須のクエスト。
今後に大きく影響するはず。
ここで、シエル様のメイドである私が活躍すれば……
「というのは思い上がりかもしれないけど、何かヒントがあるかもしれないし」
小さな望みを内に秘めつつ、探索を続けた。
運命の始まりは、ぬるりと目の前に現れる。
「ひっ」
「あ」
数十分ほど探索を続けていると、怯えた男女に遭遇する。
二人とも黒い長袖に白い長ズボンというラフな格好。
動きやすそうだが、戦闘には向いていない。
そのうち片方、女性は地べたに座り込み俯いている。
「あっ、あの! その!」
「落ち着いて、何があったか説明してください」
我ながら白々しいと思う。
夫婦が倒れていることを知ってて声をかけたというのに。
「も、森の中に見たことない生き物がいると、妻から聞いて。それで探していたら、妻の意識が突然……」
男性の話を聞きつつ、私は胸ポケットから水晶を取り出した。
それから小さな声で「シエル様」と呟く。
「分かりました、ひとまず街まで戻りましょう」
シエル様の隠れ家と街の方角は、何となく頭に入っている。
道案内をすべく女性を担ごうとした、その時。
「おーい、そこに誰かいるのか!」
新たな登場人物に、私たち全員が固まる。
考えてみれば、彼が登場するのは当然だ。
この世界の主人公にして、将来シエル様と魔王を倒す者。
「「勇者様!」」
「おや、君は……」
青い塗装に金縁の鎧、腰には鞘から光が漏れ出ている剣。
頭は隠しておらず、金髪と黒い瞳の凛々しい顔立ちが目立つ。
「その節はどうも」
「あの時のメイドか。ということは聖女シエルも生きてる……っと、そんな場合じゃなかったな」
「負傷者一人。街への道は、分からなければ私が案内します」
「任せた」
勇者は私から視線を切ると、その場から離れて剣を抜いた。
「俺が護衛する! 君たちは走れ!」
「「はい!」」
防衛戦、開始。
勇者ブレイヴロナ・プレテンス。
愛称ブレイヴ……なのだが、ほとんどの人が『勇者』としか呼ばないため忘れかけている。
圧倒的な身体能力と、様々な武器を使いこなすセンス。
そこに行動力が合わさり、戦闘のエキスパートとして名を馳せている。
加えて財力もあるから、惚の字になっている女性も少なくないのだとか。
その理由が、目の前で披露される。
「前です、勇者様!」
「任せろ!」
私が言い終わるより早く、魔物の群れと私たちの間に立ち塞がる勇者。
私の稲妻切りと同じくらい早い。
「アテンション・ウォール!」
その場で剣を掲げ、無視できない魔力を放出する勇者。
相手はそれぞれ狼型、鷹型、猪型。
それから、人の頭ほどあるカブトムシ型が二体。
その全てが、弱そうな私たちを置いて勇者を狙う。
「スラッシュウェーブ!」
勇者によって掲げられていた剣が、そのまま振り下ろされる。剣先から青白い衝撃波のビームが飛んだ。
『ギェ__』
『ギャウゥゥッ』
鷹を縦に捌いてからも、衝撃波は止まらない。
そのまま直進し、後ろにいた狼に直撃。
『フゴオォッ!』
「パワースマッシュ!」
突進してきた猪に対し、剣で迎撃。
剣が折れてしまう__という心配は不要で、まるで野球のボールとバットのように猪を吹き飛ばした。
『フゴッ、ゴ、オォッ』
地べたに転がる猪。その顔には深い剣跡が残り、大きなダメージを負ったのは一目瞭然。
その隙に、カブトムシ二体が勇者の後ろへ回り込んでいた。
「勇者さ__」
「分かっている!」
振り向き様に剣を振る勇者。
直前まで見えてなかったにも関わらず、その一閃は狙い済ましたかのように二匹を一刀両断した。
この間、僅か六秒。
「怪我はないか?」
「あ……はい、勇者様は」
「ふっ、見ての通りだ。戦闘で俺の心配はいらない」
頼りになるキメ顔を見せられ、私の心がトクンと動く。
『いや、お前は元男だろ』とツッコミが入るかもしれない。
だが、あの動きに加えて優しさを見せられたら、転生前でも漢として惚れる。
しかも今の私は女なのだ。
強い男に惹かれるのは、本能的に仕方ない……と思いたい。
そんなことを考えている間にも、次の敵が向かってくる。
「俺が迎撃する! 君たちはそのまま進め!」
私たちの返答を聞く前に、勇者が先行した。
湧いては倒れる魔物の残骸を避け、私たちは歩みを進める。
「勇者様、頼りになるなあ」
勇者が一筋の光に見えているのだろう、男が目を輝かせる。
「……なんで私、勇者に転生できなかったんだろう」
「メイドさん、何か言いましたか?」
「いえ何も、あと私のことはルナと呼んでください」
小さな不満を噛み砕きつつ、私は警戒を続けた。
あれから十分ほど歩き続けただろうか。
「長い……」
「自分たち、森で二十分ほど歩いていたので」
確かに移動時間も長いが、私が言ったのはそういう意味ではない。
女性が息絶えるまでが長すぎる。
いや、それ自体は素晴らしいことだ。
死んでくれと言いたい訳ではない。
しかし、
(攻略Wikiでは『最長で五分』って書いてたんだけどな)
ゲームでは、しばらく防衛戦を行った後に女性が死亡する。
無念に泣き崩れる男性へ追い討ちをかけるように熊が出現……という流れだったはずだが。
(あくまでここは異世界。攻略Wiki通りに行かなくて、助かる可能性がある?)
実際、女性を救える可能性があるのは嬉しい誤算だ。
少しでも物語をいい方向へ進められれば、シエル様を生かすキッカケを作れるかもしれない。
とはいえ。
攻略Wiki通りに行かないのは、ストーリーの筋書きだけじゃない。
「メイド! 少しまずいかもしれない!」
勇者の叫びに、男性が青ざめた顔をする。
勇者が何を相手取ろうとしているか、私はその目でしっかり捉える。
『グオオオオォォォォォ!!』
「ひいっ!」
身体にビリビリと響く、重低音の咆哮。
咄嗟に縮こまる男性。森の奥から、恐ろしいシルエットが頭を覗かせる。
黒い体毛と、背中は大きな日の丸模様。
威嚇と攻撃のために立ち上がると、体長は四メートルにも及ぶ。
本来は、女性の死後に現れる『怒れるフルムーンベア』。
それが三体。
「ひえっ」
商人のストーリーから何となく覚悟してたけど、流石に肝が冷えた。
難易度調整がヤケクソすぎる。
なんだ三体って。
地獄か。
「メイド、構えろ! 二体までなら俺が相手する!」
一見すると冷たい言い方だが、私にとっては最大限の奮闘に聞こえた。
ボスの中でも五本指に入る持久力と攻撃力。
一体だけでも苦戦するフルムーンベアを、同時に二体相手するのだ。
対策を頭に叩き込んでいても、並のプレイヤーでは返り討ちに遭う。
「ここが踏ん張りどころか」
胸ポケットに入れていたポーションの蓋を開け、一気に飲み干す。
食道が焼ける感覚と共に、全身の血液が沸騰するような興奮。
効き目はバツグンに感じた。
「どこまで行けるかな」
担いでいた女性を降ろし、斧の布をほどく。
「シエル様……」
神への祈りに似た感情を、ペンダントに握り伝えた後。
『オオオォォォォ!!』
「行くぞっ!」
怒れるフルムーンベア戦、開始。
『ステータス
・名前 ブレイヴロナ・プレテンス
愛称 ブレイヴ
・性別 男
・年齢 22
・職業 勇者
・武器 光臨の御使 +10
・防具 ビヨンド・ザ・ヒーロー +10
・アクセサリー 豪勇の証
・レベル 75
・HP 849/853
・MP 786/850
・攻撃 912
・防御 780
・魔法 747
・スピード 699
・特技
勇者の心得 レベル5
炎魔法 レベル4
剣聖 レベル0』
ファンタジア・フロムアビス勢からの評価:まあまあ理想のステータス もっと良い武器をガチャで引けば完璧
この物語を面白いと思っていただけたら
・ポイント(星)入れ
・ブックマーク
・リアクション
・感想
などなどポチっとしていただくと、すご~~~~~く励みになります。
今後とも、よろしくお願いいたします。