表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/14

戦闘の解説・システムについて

 この世界には、五種類の魔法が存在する。


 炎、水、雷、光、闇。

 それぞれ炎は火力が出やすい、水は防御に特化している、といった感じで、特徴が付与されている。


 生前のゲーム……ファンタジア・フロムアビスでは炎一強だった。


 『やられる前にやれ』戦法は、どんな舞台でも安定した選択肢だ。


 そんな事前知識を持つ私が極めた魔法は、勿論__



「ステータス、オープン」

 人によってはお決まりの文言を、私は誰も見ていない庭で唱える。

 すぐに、視界の左横に半透明のウィンドウが表示された。


『ステータス

・名前 ハルカナ・アノメル

 愛称 ルナ

・性別 女

・年齢 23

・職業 メイド』

(中略)

『・レベル 45

・HP 356

・MP 202

・攻撃 313

・防御 323

・魔法 159

・スピード 347』

(後略)


 元ゲーマーから言わせてもらうと……「パッとしない数字」。これに尽きる。



 レベルは、凄く端的に言うと総合力を表している。


 ()()と戦う、筋トレで力をつける、たくさん勉強するといった行動で、ジリジリ上がっていく。


 薪割りや読書、ランニングをしていると、気付いたらこの数字が上がっていた。

 それから意識的に上げるようになり、今に至る。

 


 じゃあこの数値は高いのかというと、そんなことはない。


 勇者のステータスはこれの倍あるし、装備を特化させれば四桁を越えることもある。


 とはいえ、次に起こる出来事には問題なく対応できるはず。

 ステータスウィンドウは開いたまま、今度は攻略Wikiに目を向ける。



『サブイベント「聖女お抱えの商人」攻略チャート』

(中略)

『・イベントは無視できる


このイベントは商人を襲う魔物を討伐するだけのイベント。


 クエスト「要救助者の防衛」発生条件を満たすと、このイベントは見られなくなる。


ストーリーを見たい人以外は、無理に行かなくていい』

(中略)

『魔物一覧

・狼(Lv.30~35)×3』



「うん、問題ない」


 敵と数値を見比べて、私は頷いた。


 攻略に書かれている魔物と私が正面から戦えば__油断が命取りにはなるが__余裕を持って勝利できるはず。


 事前確認を終えたと同時に、



「うっ、うわああぁぁぁ!」


 どこか遠くから悲鳴が聞こえた。男の声だ。


「来たか」


 外で待機すること約二時間、冷たい風に当たりつつウォームアップした甲斐があった。


 私は斧を担いで、シエル様の隠れ家を後にする。




 今から助けに行く商人は、シエル様と個人的な取引をしている。


 ゲームとしては、追放されたシエル様がどのように生き延びているか示唆するためだけのイベントである……

 というのが、プレイヤー目線での話。


「シエル様に関係するなら、話は別だ」


 尖った枝や葉が服に当たるが、それによって躓くことはない。


 黒いドレスのような質感に、白いエプロンやフリルが付いたメイド服。

 特殊な加工が施されているおかげで、草木を掻き分ける程度では破れたりしない。

 市販の服と比べても、動きやすく傷つきにくいのだ。



 軽く触れたが、私は主人公__勇者には転生しなかった。


 その理由は分からないが、今はどうでもいい。


 大切なのは、世界をハッピーエンドへ向かわせたまま



「シエル様に、寄り添えることだぁーっ!」


 茂みを抜け、あらかじめ構えていた斧をスイングする。

 標的は、目の前にいる狼の魔物!


「稲妻切り!」

『ギャアァアウゥッ!』


 斧の先端から、バチバチと静電気のような衝撃。狼の側面へ、水平に大きな傷を付ける。



【稲妻切り】。


 元のゲームでは、MPを消費してちょっと威力が高い物理攻撃を繰り出す技。


『雷を身体と武器に纏い、素早く切りつける』みたいな説明文はあったけど、それだけ。


 使ったところで大した活躍はできない、と、思っていたのだが。



「ひっ、ひいいいいいい!」


 ちょび髭を生やしたおじさんが、私の登場にビビり後ずさった。

 小太りの身体に茶色のライフジャケット、ベージュ色のズボン。

 背後には、物資を積んでいるであろう荷車が倒れていた。


「シエル様の遣いです! 助けに来ました!」

「おっ、おお! 渡りに船だ、何とかしてくれ!」


 おじさんと魔物の間に立ち、斧を構える。


 相手の数は三体、すべて狼型。事前情報の通り。


「私なら……やれる!」


 斧を右に構えながら、私は正面から突っ込んだ。



『『ガウァアアア!』』


 同じく正面から一体、右から一体。


 左にいる一体は、私の不意打ちに怯んだまま。


「稲妻切り!」


 技名を叫び、全身に魔力を流す。

 分かりにくい表現だが『全身に力を入れる』みたいなイメージだと思ってほしい。


 そして、強化された身体で地面を強く蹴り上げる。


 大きく跳躍し、斧を……


 振らない。


『ガウゥッ』

『……ウガ?』


 狼達の目には、私が突然消えたように見えただろう。

 斜め上の空中へ跳躍した私は、狼の後頭部を捉える。


「__稲妻切りっ!」


 流れ続ける魔力を消費して、宙を蹴る。

 放たれた弾丸のようにグンと狼を追い抜き、斧を横に振るった。


 狼の胴と頭が別れる。血は出ない。

 残り二体。


『ガアァッ!』


 私の居場所を把握した狼が、即座に左足へ噛みついてくる。


「痛っ、この、【帯電カウンター】!」

『ギャウッ!』


 力を込め、身体に強力な電流を流し込む。

 突然牙が痺れたことで、狼は咄嗟に噛みつきを中断する。


「今だぁっ!」


 振るったままだった斧を持ちかえ、一閃。


 口から目まで大きく切り開き、狼は動かなくなった。口裂け狼の完成だ。

 残り一体。


『ウルッ、ル、ガウッ!』


 怯んでいた狼が回復し、私に向かってくる。


「このっ!」


 こちらの攻撃は間に合わない。斧の柄で防御。

 それから、斧ごと狼を蹴りつける。


『グウッ!』

「うっ……!」


 ジイイン、と足が痺れた。


 斧と狼、以外と重い。

 そんなのを、しかも怪我をした右足で蹴ったから、脚へのダメージが半端じゃない。


『グル、ガアッ!』


 すぐに斧から口を放し、私に飛び込んでくる狼。

 私は、その動きを()()()()()


「稲妻切り!」


 斧を持たないまま、私は駆け出す。

 攻撃する時のスピードだけが反映され、狼のすぐ横を高速で通りすぎた。


 無論、その先にあるのは。


『ガゥア__』

「遅い!」


 再度斧を握り、狼の尻へ一撃。

 そこまで深い傷は付かない、それも予測済み。


「もう一発!」


 相手が振り向くより先に、傷口へ向けて一撃。


 狼の身体が大きく切り開かれ、動かなくなった。

 残り、ゼロ体。



「……ふぅ」


 戦績としては上々だ。

 もっと噛みつかれて痛い思いをすると思っていたから、かなり奮闘したほうだと思う。


 足から血は流れているが、致命傷ではない。

 感染症だけが不安だ。



 雷属性は、ゲームでは最も不遇な属性だった。

 その理由は、雷の特徴は『スピード』だったから。


 行動順が早くなるとか、攻撃頻度が縮まるとか、その程度の効果しかない雷魔法。


 その全てを掛け合わせても、火力では炎属性、援護では光属性の劣化だったのだ。



 でも、それはゲームでの話。


「こんな三次元戦闘ができるって、知っちゃったらね」


 やられる前にやれ、と対を成す戦法__『当たらなければどうということはない』が、この世界では実現できる。


 今は被弾しているけど、いつかもっと鍛練を積んでいけば__



 と、考え事をしていたら。


「おいっ、まだだ!」


 商人の、悲鳴にも似た叫びが聞こえて我に返る。


 振り替えると、三体の狼の遺体……その奥の茂みから、新たな狼達が顔を覗かせていた。


 その数、五体。


「……嘘でしょ?」


 しかも、さっきの奴らより明らかに図体が大きい。


「冗談だよね__」



 地獄の第二ラウンド、開幕。


『『『ガアアアア!!』』』

「わぁーーーっ!」


 半泣きになりつつ、私は斧を構える。


「かっ、【雷嵐】っ!」


 斧に魔力を込め、回し切りの要領で凪う技。

 合計三体の狼に当たるが、傷は浅い。


『『ガルルッ!』』

「あぐっ」


 続けて二体が、攻撃終わりの隙を突いて私の両足に噛みついた。

 さっきの戦闘より、ずっと大きい苦痛と血が流れる。


「帯電カウンターっ」


 咄嗟に反撃するが、狼は離れない。

 むしろ、絶対に放すまいと牙を食い込ませてくる。


「このっ、もう一度」

『グアアァッ!』


 足の拘束をどうにかする前に、先ほど攻撃した狼が向かってくる。


「ひっ、稲妻切り!」


 飛びかかってきた狼に向かって、アッパーのような形で斧を振るう。


 迎撃には成功するが、それだけ。むしろ


「あぐうぅっ」


 ズキリ、と足の痛みが増した。


 稲妻切りは、踏み込みと同時に相手へ切りかかる技。

 足が固定されている今、ダメージが大きいのはむしろ__


『『グアアアァァ!』』


 考える暇もなく、続けて二匹が私を噛み千切ろうと飛び付く。


「こ、来ないで!」


 斧を振り回して、何とか勢いを相殺。相手にダメージは見受けられない。


 一方の私は、足の激痛がどんどん増していく。


 流れ出る血の量を見るに、あと数十秒後には立っていられないかもしれない。


 ほんの少しの猶予で、私が出した結論は。



「逃げて!」


 囮作戦の決行だった。


「はっ、だ、だが」

「私は勝てない! だから逃げて! 遠くに!」


 叫んでいる間にも、次の攻撃が来る。


「シエル様のためにもっ__」


 足の痛みに耐え、迎撃。帯電カウンターで抵抗。

 狼が怯む様子はない。


「早く。」

「あぁっ……くそ、分かった」


 怯えたような、しかし意を決したような商人の声。


 駄目だったか、と、私は内心で項垂れていた。


 この程度のイレギュラーにも対応できないようでは、シエラ様と幸せゴールインなんて夢のまた夢。


 転生したこの世界からそう言われたようで、無力感と悔しさに苛まれる。


 どうしようもない気持ちを、斧に込めて狼にぶつける。

 相手が倒れる様子はない。


(こんなことなら、好感度なんて気にせず)

 シエル様にボディータッチしとくんだったなぁ。


 そんな欲にまみれた後悔と共に、私の意識は段々と薄れた。




 その意識を、一気に引き上げる声。


「【フィアー】」


 声の主を中心に、重い波動が飛んだ。

 それは周り吹き飛ばしたりせず、しかし、骨の髄まで()()()()()を響き渡らせる。


 彼女の正体を、私は知っている。


「去りなさい」


 たった一言で、あれだけ私が苦戦していた狼達が退いていく。


 両足から牙が離れ、ようやく自由になる。


「それとも……私とやり合うの?」

『『グルルッ』』


 今度は魔法ではなく声で敵意を見せられ、狼達が一斉に解散する。


「み、ミサエル様。何故、貴女のような方が」

「理由なんてどうでもいいでしょう。それよりも」


 ミサエル・セントヒトリ。それは、私が敬愛する方のフルネーム。

 つまり、そこにいるのは__


「随分と頑張り屋なのね、ハルカナ」

「シッ……シエル様~~~っ」


 ボロボロの身体、ぐちゃぐちゃの顔。

 それでも、シエル様の名を叫ぶ衝動には抗えなかった。


 聖女お抱えの商人、クリア。

『ステータス

・名前 ハルカナ・アノメル

 愛称 ルナ

・性別 女

・年齢 23

・職業 メイド


・武器 薪割り用の斧

・防具 メイド服

・アクセサリー 無


・レベル 45 → 46

・HP 54/356 → 58/360

・MP 32/202 → 35/205

・攻撃 313 → 319

・防御 323 → 328

・魔法 159 → 161

・スピード 347 → 353


・状態異常 怯え


・特技

 雷魔法 レベル3

 メイドの心得 レベル3

 攻略Wiki レベル0』


ファンタジア・フロムアビス勢からの評価:平凡 ギリギリ使えないこともない



※魔法について

 対応する属性魔法のレベルが上がるにつれ、使用できる魔法の種類と威力が上がる。

 また対応していない属性魔法でも、魔法レベルの半分(小数点は切り捨て)までなら使用が可能。




この物語を面白いと思っていただけたら

・ポイント(星)入れ

・ブックマーク

・リアクション

・感想

などなどポチっとしていただくと、すご~~~~~く励みになります。

今後とも、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ