9:その行動について
目の前で電車が走り去って行く。先程まで乗っていた電車。今日は日曜日だからか、人も多く、俺が空けた席はすぐに乗ってきた若い男性が取った。
この辺りだと大きな駅だからかこの駅で降りる人多かった。人々は一斉に改札のホームへと流れて行く。俺もこの流れに身を任せる。
駅を出ると懐かしい風景が広がっていた。
ここに来るのは久しぶりだな。数年ぶりか。さて、集合場所まで行くか。
歩いて駅の近くにある広場まで向かう。広場のベンチには一人の少女が座り、その前には二人の男性が立っていた。
ナンパの現場か?初めて見たな。やっぱ夢花ぐらいになるとそういうのもあるのか。
二人は必死に語らっている様子だが、夢花が靡く気配は全くない。真顔ではなく迷惑そうな顔を隠そうともしない。全然興味なさそうだ。
助けるべきか。・・・・・・どうやって?なんて声をかければいいんだ?
ああ、考えてても仕方ない。見てるとなんかモヤモヤするし・・・・・・なるようになれ!
軽く頭を振って前を向き、ゆっくり近づいていく。
あ、今目が合ったな。
夢花は立ち上がって早足でこっちに向かってくる。男たちは近づこうともせず、その場で立ち尽くしている。
「大丈夫か?」
「うん。行こ」
あ、そう?ならいいんだけど。・・・・・・結構覚悟決めてたんだけどな。使わなかったけど、何もないようでよかった。
夢花に続いて歩いていく。男たちは大人しく諦めて反対方向に歩いて行った。
今日の予定っていうのは、夢花の家に行くことだから、ついていくしか俺に出来ることはない。
今更だけど、なんでこんなことになった?誘われたあの日以降かなり粘られたから了承したけど、本当にいいのか?というか行って何するの?
「待たせてごめん。ほんとに大丈夫だったか?」
「全然問題ない。それに時間通り」
夢花は右手でチョキを作って答える。
夢花に連れられて行くとマンションに着いた。階段を登り、五階を歩いていく。
マンション住まいだったのか。ずっと一軒家で暮らしてきてマンションなんて入ったことないから変な気分だ。
いや、それよりも夢花の家に行くことに対する緊張がすごい。女子の家なんて初めてだし、やばい、ほんとに緊張してきた。
「ここ」
夢花はドアを開けるとさらっと入っていく。
「何してるの?上がって」
「あ、お邪魔します」
家の中から感じたことのないような空気を感じて立ち尽くしていると夢花に謎がられてしまった。
いや、異性の家とか初めてだから、仕方ないじゃん。誰だってこうなるよ、たぶん。俺だけだってことはないはずだ。
靴を脱いで家に上がる。
玄関にはさっきまで夢花が履いていた靴以外にもう一足あるから誰かいるんだろう。女性ものぽかったし、母親かな?
「あ、お母さん」
奥にある部屋から一人の女性が出てきた。明るそうな印象を持っているショートヘアの女性。
やっぱりお母さんか。親子揃って美人だな。子は親に似るってことなのか。それに纏っている印象は違うような気がするのにどことなく似てる感じがする。
「あら、友達を連れてくるって言うから誰かと思ったら、男の子」
夢花の母親は驚いた調子で話す。
まぁ、いきなり娘が男を連れてきたらびっくりするよな。それに入学して間もないし。いつの間に!って感じですよね、うん。
「お邪魔します。清原拓斗って言います」
「あら、君が拓斗くん」
「はい、そうです」
え?もしかして母親に話してました、夢花さん?いや、別にいいんだよ。どういうふうに伝わってるのかが心配なところもあるけど。変なこと言ってないよな?信用してるよ?
「・・・・・・そう。夢花の母です。好きなふうに呼んでね?」
好きなふうにと言われましても。なんて呼べばベストだ?知人の親ってなんて呼べばいいのかわからないんだよな。
「お義母さんって呼べばいい」
夢花さん?私、お母さんとはちょっと字が違うような気がするんですけど。気のせいですよね?ほら、お母さんもびっくりした表情してるよ!
「えっと、お母さんお若いですね」
「あらあら、そんなー。お世辞が上手ね」
お世辞のつもりは実際ないんだけどな。めちゃくちゃ若く見えるし。それより、なんかミスったか?話題変えた方がいいかなって思って咄嗟に言ったけど、なんか夢花の目が変なんですけど!
「どうかした?」
夢花は俺の袖を摘んでくる。
「別に何も」
何もって、あなた母親の前だよ⁉︎その、すごい目をされてるから。母親でも予想外なことなのか?
「あの、よかったらこれどうぞ。中はドーナツです」
俺は手に持っていた袋をお母さんに渡す。
電車に乗る前に何か手土産ぐらいあった方がいいかなって思って買ってきたけどよかったな。まぁ、ちょっと他人行儀かって思ったけど。
「そんな気にしなくていいのに。それじゃ、みんなで早速食べましょ」
お母さんは奥のおそらくリビングだと思われる部屋へと歩いていく。俺と夢花もそのあとを歩いていく。
部屋はやっぱりリビングだった。お母さんはもう準備をしてくれている様子だ。夢花はテーブルのそばにある椅子に腰掛けた。
「ここ」
夢花は隣にある椅子を叩いて示す。
ここに座ってってことだよな。四つ椅子がある中でどうしてわざわざそこを示してるのかはわからないけど、今は従うしかないよな。
座って少し待っていると待っているとお母さんが皿とお茶を持ってきてくれた。
「お待たせ」
普通に俺の分も用意されている。自分が手土産に買ってきたのに自分で食べるって変な感じだ。だがしかし、この好意を無碍にするのも失礼だろうし・・・・・・食べるか。
それぞれ「いただきます」と言って食べ始める。
「拓斗くんは夢花とどういう関係?」
お母さんがいきなり尋ねてきた。
まぁ、聞きますよね、それは。たぶんずっと気になってましたもんね。覚悟はしてましたけども。
「えっと、友、達です。はい」
チラッと横を確認してみると夢花はじとっとした目線を送ってきている。
えーっと、何か間違えたかな?僕たち友達だよね。間違いないよね、それは。
「夢花、そうなの?」
ああ、ちょっと待って。そっちにも聞くの?いやでも、間違ってないはずだし、親の前だから変なことは言わないよな?
夢花は俯いて答えない。若干顔が赤い気がするが、おそらく気のせいだろう。
「付き合ってたりしないの?」
お母さんの問いかけを聞くと夢花の顔ははっきりと赤くなった。
「ま、まだ、付き合ってない。というか付き合ってくれない」
うん?最後の方小さくてはっきりは聞こえなかったけど、すごいこと言わなかった?気のせい?あと、ちょっとこっちを横目で見るのやめてほしいなぁー、なんて。
お母さんの顔は驚きのあと、ニヤリとした表情へと移り変わった。
「そっかー。『まだ』かぁー」
「え、えっと」
夢花はおどおどした様子を見せる。
はっきり言ってないだけだけど、親の前だとやっぱりいつものようにはならないんだな。なんていうか、不思議だ。いや、みんなこんなものか。
「そうだ、拓斗くん。連絡先交換してくれない?」
「え、別にいいですけど」
お母さんさんがスマホを取り出したので俺もスマホを出す。そしてそのまま連絡先の交換を済ませた。交換している間、夢花の視線が少し気になったが。
それから会話をしながらゆっくりと食べ進めていく。食事が終わるとお母さんが立ち上がった。
「じゃ、わたし片付けてくるから」
「あ、手伝いますよ」
「いいの、いいの。ゆっくりして頂戴」
「こっち来て」
夢花に引っ張られていく。そんなに力は加えられておらず、優しく腕を掴んでいた。
連れていかれた先は一つの部屋だった。
いや、わかってる。ここはたぶん夢花の部屋だ。
部屋は勉強机にクローゼット、テーブル、あとは本棚とベッドが特に目立っていて、おかしなところのない、いたって普通の部屋だ。
ただ、内装が普通でも女子の部屋だと思うだけで少し緊張する。女子のというワードの力はすごいな。
夢花はベッドに座ってこっちを見つめる。
「えっと、何しよっか?」
「考えてなかったの⁉︎」
「うん」
ノープランだったの?え、ほんとに言ってる?てっきり何かあるんだと思ってたんだけど。それじゃ、俺がここに来た意味って何?
「休みの日も会いたいと思って誘っただけだから」
「じゃあ、なんで家?」
「・・・・・・たぶん知らないかなって、思ったから。気づいたら誘ってた」
たぶんって普通に知らないけど。俺のことなんだと思ってるの?
本当、不器用というかなんというか。出会った時から不思議なことばっかりするな。真意はどこにあってなんなのやら。




