4:今日の予報について
曇り空からわずかに見える太陽は明るさではなく暖かさでのどかな春の存在を知らせてくる。道の端や家の庭に植えられた木々は晴れよりもわずかに暗い景色でもはっきりとわかる青い葉をつけていた。
俺は今登校中だ。今ドアを開けて外に出たばかりだから正しくは登校しようとしているだが。
なぜだか今日は穏やかな気分だ。理由は一切不明だけど。自然と周りの情報が目に入ってくる。
昨日はちょっと早起きしてぼやっとしたまま学校に行ったし、それに今日から通常の授業が始まるからだろう。
これから当たり前のようになる毎日が始まっていく。
・・・・・・何も問題なければいいなぁ。
なにしろ俺は特大の爆弾らしきものを抱えている。
学校のものの一日でファンクラブ的なものが作られているらしい美人に告白されたのだから。しかも初対面で。その件は曖昧になったけど、彼女はまだ俺につっかかってくる。
あの時は混乱してなんか平気だったけど、思い出すと恥ずかしくなってきた。
とにかく、このことがバレたら多分厄介なことになる。ほぼ確実な気もするけど。大きな話題になるだろうし、めっちゃ注目されるだろうし、すごい目をつけられるだろう。できればそれは避けたい。
かと言っても、今俺にできることはなさそうだよなぁ。直接伝えて無理やり距離取るのもなんだかなぁって感じだし。
どうしよっかなー。
「おはよう」
うわっ!びっくりした。
声のする方を見ると一人の女の子がじっと見つめてきていた。曲がり角のブロック塀の先にいたから気づかなかった。
なんでこんなところに夢花がいるんだよ。まだ、俺の家出てから三つ目の曲がり角なんだけど。学校に行くにはそこを曲がる必要なんてないし、もしかして俺を待ってた?
「おはよう。どうした?こんなところで」
「清原・・・・・・拓斗が来るの待ってた」
そんなに恥かしそうにするなら、別に言い直さなくても。
返事はやっぱり待ってたか。わかってたよ、もちろん。でも、確認は大事じゃん?
昨日一緒に帰ったから家の場所は知ってるだろうけどさ。
あれ、そういえばなんで当たり前みたいに待ってたんだ?もしかしたら反対側方向かもしれないのに、一緒の方向だとわかってたみたいに待ってたんだ?昨日どう帰るかも聞かず、聞かれずそのまま帰ったけど。
事実、夢花は俺の家をもう少し先に行ったところにある駅から電車で帰るらしいが、俺、家の場所言ってないよな?
はは、聞かないでおこ・・・・・・。
「じゃあ、行こ?」
「そうだね、夢花さん」
ピタッと夢花の動きが止まった。
「どうかした?」
「い、いや。なんでもない」
夢花は顔を赤くしながら、両手を前で振る。少し待つと上機嫌な様子で俺の横についた。昨日と同じように歩き出す。
「さんはいらないって言ってるのに」
「考えとくよ」
「今からして、今」
だからそれはハードルが高いって。ちゃんでもいいから何か敬称は付けさせて。
「手、繋いでもいい?」
「誰かに見られるかもしれないけど」
「?別に構わない」
こっちは恥ずかしいんだけど。俺とはそこら辺の感性がちょっと違うのか。俺は自分はおかしくないって信じたいけど、夢花といるとなんかわかんなくなってくるよ。
「とりあえず、今は控えてもらえると」
「むぅ。仕方ない」
「助かるよ」
とりあえず今回は引いてくれるらしい。助かった。
「それにしても、今日ずっと待ってた?」
「そんなに時間は経ってない」
「そっか。まぁ、待つぐらいならインターホンとかで呼べばいいのに」
どんな事情でも大体のことは待たせてるとなると申し訳ないからな。これは俺の性分だけど。
「そ、それって、家に行っていいってこと⁉︎」
夢花は目を輝かせている。
もしかしてミスったか?なんか思ってたのと捉え方をしてる気がする。あんまり変なことはしないでくれよ。ほんとに。
「そ、それにしても、それ傘?」
「うん。今日は降るから」
はっきりと明確に答える。
「そうなの?今日は大丈夫だと思って持ってきてないな」
「じゃあ、私のに入れてあげる」
「ありがとう」
なんでこんなに言い切れるんだろう。絶対にないなんて言えないけど、夢花はすごい自信を持っているように見える。
今日の降水確率は四十%だった。数字としては微妙だけど、まだ春先だから大丈夫だと思うけどな。
「ちょっとの時間だけだけど・・・・・・」
「へー」
夢花は少し残念そうな顔をしている。
雨がすぐ止むのが嫌なのか?いや、これ以上は聞かないし、考えないでおこう。