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初対面の美少女が告白してきた  作者: 粗茶の品
3/26

3:互いのこれからについて


「もしかして、待ってた?」


「うん。待ってた」


 そう目の前にいる一人の女生徒は何事もないようにさらっと答えた。その女生徒こと宮咲は毅然とした佇まいで校門に立っている。

 今は二日目の高校生活が終わってこれから下校するという状態だ。しかし帰りのホームルームが終わってすぐというわけではない。俺はさっきまで友人の中取と話をしていて、ここに来るまでに結構時間が経っている。

 教室からここまでの道のりでいなかったから、今日はもう会わないかと思っていたけど、違ったか。

 まさか、待たせてたとは。そうするとなんかちょっと申し訳ないな。

 いや、ここで会うとかの約束はしてないけど。

 宮咲はなんでここにいるんだ?予想はつかないわけではないけどね。

 これまでの宮咲の行動からしてもしかしたら。


「何か用事?」


「一緒に帰ろ?」


 宮咲は少し首を傾けて尋ねてくる。

 やっぱりか。そうですか、そうですよね。予想してましたよ。

 ほんとによくわからない。一体何が狙いなんだ?

 俺と仲良くしてどんなメリットが。


「どうかしたの?」


「な、なんでもないよ。それじゃ、帰ろうか」


「うん!」


 宮咲はピッタリと横に並んで歩いてくる。俺もいつもよりはちょっとペース落としてるけど。

 待たせてたのは申し訳ないけど、時間が遅れたのはよかったかもな。おかげで周りに生徒は少ない。

 こんな状態を見られたらあらぬ疑いをかけられるかもしれない。その場合流れる噂はある程度合ってそうではあるが。

 これからの生活のためにちょっと聞いてみるか。あれな時はちょっと頼んでみますか。


「なぁ、宮咲さんってこれからも俺と関わる・・・・・・んですか?」


「ん?もちろん」


 そっか。これからもか。


「宮咲さんって俺のこと好きって言ってたよね。あれ、なんでなの?正直全く身に覚えがないんだ」


「・・・・・・」


 あれ?宮咲の視線が急に俺から外れた。

 何か言いづらいことなのか、やっぱり。あるいは恥ずかしがっているのか。それとも、傷つけてしまったのかもしれないな。


「ごめん。急に聞いて」


「ううん。いいの。私は君の全部が好きなの。好きになったきっかけは、君にはわからないかもしれないけど・・・・・・」


 俺にはわからない、か。

 そのきっかけを聞いてみたいけど、それは聞かないでおこう。今の宮咲はなんだかいつもよりも暗い表情をしてる。

 それにしても、全部が好きか。愛されてるな。理由はさっぱりだけど。

 くそ。こうなるとなんか言いにくいな。

 でもこれは、宮咲にとっても大切なことのはずだ。

 俺は彼女に釣り合わない。きっと彼女に迷惑をかける。


「その、できれば、学校ではちょっと控えて欲しいんだ」


「えっ。どうして・・・・・・」


 その瞬間、俺が宮咲よりも少し前になった。足を止めて振り返ってみる。

 宮咲は足を止めて俺の顔をまっすぐ見つめる。驚きを隠せない、戸惑いに溢れたような表情を見せてくる。

 この顔を見る限り、彼女の好意はおそらく本物なんだろう。いや、これまでだってわかってたはいたと思う。でもこれでより強まった。

 でも、やっぱり俺には無理だ。

 彼女はものすごい美人で、もう学校中から注目を集めている。

 それに比べて俺はただの凡人だ。容姿にこれといった特徴はない。特技だって特に思いつかない人間だ。

 何よりも俺は彼女が好いている訳がわからない。きちんとした恋心を持つこともできてない。


「その、やっぱり宮咲さんぐらいの美人になると目立つからさ」


「私がいたら迷惑?」


「そうじゃなくて。その、注目をされるのは苦手だからさ。会いたくないわけじゃなくて、普通に話してくれるぶんには全然構わないんだ」


 なぜか咄嗟に否定してしまった。

 ま、まぁ、そうだ。今日みたいにずっと手を握ってるみたいなことで注目されなきゃ問題はないはずだ。


「良かった。君に拒絶されたらもう生きていけないとこだった」


 宮咲は胸を撫で下ろして安心した様子を見せる。

 はは、愛が重いな。いやほんとに。

 それにしても、安心した宮咲を見て俺もなんだかほっとしている。なんでだろうな。


「宮咲さんはその、周りに見られて平気、なのか?」


「私は全然。むしろ、その方が外堀を埋められる」


 たくましいな。

 俺は軽く笑って誤魔化した。

 聞いているうちにだんだん冗談に聞こえなくなってきた。

 宮咲がいつもに戻ったからよしとするか。


「ね、ねぇ。私からも一つお願いしていい?」


「なに?」


「あ、あの」


 宮咲は何かもじもじしている。

 叶えられるようなものだといいんだが。何か変なものが来そうでちょっと怖いな。


「な、名前で呼んでいいかな?」


 は?名前で呼びたい?


「ふっ」


 なんか急に笑いが込み上げてきた。

 今まで、付き合ってだとか、キスしたいだとか、手を繋ぎたいとかをさんざん恥ずかしげもなく言ってきたのに、名前を呼びたいでこんなことになるのか。


「ど、どうして笑うの?」


「悪い、悪い。いいよ。それぐらい。好きに呼びなよ」


 宮咲の顔が急激に明るくなる。

 あ、ちょっと待って。これ、変な呼ばれ方したらさっきの頼み事ほぼ意味なくならない?

 やっべ。しくじったかも。だけど今更訂正するのもなー。


「拓斗」


 宮咲は満面の笑みを浮かべる。すごい喜びを感じてそうな顔だ。


「なに?」


 良かった。名前呼びだ。敬称ないけど。あれ、これ良かったのか?

 もういいや、本人が嬉しそうだし、その顔が見られたから妥協しよう。


「拓斗」


「はい?」


「拓斗」


「どうしたの?」


 宮咲は笑顔のまま何度も名前を呼んでくる。俺の目をじっと捉えて。

 と思ってたら、急に止まった。なんだったんだ?

 宮咲は正面方向を向き直した。顔は笑っているように見えるけど、名前を呼んでいる時よりも何か違う感情が混じっているように見える。

 名前。俺を向いて何度も下の名前を。

 もしかしてそういうことか。

 試してみるか。もし駄目でも、嫌われることはないだろ。ないよな?

 いざするとなるとちょっと恥ずかしいな。


「どうかした?夢花さん」


「っ!!」


 宮咲はとてつもない勢いで俺の方を向く。

 やっぱ間違えてたか。あー、恥かし、恥かし。

 俺は何か居た堪れなくなって顔を逸らす。


「ごめん。やっぱ迷惑だったかな」


「ち、違う。全然全然。むしろ嬉しい」


 そっと宮咲の方を見るとまた違う表情をしていた。さっきのものにさらに幸せを追加したようなそんな笑顔に見える。

 やっぱり、なんか気恥ずかしいな。自分からやったけど、やめることは・・・・・・。


「やっぱ、いきなり名前呼びは良くないよね。今のは忘れて」


「だ、大丈夫。ほんとに呼んでくれると思わなかったからびっくりしただけ。呼んで。どんどん呼んで。なんだったらさんもいらない。ない方が好ましい」


 宮咲は名前呼びを是非と勧めてくる。

 合ってたな、予想は。こうなることは予想外っていうかしてなかったけど。

 今思えばなんで先のこと考えてなかったんだろ。

 それよりも今は、これをどうするかだ。

 宮咲は今か今かというこっちを見てくる。

 期待を裏切るのもあれな気がするし、流石に名前呼びをこれからも続けていくのは恥ずかしいな。

 でもなー。うーん。

 俺はチラッと宮咲の顔を見る。

 俺の責任か。


「わかったよ。夢花」


「っ!!はい!!」


 ドキッ。なんていう効果音が似合うような何かが胸の中を飛んでいった。


「誰かの前では戻すから」


「えー、どうして?あと言うの忘れてたけど、敬語とかもいらないからね。自然体で話して」


「頼むから今はこれで妥協してくれ」


「仕方ないね。拓斗が言うならそうするよ」


 夢花は人前でも名前を呼ぶつもりなのか?止まれそうもないけどさ。

 止まっていた俺たちの足は揃って勝手に動き出した。

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