26:初対面について
俺はいつもの場所で夢花を待っている。夢花に話さないといけないことがあるから。
じーっと待っていると突然ポケットの中のスマホが震えた。
もうすぐ後夜祭が始まる。後夜祭中は運動場で流れる雰囲気ある音楽の中でダンスするも、体育館の有志によるバンドなどを聞いたりも教室でゆっくりするも自由だ。
片付け中は使用禁止だったスマホは片付けが終わればなぜか解禁される。
さっき使った後ポケットに入れっぱなしだったスマホを取り出す。
あれ、メールが一件来てる。今時普通のメールなんて、誰からだろ?
メールを開いて中身を確認すると宛先には占葉叶子と書いてある。
あれ、俺あの人にメールアドレスなんて教えてなかったよな?なんで知ってんだ。
これも得意の占いでか?だとしたら占い師ってあまりにも強くない?
どうして知ってるかなんて考えても仕方ないから俺はないように目をうつした。
『拝啓、なんて堅苦しいのはいらないよね。どうしてメールアドレス知ってるんだって思ってるだろうけどお母さんに頼んだら快く教えてくれたよ。「拓斗と仲良くしてくれてるみたいだし。あの子があんなに気楽に話せる人って少ないのよ」だって。君って意外とそういうやつだったんだね。
まぁ、そんなことより占ってみたんだけどどうにかなってよかったね。君がどうにかできなかったら手を貸してあげようと思ってたけどいらない心配だったみたい。まぁ信じてたけど。君なら一人で大丈夫だって。それじゃ、お幸せにね。
追記 返信はいらないよ。お礼がしたいと思うならぜひお店に来てお金を出してってちょうだい。』
全く母さんはなに勝手に教えてるんだ。母さんなら普通に教えてそうでちょっと困るな。
はぁ、でも一応信用はしてるし今は良しとするか。
この人の占いはほとんど当たってたし。ていうかあれって占いなのか?占いってすげぇな。
お礼の返信は断られたし、今度店に行ってみるとしますかね。心配してくれたのは本当っぽいしな。
俺はスマホの電源を切ってポケットにスマホをしまう。
「ごめん、お待たせ」
振り返って階段の上を見ると夢花が駆け降りてきていた。夢花は急いで降りて俺の目の前に立つ。
「大丈夫だから、そんなに急がなくてもいいのに。片付けで遅れたのか?」
「うん。ごめんね」
「だから問題ないよ」
後夜祭が始まるまであと十分と言ったところ。準備も大詰めで、生徒達も次々と移動を開始している。
片付けで遅れたっていうのもあるが、後夜祭一緒にって誘われたっていうのもあるんじゃないか?
そうだとしたらこっちを優先してくれて嬉しいな。
「さっきの・・・・・・」
夢花は少し俯いて呟くように言う。俺には言葉を躊躇っているようにも見えた。
「さっきのって陽波のやつか?」
「うん。・・・・・・何もなくて、よかった」
心の底から安堵したような声が夢花から出てくる。
よかった、安心してくれているみたいで。どんな理由でも悲しませるのはもう嫌だったから。
前回の夢花ような弱った顔も時々していた思い詰めたような顔もできればもうしてほしくない。
あんな目に合えば陽波も、もう夢花に手は出さないだろう。もし出してきたとしても今度はちゃんと守ってみせる。
「でも、どうして?」
「たまたまあいつらが話してるのを聞いたんだ。それで事前に対策してた」
「そっか。拓斗はもう大丈夫なんだね」
「そうだよ」
ああ、脅かしてくる存在はもういない。俺にも夢花にも。これからは安心して日々を過ごしていくことができる。
平和な毎日、平穏な学校生活を。
「なら、あとはちゃんと好きになってもらうだけだ」
夢花は顔を上げてこちらを見つめる。整った可愛い顔つきで微笑みかけてくる。
夢花がこんなにしっかり言ってくれてるんだ。俺もちゃんと言わないとな。でなきゃあまりにも失礼だ。
「好きにならもうなってるよ」
「・・・・・・え?」
夢花はぽかんとした顔を浮かべた。
え、まさかその反応は想定外だったの?それは一体どういう顔なの?
いやいや、そこに引っかかってる場合じゃない。めちゃくちゃ大事なことまだ言えてないんだから。
「俺、思い出したんだ。前回、一回死んだこと。俺はトラックに轢かれて死んだ」
「え、拓斗も、なの?知ってるの私たちの出会いも、さい、ごも」
「ああ、思い出したよ。忘れててごめんな。ほんと、ごめん。あと、ありがとう、夢花」
「っ‼︎」
夢花の顔は一気に赤くなった。ゆっくりと瞳には涙が浮かんでいく。その涙が溢れる前に俺の胸に飛び込んできた。
きっと一人で俺のことを思って行動してくれていた。俺にも記憶はあったはずなのに忘れて、ずっと一人にしていた。
俺は自分が忘れていた理由がわからない。
一つ気になるのは俺が一つ夢花と出会う以前なのに前回とは違う行動をとっていたことだ。
俺は入学式の日確か中取に誘われて一組を訪れていた。でも、今回は違う。俺は頭痛でその誘いを断った。
だから、もしかしたら夢花には同じ目をあってほしくなくて無意識のうちに記憶を封じ込めて関わりを避けようとしていたのかもしれない。頭痛はその無理やり忘れた副作用だって。
なんて思ったりもしたけど、自分のこと美化しすぎだよな。過去に戻った反動か何かで忘れてそれで頭が痛くなったからちょっと変わっただけなんだろう。
俺は結局一人忘れてた酷いやつってことなんだきっと。
俺は優しく腕を夢花の背中に回す。
「ごめん、ごめんね。守れなくて、守られてばっかりで。私のせいで、拓斗は」
涙をこぼしながら謝罪の言葉を吐いていく。
そうか、自分のせいなんて思ってたんだな。俺が庇ってトラックに轢かれたことを。
「謝らなくていいよ。夢花のせいじゃない。俺もひとりにさせてごめんな」
背中に回していた腕に力を入れて夢花を少し抱き寄せる。夢花も俺の体を強く掴んだ。
夢花はただ泣いた。なんの変哲もないただの少女のように。
今はいっぱい泣けばいい。溜まっていたものをここで吐き出してくれ。
◆
夢花はしばらく俺の胸で泣いていた。おかげで俺の服が少々濡れている。
「落ち着いたか?」
「うん」
いつも昼食を食べている時みたいに座る。
前回もこうして二人で昼ごはん食べてたんだよな。そして今回もここで同じように食べてた。不思議な話だよな。
「私、拓斗が死んだあと自殺したの」
急に話しかけてきたと思ったらめちゃくちゃ重い内容。
自殺なんてそんなそこまで追い詰めてたなんて。でも、あそこで助けなきゃそこで死んでたかもなんだし。
「どうして自殺なんて?」
「きっと拓斗が死んだ時、私壊れたの。あれから思いがはち切れそうで苦しくて、自殺したってお母さん達を悲しませるだけだってわかってるのに、生きてるのに耐えられなくなった」
夢花は静かに話す。ゆっくりと過去を振り返るように。
相当、相当だったんだろうな。
違うと考えようとしても、自分のせいにせずにはいられなかったんだろう。もし、あそこに自分がいなかったらって。
「気づいたら入学式の日に戻ってた。どこを見てもあの日の入学式で。チャンスだと思ったの。もう一度会えるって。だから拓斗を探し回った。会いたいって気持ちが抑えられなくて。今度こそは守ってみせるって誓った。ずっと側にいたかったから。でも、拓斗は一人で解決しちゃったね」
夢花は自嘲するように軽く笑う。
俺たちは確かにあの日初対面だった。ただ未来で起こるはずの記憶を持っていただけで。
ああ、全部納得がいったよ。
告白してきた意味も、あの日のメッセージの内容も、夢花のお母さんが伝えてきたことも不思議なことが多かったけど、ようやく繋がった。
時間、かかりすぎたよな。
俺は夢花を手を伸ばして抱き寄せる。
「全部、夢花のおかげだよ。夢花が覚えていてくれたから未来は変わったんだ」
俺が違う行動をとっていたって同じことにならないとは限らない。それにそうなれば夢花と出会わないことになってしまう。
それは嫌だ。なんて好きになった今だから言えることかもしれないけど、これだけは自信をもって言える。
夢花と出会えることは幸せだと。夢花と一緒にいられるこの世界の方がいいと。
「夢花、俺は一人忘れてた酷いやつだけど、俺と、付き合ってくれないか?もう夢花以外の人を好きになれる自信がないんだ」
きっと夢花以上に好意を持ってくれる人なんていない。誰かをこんなにも思って行動する人が一体世界中に何人いる?
俺はそんな人に出会った。
二度も出会うことができて、らしくないかもしれないけど、運命のようにも思う。
夢花をじっと見つめると夢花は顔を赤らめて少し目を逸らした。しかし、次はおもむろに視線を俺の視線に合わせきた。
ほんと可愛らしい仕草だと思う。ずっと見ていられる気がする。
「喜んで!私もあなた以外の人、好きになれる気がしません!」
言葉をいい終わると勢いよく飛びついてくる。俺は夢花の体を腕で離さないよう捕まえた。
「拓斗、目、瞑って」
真剣にこっちを見つめてお願いしてくるので俺は大人しくそれに従う。
目を瞑った瞬間、唇に柔らかいものが触れた。柔らかいものはすぐにどこかへ離れていく。
「お、おい⁉︎今何した⁉︎」
びっくりして目を開けると夢花は恥ずかしそうに顔を隠している。
もしかして自分でやってすごい恥ずかしがってる?
「い、いいじゃん⁉︎相思相愛だってわかったんだし⁉︎ずっとしてみたかったの!」
夢花は顔を赤くしながらヤケになったように言う。
ほんと、どうしようもなく可愛いな。俺なんかでいいのか心配になるよ。
「ごめん。ちょっとびっくりしただけ。駄目なんてわけじゃない」
「じゃあ、今度は拓斗がしてくれる?」
「え?あ、ああ、もちろん!」
俺が返事すると夢花は目を瞑った。今か今かと待ち構えているように見える。
もちろんなんて言ったからにはやらないわけにはいかないよな。
覚悟を決めろ、俺。ていうか覚悟決めてから言えよ、俺。何ちょっと勢いで言ってんだよ。
これ、同じようにしなきゃダメかな?ダメだよなぁ。絶対同じようなの期待してるよな。
よし、やってやるわぁ!
お互いの唇が触れるまで顔を近づけたが一瞬しか無理だった。
「えへへ、やった」
夢花は目を開けると嬉しそうにそう呟いた。それを聞いただけで俺の緊張はどこかに吹き飛んだ。
その笑顔が見れるなら安いものだよ。
そうだな、これからはこの笑顔を見るためならめちゃくちゃ頑張れる気がする。
俺達は一回目は二人出会うことも少なく生きてきた。でも、また出会うことができた。
今度は一緒に生きていこう。前回の分も幸せになってみせるんだ、二人で。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです




