25:秘密の想いについて
陽波真矢
ずっと可愛いねって周りに褒められて生きてきた。
生まれた時から他の人とは一線を画して私の見た目は秀でていた。
外を歩けば周りの人から注目され、そこに座っているだけで、人が集まってきて、何も言わなくても困ったことがあったら手を貸してくれる人ばかりだった。
でも、そんな美貌だけではいつかは飽きられてしまうかもしれない。
そこで他人の注目を集めるために必要なのは、性格だ。誰からも好かれるいい子。今、この地位を維持するためにはそれが必要だ。
だから私はずっと演じてきた。そうして他人の上に立ち続けてきた。
周りから崇められ上から見える景色はとても眺めがいい。
でも、私と同じ位置に立っている人物がいる。宮咲夢花だ。
私と宮咲はいつも周りに比べられていた。
幼稚園から今まで、ずっと同じところに通って、クラスが別れたことなんて一、二度しかない。
宮咲も私と同様にそこにいるだけで注目を浴びていた。
私が浴びるべき注目を、私のものをあの女は奪い去っていく。
周りの奴らはあいつとこの私を並び立ててくる。
なんとも腹立たしい。
この私があの女と同格?あのヘラヘラとのらりくらりしているだけの女と?
私は努力している。みんなの悩みを聞いてあげて、率先して手伝ってあげて、話しかけてあげて、他人を平等に扱っている。
でも、あの女はずっと受け身だ。自分からは滅多に何かしようとしない。頼まれたことを頼まれたままにこなすだけ。
それなのにこの私と序列が同じ?なんなら人によってはあいつのほうが上?
ふざけるな!どう考えたって私の方が上のはずだ!みんな私の方が好きになるはずだ!そうじゃないとおかしい!
私の方が上なのに周りはそれに気づかない。あの女も自分の方が下だって意識して自ら下がろうともしない。その場に居座り続けてる。
私は証明したかった。私の方が上だと、あの女に見せつけてやりたかった。
そこでだ、清原拓斗。あいつの存在を知ったのは。
宮咲は急にあいつに話しかけるようになった。今までは近くを通ってもスルー、なんなら近くにいることすら少なかったのに。最近は自ら出会いやすいように行動しているように見える。
きっと宮咲は清原のことが好きになったんだろう。
私は好きとかよくわからないが、私を好きと言っている奴らの行動と似たようなことをしている。つまり、そういうことだ。
でも、清原のやつは大して気にした様子は見せていない。きっとあの女はまだあいつを落とせていない。
これはチャンスだ。宮咲よりも先にあいつを落としたら私の方が上だと証明できるだろう。
そう思ってあいつに関わり始めた。クラスに行って話しかけて、周りに私があいつのことだと悟らせない範囲で好感度を稼ぐための行動をやった。
なのに、あいつはまるで見向きもしない。
せっかく話しかけてやってもこの私をそこら辺のやつと同じように扱いやがる。
許せない許せるわけがない。あいつは邪魔だ。鬱陶しい。最近は見るだけでもイライラしてくる。
そうだ。あいつ、消してしまえばいいんだ。あいつの居場所をなくしてしまえばきっとスカッとする。
そうだ、そうだ、そうしよう。そうなれば早速行動に移さないと。
どうやってやろうかな。せっかくだから徹底的に潰してやりたいな。あいつが女を利用する最低なやつってことにするか。
でも、私が騙されてたってなると私も格が下がっちゃうしちょうどいい奴いたかな?
そうだ、あいつのクラスにちょうどいいのいるじゃん。なんて言ったっけ、えーっと確か小山だかなんだか。あのまさしく陰キャ女子。あいつを利用しよう。
あんなのちょっと優しくすればころっと落ちるだろ。
覚えておきなよ、清原拓斗。これから地獄のような未来を味合わせてあげる。
まぁ、それまでに私に懐くのならちょっとぐらい考えてあげてもいいけど。
イライラするけど、準備が整うまでの我慢だ。ゴールがあると気が楽になるなぁ。
◆
くそ、どうしてこうなった⁉︎
どいつもこいつも、私にあんな目を向けやがって。
これじゃあ、私の評価が終わったじゃないかよ!
くそ!あいつのせいだ!あの中取のやろう!
せっかくあんなに仲良くしてやったてのに裏切りやがって!
小山はちょっと褒めて自信あげたら豹変してこっちを信じ込んであんなにいい駒になったっていうのに。あいつのせいで全部台無しだよ!
それに清原のやつ、あいつこの私を貶めやがって。こんなのどうやったら前の場所に戻れるんだっていうんだよ‼︎
あいつは何もかも思う通りにならない。
仲良くしようとしても靡かない、今回の作戦を成功させるためにスマホに仕込んでやろうとパスワードを探らそうと思ったら持ってきていない。
何もかも上手くいかなくて、でも私の力があれば押し切れると思って決行したらこの有様。
ふざけるな、ふざけるな。
私は他人の上に立つべき存在だ!周りの連中は私を崇めていればいいんだ。
なのにあんな下のものを見る目をしやがって。
くそ、くそ、くそー‼︎
◆
宮咲夢花
視界が光に包まれた時、私は後ろから強い衝撃を受けて押し出された。私は軽く吹き飛ばされる。
いた!
ドンっと後ろで鈍い音がする。
私は倒れ込んだ体をゆっくりと持ち上げる。
体が重い。疲れてるのかな?それより、一体何が?
後ろを振り返ってみると衝撃の光景が流れ込んでくる。途中で停車している車の数々、横断歩道の前で立ちすくんでいる同じ高校の制服を着ている女子生徒達。少し先で倒れている街灯で照らされた一人。
あ、あれは‼︎
私は体の重さなんて忘れて飛び出す。その倒れている人の元に。
まだ先にあるその姿から目が離せない。近づいていくたびにドス黒い絶望が頭の中に満ちてくる。目的の近くに着いた時には頭の中を絶望としか形容できないものが埋め尽くしていた。
「なんで?どうして?」
私はその体の前に倒れ込んだ。
目の前に映るのは一人のよく知った人。
家族以外で唯一私を理解してくれた、私が知りたいと思った人。
私が、唯一恋してしまった人。
やめてよ、どうしてあなたがこんな目に遭わないといけないの?
どうしてあなたがそこにいるの?そこには私がいるはずだったのに。
どうして、私を庇ったの?
なんで?ねぇ、なんで?
答えてよ。目を開けて、こっち見て答えてよ。
いやだ。いやだ‼︎
認めない!こんなこと認められない‼︎
ねぇ、起きて?起きてよ。起きて、いつもみたいに話をしようよ。
体をいくらゆすっても反応は一切返ってこない。もうだめなんだとそう答えを返してくる。
「ああぁぁぁぁぁぁ‼︎」
私はその人の胸の中で泣いた。ずっとできることなら触れてみたいと思ったその体を掴みながら。
◆
私はずっと周りの視線が苦手だった。
羨むような目、憎むような目、欲望に染まった目。そんなものばかり向けられていたから勝手に苦手意識がいつの間にかついてた。
いや、それは私が勝手にそう思っていただけなのかもしれない。それでも、決して全くなかったとは言えないと思う。
私は期待されるのも失望されるのも嫌だった。
だから当たり障りのない反応だけを返して、自分からは全く何もせず、周りからの好感度は高いか低いかもわからない初対面のままでいようとした。
下手に変わってしまうことで状況が悪くなるのは嫌だった。ある意味八方美人みたいな態度だったと思う。
私の周りにはよく人が集まってくる。勝手に注目されて、気がつけば周りにたくさんの人が私に話しかけてきている。
私は断ることもできなくて、誰かと必要以上に仲良くもしようとしなかったからそれは永遠と続いた。
悪く思われるのが怖かった。誰かに疎まれるのも、恨まれるのも嫌だった。
現状より悪くなるのを怖がって今のままでいようとずっと耐えてきた。
そんなある日、文化祭の日私は彼と出会った。
彼は男に迫られている私を助けてくれた。
最初は見返り目的とかそんな感じかなとも思ったけど、彼の目は他の人と同じようなものじゃなかった。
彼はお礼はいらないとか言って、カッコつけてるのかななんて思ったけど、やっぱり彼からは私を特別視するような感じがしない。
知り合ったばかりなのに、ただただ心配してくれて、何も私には求めようとしない。
私はこれがほんとの友達の距離感なのかなって思った。正直今まで心から友達って呼べる人がいなかったからわからない。
私はこの人なら本音を明かしてもいいかなって思った。この人ならきっと真剣に私に向き合ってくれる。普通の友達のように接してくれる、そう思った。
それと同時にこの人を知りたいって。
きっと久しぶりに私からお願いをした。話を聞いてほしいって。
それから私は彼に会いたくなって、でも周りに噂されたり問い詰められたりして周りとの関係性が変わるのも嫌だし、何より勇気が出なくてせいぜい挨拶するのがやっとだった。
話しかけたいのに話しかけれなくて、会いたいのに会えなくて、もどかしい気持ちがずっと心にあったけど学校に行くのが前より楽しく思ってた。
それなのに、あの日彼はとんでもない悪人になった。同じ学校の人を脅して利用してたなんて言われて彼は非難の声と視線を浴びられた。
私には到底信じられなかった。彼がそんなことをしたなんて。
彼はそんなことをするはずない。あんなに優しい彼が。
でも、周りは確信を持って責め立てる。
私は弱かった。彼に話しかける勇気が出なかった。怖かった。恐ろしかった。私をみる目が変わってしまうことが。
ほんと、ひどいと思う。結局私は守られておきながら、彼のピンチには自分の身を案じて守ることができなかったんだから。
それから彼の居場所は学校にはなかった。控えめに言ってもイジメのようなものばかりが彼の周りを飛び交っている。
私はそれをただ見ていることしかできなかった。
それからしばらくして私も彼のように責め立てられる立場になった。全く身に覚えのないことで、やってないなんて言っても誰も信じてくれなかった。
私の居場所もそれからなくなった。
お母さんにもお父さんにも心配かけたくなくてしばらく学校に通っていたけど、辛かった。ただ、苦しかった。
私が悪口を言われている時、彼が現れた。そしてまた私を守ってくれた。廊下でたまたま通り過ぎてだけなんだろうけど、私にはヒーローのように思えてしょうがなかった。
ある日、教室に居づらくて誰もいないところを探していると彼を見つけた。
人気のない人の来ない場所で彼は一人お弁当を食べている。
私が話しかけたら、彼は話を聞いてくれて、励ましてくれた。自分も辛いはずなのにただ私の話を聞いて、自分のことは後回しで。
それから彼と会うことが増えた。
話しかけてくれたり、一緒にお昼ご飯を食べて話を聞いてくれたりした。
それが私の唯一の心の拠り所だった。
でも、日を重ねるたびに彼が弱っていくのがわかる。こんなにも疲れているのに彼が学校に来続けている理由はきっと私にあった。
自意識過剰なのかもしれないけど彼はきっと私を守ってくれている。きっと私を励ますために、そして少しでも私をイジメの標的から外すために。
少なくとも廊下などで彼といる時、私に対するものは少なかったし、話を聞く、見る限り、彼が被っているものの方が私より圧倒的に多かった。
そうして弱っていく彼を見ていることが私にはできなかった。私がいるから彼は学校に来続けている。
そう思って勇気を出して学校を休んだ。
なのにあんなことになるなんて。
彼はずっと優しかった。
彼はずっといい人だった。
彼はずっと私に寄り添ってくれて、私が欲しい言葉をかけてくれた。
ずっと守ってくれてた。
なのに私は与えられてばかりで、彼に何もできてあげてない。
私が弱いから。私が臆病だから。
もっと彼のことを知りたかった。
もっと彼の横に居たかった。
できればどこかに遊びに行ったり、もっとおしゃべりしたりしたかった。
彼のこと名前で呼んでみたかった。
誕生日祝ったり、お家に遊びに行ったり、逆に来てもらったり、そんなこともしてみたいと思ってた。彼ならいいと思ってた。
私は彼に何ができただろうか。何か与えられただろうか。
何もお返しできてないのに、私は挙げ句の果てに彼の命まで奪った。
ほんとなら私が死ぬはずだったのに、最後の最後に彼はまた守ってくれた。
ごめんなさい。
お母さん。
お父さん。
私はもう耐えられそうにありません。私のせいで彼が死んだという事実が、そして何もできなかった自分が。
二人にもおんなじ気持ちを味合わせるだけだとわかってるけど、もう私には無理なんです。
本当にごめんなさい。
ありがとう。私を産んでくれて。愛してくれて。
私も二人のことを愛してます。
そのようなことを書いた紙を机の上でぐしゃぐしゃにして、私は家を飛び出した。
次回、最終回の予定です。




