22:未来という名の過去について
今日は前々から散々準備してきたおそらく大半の人が待ちに待っていた文化祭。
周りを見ていれば男女がセットになって歩いているが女友達なんて一人もいない俺は同じクラスの岩田と色々回っていた。
その岩田が部活の出し物の担当の時間になってしまい、仕方なく一人でとぼとぼと歩いていく。
適当に歩いてたら人の少ないところに来ちゃったな。ここら辺は使われてないのか?
ていうか話し声が聞こえる。内容は聞き取れないけど誰かはいるっぽいな。
もうちょっといって見てみるとそこには一人の女子生徒と一般のお客さんがいた。
「やめてください」
「いいじゃん、一人でいたってことは暇なんでしょ」
その女子生徒が嫌がってるにも関わらず、そのお客さんの男はしつこく粘っている。
助けるべきか?いや、もちろん助けるべきなんだろうけど、正直俺如きでどうにかなるとは思わない。でも、このまま見過ごすっていうのもすごいモヤモヤする。
あーもう、やったるよ!どうにでもなったれ、この野郎!
二人に近づいて、女子生徒の手を掴んでいる男の手を俺が掴む。
「なんだ?」
男は俺の顔を見ると女子生徒の手を離して俺の手を振り払った。
「嫌がってるでしょ。やめたらどうなんですか?」
「なんだと?お前には関係ないだろ!」
男は威勢よくこっちにガン飛ばしてくる。
さて、どうやったらこの人引いてくれるんだ?ヤケクソで飛び出してきたからどうやるか全然考えてなかった。
「断られたんでしょ。それでどう見たって嫌がってるのにこれ以上押して本当に心から了承してくれるなんて思ってるんですか?あなたはひと時の自分が満足な時間をお望みなんですか?」
「こいつ、言わせておけば」
男は拳を固く握る。
やばい、何言っていいのかわからなくて思いついたこと適当に言ってみたけど、挑発する感じになったか?
「ちょっと待ってください。このまま手を出して大丈夫ですか?ここは学校ですよ?そして今日は文化祭。沢山人がいるわけです。そんな中で騒ぎ起こしてあなたの世間体は無事を保っていられますか?」
「でも、今ここに人はいねぇだろ」
「あなたの特徴はしっかり覚えました。あとで報告できますし、叫べば誰かしら来るじゃないですかね?」
「くっ」
男は大人しく拳を下げる。
お、これは聞いたのか。世間体は気にするタイプなんだな。まぁ、見たところ同い年くらい、どっかの高校の生徒って感じだから気にもなるのか。同じ学校の生徒もいるだろうし、見るからなヤンキーみたいな感じでもないからな。
「ちっ!」
男は舌打ちしてどこかに歩いていく。
よかったー、退いてくれて。
なんなら口調が訳わかんなくなって挑発ぽくなってた気がするからヒヤヒヤしたけど、あのまま退かなかったら大人しく殴られるしかなかった。
痛いのは嫌だからな。うんうん、話し合いで解決が一番。
「邪魔じゃなかったらいいんだけど。それじゃ」
「ちょっと待って」
歩き出そうとしたところを引き止められる。
何、知り合いでもないんだから、用なんて特にないだろ。お礼とかも別にいらないんだけど。
「どうして、助けてくれたんですか?」
「どうしてって、なんか困ってそうだったからだけど」
「その、お礼とかって」
「いらないです。自己満でやっただけだし」
そう完璧なまでに自己満だ。助けた理由なんて後々後悔したくなかったからだし。まぁ、この選択をしたことを後悔することになってたかもしれないんだけどね。
ああ、そういうことか。お礼目的で助けた可能性を不安がってるのか。
今俺の目の前にはには控えめに言っても美少女がいる。宮咲夢花。学校で一位二位を争う、超絶美少女。そんな彼女が、いやそんな彼女だからこその部分もあるんだろうけど、男に詰め寄られてたわけだ。
しかし、こんな美人だから人によっては助けた恩で何かさせようって人もいそうだもんな。
いや、俺は可愛いから助けたとかそういうわけじゃないよ。って誰に言ってんだ、俺。
この美人は学校中で有名だ。噂によれば一日でファンクラブらしきものができたとか。そんな人には毎日周りには人が多いようで、たまに見かけた時も人集りができて俺みたいなやつには話しかけれそうな雰囲気さえなかった。
というわけで話したこともないけど、別にそんなお近づきになりたいとか思わなかったんだよな。クラスも違うから関わることもない住む世界が違う人、勝手だけどそう思ってたし。
「容姿がいい人も大変なことはあるよね。毎日あれだけ人が周りにいたら疲れそうだし」
「え?」
ぽかんとした顔でこっちを見てくる。
え、どうしたの?突拍子のないことか何か言った?ていうか、眩しい。さっきから思ってたけど、特に特徴のない脇役みたいな俺からしたらめちゃくちゃ眩しい。
「いや、俺の場合はってだけだよ」
「そう、ですよね」
今度は何故か俯いてしまった。今まで、女子と関わったこととか少ないから理由がよくわかんないな。でも、もしかしたら・・・・・・。
「もしかして、宮咲さんもそう思ってたりするの?」
「え?」
俺の言葉に反応して俯いた顔が上がってこっちを見つめてくる。
急な質問でびっくりさせちゃったか。すみません、反省します、はい。
「ごめん、変なこと聞いて」
「いえ、大丈夫です。・・・・・・そう、ですね。そうなのかもしれません」
微笑みながら質問に対して返事をしてくれる。
これは俺の勝手な直感だけど、なんか心の底からは笑ってない感じがする。・・・・・・考えすぎかな。でも、返事は嘘を言ってる感じもしないし。
「そうなんだね。なんかごめん。俺でよかったら話聞くよ。なんて、迷惑か。それじゃ、気をつけて」
「・・・・・・あ、あの」
振り返って立ち去ろうとするとまた呼び止められた。
今度は何?自分で言ったけど、すごい恥ずかしくなってるからあんまり深掘らないでくれると助かるんだけど。
「その、話聞いてもらっていいですか?」
・・・・・・はい⁉︎
ちょっと予想外すぎる。ありがとうとかそういう感じのこと言われるのかと思ったら、早速お願いされたよ?どういうことだこれは?
まぁ、自分で言ったし、頼まれたなら叶えてあげたいとも思うし、今暇で断る理由がないんだけど。
・・・・・・こんな美人さんと話せるなんて光栄だ。そう思うことにしよう。
「いいよ。ここで大丈夫なの?」
「はい!」
今日一日貴重な体験ができたってことだな。
◆
文化祭での一件があった以降、俺の周りの環境は変化の道を辿った。それも結構劇的な。
まず初めに、宮咲さんが話しかけてくるようになった。具体的には見かけたら必ず、挨拶をしてくれるようになった。
大したことないと思うかもしれないけど、宮咲さんほどの美人となると話は変わってくる。周りにいる人達を避けてでも挨拶してくるからもちろん、その周りの人達に注目される。
まぁ、宮咲さんは明るくてみんな平等に接してくれるで有名だったらしいから俺もいつのまにか仲良くなっていたからみたいな理由で敵視されるまではいかなかった。
次にそれから少しして宮咲さんと同じクラスのこの学校の美人二大巨頭である陽波さんが話しかけてくるようになった。
はい、もういちいち考えなくてもわかる通りまた、注目されるようになった。
おかしいよね。陽波さんに関しては全く関わったことなかったのに急にだよ。
そして最後、また少しして同じクラスの小山さんがイメチェンし、美人になった。
これだけならまぁ、いい。しかしこれまた俺に話しかけてくるようになった。
はい、また注目されるようになりました。
うん、一体何が起きてるのって思ったね。心の片隅では夢だろこれって思ってるよ、今でも。
最近周囲から視線感じすぎて、疲れたよ。特に男子からのは痛い。
俺が一体何したって言うんだよ。ちょっと譲って宮咲さんはまだわかる。それ以外の二人は何?俺のことなんて大して知らないでしょ。
「清原、いるか!」
友人の中取の声が教室に響き渡る。
そんなに声出さなくても聞こえるって。一体なんの用だ?
俺が席を立つと中取は俺を見つけ、二人を連れて近づいてくる。一人はもう一人の背中を摩っている陽波さん、もう一人は涙を目に滲ませている小山さんだ。
なんで泣いてるんだ?もしかしてその理由が俺と関係あるって言うんじゃないだろうな。俺は知らないぞ。
「清原、陽波さんから話があるらしい」
「話って何?」
妙に真剣な顔をしている中取は俺の前を退いて陽波さんが代わりに俺の前に立つ。
「あなた約束を破ったのね」
「約束って?」
「とぼけないで!この子にはもう手を出さないって約束したじゃない!」
は?なんだよ手を出すって。心当たりなんてまるでないぞ。
「一体なんの話をしてるんだ?」
涙を拭いている小山さんの横に移動して中取は摩りながら大きく口を開ける。
「お前、小山さんの弱みを握って無理やり側にいさせたらしいな?話すのも苦手なのに無理やり」
「私がこの子の代わりにあなたの近くにいるからもう手は出さないでって言ったのに」
陽波さんも中取に続いて言う。
ほんとに何を言ってるんだ?なんだよ、弱みって。俺は知らないぞそんなの。
この騒ぎを聞きつけて元々教室にいた人だけでなく、他から来た人も傍観をしている。
「ちょっと待ってくれ。なんの話をしてる?一体どういうことなんだよ⁉︎」
「お前、これを見てみろ」
中取は学校内ではスマホの使用は禁止だっていうのにスマホを取り出し、こっちに突きつけてきた。
は、なんだよ、これ。
スマホの画面にはメッセージの履歴の写真が映し出されている。内容は脅迫、脅すような文言が書かれたものが一つずつだけ俺の名前で送られている。その中には今日のものの写真もあった。
ど、どういうことだ?そもそも俺は小山さんと連絡先を交換なんてしてない。
「待ってくれ!何かの間違いだ。お前まさかこんなドッキリのために新しくスマホ買ったのか?」
「じゃあ、お前のスマホ見せてみろよ」
当たり前だが、そうなるよな。
大丈夫だ、何の問題もないはず。
だけど、嫌な予感がする。なんだ、こいつのこの余裕は。まさか、まさかとは思うが。
俺はスマホを取り出しロックを開いて中取に渡した。
「おい、これを見ろ。何よりの証拠じゃないか?」
中取が見せつけてくるスマホの画面を確認すると、一番新しい写真と全く同じ内容がそこには映し出されている。
くそっ!やっぱりか!
仕込んでやがった。具体的に時間は分からないが少なくとも今日中、昼休みの前までに。
俺と同じ名前のアカウントを作って、このメッセージの写真を撮ってまた連絡先を消す。それを何日か繰り返して、今日の分だけ仕込んだら完成か。
はは、随分と手の込んだ、仕掛けじゃないか。わざわざそんなことしなくてもそれらしい写真を何枚か今日仕込むだけで終わりだったろうに。
「可愛い子に目をつけて、自分を着飾るために使うなんて最低だな」
中取は堂々を見下すようにこっちを見てくる。
さて、犯人は誰だ?って一人しかいないよな。
陽波、お前だな。
今回の話は被害者と加害者それがいたら終わりだ。なのに被害者を庇ったキャラが出てきた。
俺が要求したらしいものがものだからよりリアリティーを上げるため、より俺を悪者に仕立て上げるためなんだろうがそれが決め手となる。
小山さんにそういう写真を撮るのは断られたのか?今更そんなの気にするなんてな。
庇ったからには同じことを要求されなきゃおかしいもんな?わざわざこんな手の込んだことをしたのは写真でこんなのされましたなんて、言えなかったんだろ?
陽波は言った。『代わりに近くにいる』と。つまりは小山さんもそれを要求されたってことだ。
弱みを掴んで近くに置くだけなんてしょうもないと大半の人は思うだろ。だが、こんなに美少女が、学校の人気を掻っ攫っている人がそう発言したんだ。信じるだろうさ。
自分の好きな人がこう言ってた、有名な人が言ってたそれだけで人は話を鵜呑みにするもんだ。
自分の格は下げず、むしろ庇ったことで評価が上げ、完璧に俺を陥れる。
代わりに誰かに自分の役をやらせなかったのは、万が一バレた時のためだろう。用意周到だな。
中取か小山が陽波に頼んだとも考えられそうだが、それは変だ。
バレたら自分が終わるのにそんな危険な橋を渡るか?それに頼むとしたら同様のことをこいつらだって思いつくだろう。
それにやばそうな写真を仕込んだなら陽波がいなくてもこれとほぼ同様の効果を得られただろうにわざわざ頼んで作戦まで変えるか?俺には最初からこんな回りくどいようなことしか思いつかなかったとは思えない。これは陽波がいるからこそここまでの効果を発揮している。
だから犯人はおそらく陽波だ。
だけど、犯人がわかったところで何もできやしない。今、この周りに俺の話を聞くやつ、ましてや信じる奴なんていない。
この話は陽波という人物がいるおかげで、より明確、より下へと俺の学校中の評価が下へと落ちた。最悪な気分だ。
俺は倒れ込むように椅子に座った。立っていられなかった。
「謝ったらどうなんだ?」
「ごめん」
「行こ?」
俺の呟くような謝罪なんて無視して、陽波が率いて三人は教室を立ち去る。
あー、終わった。俺の学校生活。あと二年残ってるのにな。耐えられるかな。
人の噂も七十五日、これを信じるしかないか。
「清原くん・・・・・・」
小さく俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
この声は宮咲さんか。やめといた方がいい。今の俺に優しくしたら君の評価も下がってしまう。それにもう今はまともに話せる気がしない。
俺は俯いたままその声を聞き流した。
「宮咲さん、やめときなよ」
「え、でも・・・・・・」
「ほら、行こ」
周りの女子が人達に連れられて宮咲さんはどこかへ行く。そして俺の周りに人はいなくなった。一つの教室の中なのに自分だけ隔絶された感覚だ。
それでいい。宮咲さんまでこうなる必要はない。
◆
あれからというもの、日々は地獄だった。
ヒソヒソ話は当たり前、あらゆる人に避けられ、侮辱され、時には暴力、悪戯まであった。
先生に取り合っても意味はない。先生もあの話を信じているから。
あれからで一つ不思議なことがある。
一ヶ月か二ヶ月、もうよく覚えていないがなぜか、宮咲さんまで俺と同じようになっていた。手口は違うがおそらく俺と同じく、陽波に嵌められた。
俺はしばらくはなんとか学校に行けていた。学校に行っているのは、宮咲さんのおかげ、そして宮咲さんを庇うためだ。
俺が目立っていじめられれば少しだけでも宮咲さんへの分が減るかと思って。それでも、ほとんど意味はなかった気もする。
悪者にされても美人だから付け狙う奴はいる。そいつらとか普通にいじめる奴らの気を多少は逸らした気でいたがどうだろう?意味なかったんだろうな。
俺は宮咲さんに助けられた。心配かけたくなくて親に話せない俺に変わらず、挨拶してくれて、宮咲さんもいじめられるようになってからだけど、誰もいないところで一緒に昼食を食べている時が唯一の救いだった。
やがて宮咲さんは学校に来なくなると俺も、学校に行かなくなった。親には体調がすぐれないとだけ伝えて。
今は久しぶりに散歩している。もう夜も遅いし、知り合いなんて誰もいないだろ。
居心地が悪くて家から飛び出すようにきたけどどうしよう。もうやりたいことなんてしばらく見つかってない。
あ、あれは。
目の前の横断歩道で青信号を待っている人のうち一人に見覚えがある。宮咲さんだ。周りに三人ほど誰かいる。
フードを深く被って近づいてみる。すると話す内容がかろうじて聞こえてきた。そこで一旦足を止める。
「知ってる?こいつ、めっちゃ男たぶらかしてたんだって」
「知ってる知ってる。最低だよね」
どう見ても友達って感じじゃなさそうだ。止めるか?いやでも、俺が行ったら火に油を注ぐことになるか?
「ほら、どうなんだ?答えろよ!」
一人が背中を強く押して宮咲さんが横断歩道に出る。よろめいた、状態から体を立て直すしてもまるで横断歩道にいることに気づかないようにその場に立っていた。
やばい、右からトラックが来てる‼︎なんであのトラックそんなスピード出してる上に、まだ減速しないんだ?ドライバー寝てんのか?どんなタイミングだよ‼︎
このままじゃぶつかる‼︎
そう思った瞬間にはもう動き出していた。視界をトラックのライトが覆い尽くす中、右手で強く背中を押す感覚を覚える。どうやら間に合ったらしい。
安心する間もないまま迫り来る鉄の塊と俺との距離はゼロになった。




