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初対面の美少女が告白してきた  作者: 粗茶の品
2/26

2:昨日の話について


 靴箱の中から靴を取り出し、外靴から履き替える。

 まだ、入学式でしか使ってないから新品も同然だ。


 靴を履き替えると一気に学校に来たって感じがするな。

 下駄箱や近くの廊下に人影はほぼない。外にいる人も何かしら部活動をしているような人ばかりだ。

 これぐらいの時間だとまだ早いのか。今日は早起きしたからそのままの流れで来たけど、もしかするとまだ、教室開いてなかったりするかもな。

 あれ、そういう時どうしたらいいんだろう?

 考えても仕方ないし、とりあえずどちらなのか教室に行ってみるか。


「おはよう、清原くん」


 俺が下駄箱と廊下の間にあるわずかな段差に足をかけると後ろから声がした。振り返ると男子生徒が靴を履き替えている。

 誰だっけ?

 いや、同じクラスだったことは覚えてる。でも、名前までは覚えてない。

 申し訳ないとは思うけど、初対面だから仕方なくない?逆になんで俺の名前知ってるの?


「おはよう。えーっと・・・・・・」


「あ、ごめんごめん。僕の名前は二藤集(にとうしゅう)。清原くんで合ってるよね?」


「合ってるよ」


 二藤って名前なのかこの人。

 なんで俺の名前知ってるのか聞きたいけど、聞きづらいな。


「ごめん、いきなり驚いたよね。清原くんの名前は名簿で見たから知ってるんだ。君の後ろの人が僕の知り合いでね、それで君のことはなんとなく印象に残ってた」


 勝手に説明してくれた。優しい人だな。

 それにしても、後ろ誰だったっけ?確か女子だった気が・・・・・・。

 駄目だ、昨日は体調のことで頭いっぱいだったから思い出せない。


「あ」


 二藤が隣にやってきて廊下の先を見ると驚いたような表情をとった。

 俺も気になって同じ方を向く。

 そこにはとてつもない美少女がいた。こちらに向かって歩いてきている。

 正直ドキッとした。

 でも、その理由は可愛かったからではない。いや、少しはそれもあるだろうが・・・・・・。

 それが昨日、告白してきた相手だったからだ。

 宮咲夢花。昨日突如として告白してきた女子。そんな相手に俺はどんな顔して会えばいいのかわからない。

 宮咲は俺達の前に来ると立ち止まった。じっとこちらを見ている。


「お、おはよう。宮咲さん」


 宮咲は挨拶をした二藤に一瞬だけ注意を向けると、宮咲の瞳は俺を捉えた。


「おはよう」


 二藤につられるようにして俺も軽く左手を上げながら挨拶する。

 なぜ左手を上げたかはわからない。なんか、勝手に上がった。


「え、ちょっ」


 俺は前にバランスが一瞬崩れた。

 なぜなら、宮咲が俺の右手を取って引っ張っているからだ。

 宮咲に連れていかれるようにして歩いていく。

 何?この状況。

 後ろを見ると二藤が唖然として立っていた。

 朝っぱらから女子に手を引かれて連れていかれるなんて、俺何したの?

 誰か教えてくれ、ほんとに。




 宮咲について行ってたどり着いた場所は校舎の隅の方の場所だった。階は二階。

 特徴といえば、人が全然いない。朝だからなのかとても静まり返っている。


「それで、どうかしたの?宮咲さん」


 宮咲は反時計回りに振り返る。それに少し遅れて長い髪も跡を追う。

 こうしてみるとやっぱりすごい美人だ。

 やっぱりこんな人が告白してきたなんて、到底信じられないな。

 だから、今日はネタバラシに来たんじゃないか?こういう嘘を何日も続けるのはしんどいもんな。


「え、えっと、昨日の」


「昨日の?」


 宮咲は言葉を躊躇っているように見える。

 やっぱりな。このまま嘘でしたと言うんだろ。嘘だったからちょっとバラすのが怖いんだろう。それともちょっとした罪悪感を感じてるのか。

 嘘だとわかっていたとはいえ、ちょっと複雑だな。

 嬉しくなかったかと言われればたぶん嬉しかったと思うし。


「やっぱり、付き合うことは、できませんか?」


 おっかしいなー。幻聴かな。付き合いたいって内容の言葉が聞こえてきた気がするけど。

 宮咲を見ると頬を赤く染めながら一瞬も逸らすことなく俺の目を見ている。

 やっぱ幻聴じゃないよなー。

 俺は出そうになったため息らしきものを押さえ込んだ。


「そうだね。やっぱ、いきなりは無理かな。まずは、友達からでどう?」


 どうだ?

 なんかよく聞いたことある『友達から』の効き目は!?


「それはまだ、可能性はあるってことだよね?」


「え?ま、まぁ、そうだね」


「なら、今はそれでもいい。絶対好きにさせてみせるから。末永くよろしくお願いします」


 友達って「末永く」が付くようなものだったっけ?

 ずっと仲良くしたいって意味では合ってるのか?何か違うニュアンスがある言い方だったけど・・・・・・。

 ひとまず、落ち着いたみたいだしよしとするか。


「ていうか、こういう話、ここでして大丈夫なの?」


 今、周りに人はいないがもし来たらどうするつもりだったんだろう?

 バレても構わないってスタンスだったのか?


「ここは、人来ないから大丈夫。朝なら特に」


「なんで、そんなこと知ってるの?」


 入学式は昨日だった。それ以前にも入試とかで来たことはあるが二、三回程度だ。

 それに、そんなに校内を回る余裕なんてなかったし、そんな特殊な日なんて参考にならない。


「そ、それは、昨日、いっぱい歩き回ったから」


 宮咲は少し歯切れが悪く言う。

 歩き回っただけでそんなことわかるもんなのか?それに、朝のことなんて特にわからないだろう。

 ま、そんなに詮索するもんじゃないか。先輩に聞いたとかだろ。

 それよりも、解決するべきことがある。

 ここについた時は、ものすごく真剣に話してたから聞かず、その内容があれだったから大丈夫かと聞いて、後回しにしてたけど。


「ねぇ、いつまで、手、繋いでるの?」


 俺の右手と宮咲の左手は現在、同じ位置にある。下駄箱で手を取られた時からずっと。

 だから、宮咲は反時計回りに動いた。そして、話している現状、俺と宮咲はまっすぐ正面ではなく、少し斜めになっている。

 俺はもうほとんど力を入れてないけど、まだ互いが離れる気配はない。

 宮咲の手ががっちりと俺の手を掴んでいる。


「え?駄目だった?」


「駄目とかじゃなくて、なんでかなって」


「友達なら、手を繋ぐくらい普通」


「それは、そうかもしれないけど、立ち止まって話す時は手を繋がないと思うよ」


 それに友達だって明確にしたの、ついさっきだよね!?友達はどこから始まるのかはよくわかんないけどさぁ。

 それに友達ってそんなに手を繋ぐって行為するもんなのか?しないと思うんだけど。俺だけ?

 それに指摘しても離そうとはしないんですね、はい。


「ひとまず、教室に行かない?ほら、荷物持ったままだし」


「私達の教室違う。もっと一緒にいたい」


 もー、なんなんだよ。

 頼むからそんな言い方しないでくれ。俺が悪く感じちゃうから。

 あれ?俺悪くないよね?わかんなくなってきちゃったよ。

 また後で合流しようと思っても、宮咲は見つかった時点で周りに人が集まって、それどころじゃなさそうだもんな。


「でも、ここじゃすることもないでしょ」


 この人相手に何話せばいいかもわかんないし。


「お話ししよう」


 やっぱそうなるよな。それしかないもんな。

 でもね。一体何話せばいいの?わかんないんだってば。

 宮咲の俺を見つめるその瞳は出会った時から変わらない。

 一体何を考えているんだか。

 純粋な愛情か。それとも面白がっているのか。はたまたそれ以外か。


「わかったよ。もうちょっとだけな」


「うん!」


 何、考えてんのかはそのうちわかるだろ。本人もまだ関わりたいようだし。

 それに俺だって仲良くしたくないわけじゃないし。

 何かデメリットがあるわけでもないしな。




 キーンコーンカーンコーン


 校舎の中にチャイムが鳴り響く。

 この学校は朝のホールルーム前の十分前と五分前にチャイムが鳴るらしい。今のは十分前のだ。

 もうこんな時間か。

 今までずっと宮咲と話していたわけだが、正直、時間を忘れていた。

 話した内容は本当に他愛もない世間話だったけど、なぜだか、すごく楽しく感じた。

 心地いいみたいな感覚まで出てきたぐらいだ。

 しかし、それと同時に疑問も浮かび上がってきた。

 俺と宮咲は本当に初対面だったのだろうか?

 この疑問が出てきたのは正確にいえば、ずっとだ。でも話してみてよりはっきりと姿を表した。

 だけど、いくら過去を思い返しても、それらしいものは見つからない。

 幼稚園、小学校、中学校のどの思い出にも宮咲の名前は見つからず、その他の日常の思い出にもその姿はなかった。

 俺は何かしらの主人公じゃない。そんな劇的な出会いなんてなかった。

 なら、彼女は一体誰なんだ?

 今は考えても仕方ないか。


「それじゃ、そろそろ行こう。宮咲さん」


「・・・・・・仕方がない」


 なんでそんな言い方なんだ。時間はしょうがないだろ。

 二人並んで教室の方へと体を向ける。

 いや、ちょっと待て。


「なんでまだ手、繋いでるの?」


「え?駄目なの?」


「駄目とかじゃなくて、別にもう繋ぐ必要なくない?」


「必要」


「なんで?」


「必要!」


 だから何故!?それになんでそんなにムキになる?

 駄目だ。どうやったら離してくれるんだ?

 俺と手を繋ぐ行為に一体なんのメリットがあるんだ?

 話している時も、これいつ離すんだろって思ってたけど、流石に教室行くまでだとは思わなかったよ。


「もう、教室行かなくちゃいけないし、そろそろいいでしょ」


「このまま行けばいい」


 それだとすごい目立つでしょ!

 そうだ、一つだけデメリットがあった。

 それはすごい目立つ。とりあえず目立つ。

 だって俺みたいな冴えないやつが、宮咲のようなマドンナ的存在とクラスも違うのに仲良くしてるんだぜ。目立ってしょうがないだろ。

 俺は目立つのが嫌いとまではいかないけど、好んで目立とうとは思わないし、できる限りは避けたいと思うタイプだ。

 それにパターンは悪目立たになる可能性もある。


「ほら、この状態をみんなに見られると恥ずかしいからさ」


「・・・・・・そこまで言うなら、しょうがない」


 宮咲は不服そうな顔をしながら少しずつ手の力を抜いていった。宮咲の手が離れると手のひらに空気が当たる。

 季節が季節だからそんなに手汗はかいてないが、なんともいえない感覚に襲われた。


「一緒には行く!」


「・・・・・・わかったよ」


 仕方ないからそこは譲歩しよう。

 別に学校に入ってから会ったと言えば、そこまで違和感はないはずだ。



 教室の前に生徒はほとんどいなかった。大半の生徒は教室の中に入って交流をしているらしい。


「それじゃあ、また」


「ああ、また・・・・・・」


 宮咲は教室に入っていく。

 また・・・・・・か。

 それはいつになるのやら。

 俺も足を翻して教室に向かう。

 三組の教室に入ると中には昨日見た顔が多くある。当たり前だけど。

 人々はまだ、教室内を散らばっていた。


「あ、清原くん」


 俺が教室に入ってきたことに気づき、顔を向けた生徒の一人がこっちに歩いてきた。二藤だ。

 朝は置いていってしまう形になったからな。


「清原くんって宮咲さんと仲良いの?」


 二藤は小さめの声で尋ねてくる。

 やっぱ気になるよな。あの場面を目撃した唯一の人物だからな。

 小さな声で聞いてくることに良心を感じるよ。


「やっぱり、宮咲さんって有名なの?」


「そりゃあ、もう。噂ではファンクラブができてるらしいぐらいには」


 早いな!尋常じゃないぞ、それ。

 まだ入学して2日目なんだけど!?どんだけだよ。


陽波(ひなみ)さんと並んで二台巨頭らしい」


 陽波?知らない人だな。

 あれか、一組いるらしい美人のもう一人ってことか?


「じゃあ、その陽波さんって人にもファンクラブがあるの?」


「噂によるとね。それで、宮咲さんと仲良いの?」


 あー、やっぱり流してはくれないか。

 さて、どういったものかな。

 流石に告白してきたなんて言うわけにはいかないしな。

 できるだけ嘘もつきたくはないけど、上手くはぐらかせるか?

 やるしかないよなー。最悪の場合、宮咲にもとばっちりがいくからな。


「別に仲がいいわけじゃないよ」


「じゃあ、今朝のは?」


「それは・・・・・・ちょっと手伝って欲しいことがあったらしくて、連れて行かれたんだよ」


「手伝って欲しいことって?」


「ちょっとした整理、みたいな?」


「そっか。とりあえず、二人は前からの知り合いだったんだ」


「ああ、それは顔見知りぐらいだよ。知り合いってほどでもない」


「それで、協力頼まれたの?」


「誰でもよかったらしい。二藤さんと俺だったら、まだ俺の方が知ってるってだけで」


「そっかぁ」


 よし。

 完璧には誤魔化せてはないだろうけど、疑いは少しは晴れただろ。

 二藤「それじゃあ」といって元の場所に帰っていった。

 広めないでくれると助かるんだけど、もう手遅れかな。そこは信じたいけど、信じてもいいかな二藤くん?

 それにしてもこれからどうしようかな。

 宮咲とどうやって関わっていくべきか、ちゃんと考えないとな。

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