19:文化祭前日について
今日の放課後はいつもと雰囲気が違うな。
それもそうか。今日は文化祭の前日。みんな楽しみで気合いが入ってるんだろう。
明日に向けて準備のために生徒のほとんどが残って作業しているはずだ。そのためおそらくほとんどの部活が普段の活動をしていないと思う。
今うちのクラスは教室の内装を整えている最中だ。
机を動かし、壁に飾り付けを施して、手の空いてる女子たちは黒板に絵を描いたりしている。
「なぁ、清原。ちょっと準備室から飾り持ってきてくれないか?さっき置いてきちゃったみたいでな。悪い頼むわ」
岩田の近くを通り過ぎようとすると岩田は飾り付けの手を一旦止めてこっちに話しかけてきた。
なんで全部持ってきてないんだよ。五人で行って持ちきれなかったの?そんなに量ある?それとも見えなかった?だとしたらどこ置いてんだよ。一緒に固めて置いてんじゃないの?
まぁ、構わないけどさ。ちょうどこっちの作業は終わって、次やることあるか二藤に聞きに行こうとしてたところだから。
「わかった」
簡潔に了承の意思を示す。そしてすぐに教室を出た。
準備室は化祭の準備物などを置いておくために使っている普段使っていない教室のことだから、別にそういう部屋があるわけじゃない。各教科の準備室はあるが普通生徒の立ち入りは禁止だ。
準備室は同じ階にあるから遠くもないしそんなに大変な作業じゃないはずだ。飾り付けのものが作ってるのを見た感じそんなに重いとも思わないし。
少し歩くとすぐに準備室の扉が見えてくる。
各クラスの教室の前には数名生徒がいたが準備室の前には人はいない。
もう大体のクラスは荷物持って行ってるからだろうな。まだ取りにくるところもあるだろうけど。電気も付いてないし中にも誰もいないのかな。
扉を開けて中に入る。教室の中には一人の生徒が佇んでいた。
「あ、こんにちは」
「あ、はい。こんにちは」
陽波さん、なんでこんなところにいる?
いや、別に変なことじゃないけど。
準備室として使えるのは二部屋だけ。だから全七クラスがどちらかの好きなところに置くようになってるからここにいるのは別に変じゃない。
一組もここに置いてたのか。そんなに意識して見てなかったから知らなかった。
何かの作業中とかだろうし邪魔にならないようにさっさと立ち去ろう。
「ねぇ、ちょっといいですか?」
ささっと自分のクラスの場所に移動して荷物を探していると突然後ろから話しかけられた。咄嗟に振り返って陽波さんの姿を確認する。
「どうかした?」
「その、一つ聞きたいことがあって」
「なんでしょう?」
聞きたいことねぇ。
関わりのない俺に一体なんなんだか。
あれか。うちのクラスに気になる人でもいるのか?だとしたら俺に聞くのは無駄足だったな。なぜなら俺はクラスの人とも関わりほとんど持ってないからな。
・・・・・・はは、笑える。
「その、清原くんって明日空いてる時間ありますか?」
・・・・・・はて?なぜ俺に聞くのか、意味不明すぎる。
俺の予定なんて聞いて一体どうするっていうんだ?俺たち互いに知ってるだけの関係のはずだろ。話したこともほとんどない。
・・・・・・そういえばたまに教室に来て、わざわざこっちに話振ってきたり、直接話しかけてきたりしてたな。なんだったんだあれ。
特に話すこともなくていつも会話はすぐに終わる、もしくは終わらすけど。
「その、一緒に回れたりしませんか?」
と言われてもなぁ。
明日は文化祭中なんの予定も埋まってない。夢花からも何も言われてないから今は完全にフリーな状態だ。
しかし、だ。だからといってそう簡単にうんと頷ける訳でもない。
夢花からあんまり関わらないでって言われてるし、それに対して首を縦に振っちゃったからな。そうなると約束を破ることになるんだわ。俺としては夢花との約束を守りたい気持ちが強くある。
・・・・・・よし、断ろう。
今日の帰りにでも夢花を誘おう。やっぱりほとんど話をしたことない相手といるより見知ってる話が合う人といた方がいいだろう。きっと陽波さんもそうだ。だからそうした方がいいと思う。
そして何よりも、俺自身が夢花と一緒に回りたいって思ってる。やっぱり夢花は一緒にいて楽しいから文化祭でもきっと楽しくなる。
そんな訳で悪いな陽波さん。他の人探してくれ。
「ごめん、他の人と回りたいから」
「・・・・・・そっか。ごめん、変なこと聞いて」
「別にいいよ」
そう言って元の作業に戻る。
えーっとたぶん袋にまとめられてるこれだよな。これぐらい持てなかったものか。
チラッと見ると陽波さんはもう教室にはいなかった。
用が終わったところにちょうど俺が来たのか。それにしても何してたんだろ。なんでもいいか。
袋を持って俺もこの準備室を後にする。
◆
文化祭の準備が終わって昇降口に来るといつものように夢花が待っていた。
いつも早いな。ほんとに俺が先に来るのって二、三回しかなかったんじゃないか、今までで。
「夢花さん」
俺が声をかけると夢花はすぐに体ごとこちらに向けた。
「待たせたか?」
「全然」
「ほんとに?遠慮せず言ってくれていいからな。我慢させてたら嫌だし」
「ほんと。それにもし待ってたとしてもきっとそれは楽しいから大丈夫」
夢花は笑いながらそう話す。
ほんとにそうなのか?言葉を信じるなら夢花は待ってないことになるけど、なんで楽しいことなんてわかるんだ?
不思議だ。
「その、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫!」
夢花は元気よく答えてくる。
なら、いいんだけどさ。ここは大人しく夢花の言葉を信じよう。それ以外にできることもなさそうだし。
いつも通り二人並んで帰り道を歩く。
今日はいつもこうしている時間よりも少し遅い。文化祭の準備の影響だ。
「拓斗、そ、その」
「なに?」
急に夢花が視線を逸らして俯いて話しかけてくる。
何か考え込んでるっていうよりは今回は恥ずかしがっているように見える。
・・・・・・だとしたら、なに?どちらにしても予想なんてまるでつかないけど。
「そ、その、文化祭って一緒に回れますか?」
質問と同時に勢いよく顔を上げてこっちを見てくる。
「ふっ」
はは、そっかそっか。そういうことだったか。あーあ、先越されちゃったな。ちょっと情けないや。
「な、なに?」
「いや、ごめん。そんなことかと思って」
夢花は顔を少し赤く染めると顔を元の向きに戻す。
「そ、それで、いい?」
「もちろん。それ俺も誘おうと思ってたんだけどな。言われちゃった」
「じゃあ、言って」
夢花がこっちに一歩近づいて要求してくる。
「いや、」
「言って」
もう一回言ったって意味なんてないと思うけど。そういうことじゃないんだろうな。俺から言われるってことが大事なのか、同じ恥ずかしさを俺にも味合わせたいのか。
どちらにしても言って欲しいと言うのだから言うしかないか。・・・・・・いざ、言うとなるとちょっと緊張するな。
一旦足を止めて、普段より少し深めに息を吸う。俺が止まったのを見て夢花もすぐに足を止めてこっちを向いた。
「夢花さん。文化祭俺と一緒に回ってくれませんか?」
「喜んで!」
今日一番の笑顔を夢花は浮かべて大きく返事をする。
喜んで、か。喜んでくれるならこっちも嬉しいよ。なんか明日がちょっと楽しみになった気がする。




