14:その気持ちについて
さてと、四限も終わったし、今日も行くか。
机の上に並んだ教科書類をなおし、弁当を持って席を立ち上がる。
向かうのはもちろんいつもの場所だ。待たせるのは嫌だしさっさと行こ。
「あ、あの、ちょっと、いいかな?」
席を動き出そうとした瞬間に隣の小山さんから声をかけられた。
一体なんだ?前の時から座席は近かったけど、これまでまともに話したこともないのに。先生からなんか頼まれてるのかな?心当たりなんて全くないけど。
「そ、その、ご飯、一緒に食べませんか?」
はて?なぜそんなことに?
失礼かもしれないけど、今までそんなに小山さんが人といるところを見たことがない。そんな人に急に誘われるなんてどういう心情の変化だ?
勇気を出して誘ってくれたっぽいし、あんまり無碍にはしたくないけど、先約があるしなぁ。はたしてあの人が許してくれるかどうか。
まぁ、今までも一緒に食べたいと言ってきた人はいるけど、全員一回保留にしたし、今回だけ特別ってわけにはいかないか。まぁ、保留にしたやつは聞いたら全部断られたんだけどな。
夢花は女子だから許可するって感じもしないし、今日は諦めてもらおう。
それに目的も分からなくて得体も知れないし。・・・・・・流石に言い過ぎか?
「ごめん。今日はちょっと。じゃあ、また機会があれば」
そう言ってさっさと立ち去る。小山さんは引き止めようとするような手を伸ばそうとしていたが、俺の動きを見てか途中で止まった。
ちょっと無情な気もするけど、仕方ない。答えを変えるつもりはないからそれ以上粘られても意味がない。そんなことをして待たせる方が俺は嫌だ。
「なぁ、知ってるか?陽波さんって気になってる人いるらしいぜ」
「えー、まじかよ。俺狙ってたのに。ワンチャン俺ってことないかな?」
「何言ってんだよお前じゃ無理だって」
「わかんないぞ。せっかくだし、最近有名な占いの店行って聞いてみようかな?」
「あー、あそこな。当たるって有名だけど、お前結果聞いて泣くことになるんじゃないか?」
廊下に出るとそんな感じの話し声が聞こえてきた。
ふーん。そうなんだ。まぁ、俺には関係ないな。ていうか気になる人いるならたまに話しかけてくるのやめてくれないかな。いちいち注目浴びて迷惑なんだけど。
まぁ、それもただの噂か。本人の口からそう言われないと信じ切ることはできないな。
それよりさっさと行こ。四限がちょっと長引いたから結構待たせてるかもしれない。
◆
「その、オレも一緒にご飯食べてもいいかなって」
いつもの場所の手前に着くと男の声が聞こえてきた。反射的に階段の影に身を隠す。
誰かいる?発言的に誘われた感じじゃないな。俺たちがここで食べてるって知られてるのか。
「無理」
バッサリいくねぇ。夢花さんや。顔は見えないけど相手さんがっかりしてるんじゃないか?
「どうして?」
「嫌だから」
ほんとにはっきり言うなぁ。もうちょっと気遣ってあげない?ちょっとかわいそうになってきたよ。
それにしてもこの声どこかで聞いたことある気がする。どこだったかな。いまいち思い出せない。
俺も顔出すべきかな。でもそうしたら二人で食べてるんだって知られるな。いや、ここ知ってたらそれはもう手遅れか。
「それじゃ、一つ聞かせて。宮咲さんには好きな人っているの?」
え?それは俺も聞きたい。
夢花が他人の前でどういうのか知りたい。それが絶対に本音とは限らないだろうけど、それでも・・・・・・。
「いる」
夢花の変わらぬはっきりとした声が俺の耳に届いた。
「それってやっぱり清原のことなのか?」
「そう」
俺の、ことか。
はは、そうか、そうなのか。なんか嬉しいのかどうかもよく分からない、もどかしい感じがするよ。なんでこの言葉でそんな感じになるんだろうな。我ながら意味わからないな。
「それは、どうしてなんだ?」
「あなたには関係ない」
「でもあいつは!あいつは君のことただの友達って言い張ってるぞ!君は好意を見せてくれているのにあいつは気づいてない!そんなやつよりオレの方が幸せにできる!」
痛いとこついてくるな。
そうだな。俺は夢花との関係を聞かれてもはっきりとした答えは出してこなかった。全部あやふやに返した。俺にはやっぱり夢花の横は相応しくない気がするから。
「ちがう。拓斗はただ優しいだけ」
優しい、か。
いい言葉を使ってくれるな。俺には勿体無いぐらい素敵な言葉だ。
「でも、あいつが見て見ぬふりをしているかもしれないのは変わらないだろ」
「私が好きなのはあの人で、私が好きになるのはあの人だけだから。それに私はあの人のことあなたよりよく知ってる。だから、何を言われようと私の気持ちは揺らがない」
なんの躊躇いもなく言葉は紡がれていく。ただただまっすぐで、確かな気持ちを感じる言葉を夢花は発した。
どこかに歩いていく音が聞こえる。たぶん男がどこかに行ったのだろう。
はぁ。ほんとは好きじゃないとか言われる覚悟もちょっとしてたんだけどな。全く逆のこと言われたな。
駄目だ。ちょっと顔が熱いな。しっかりしろ、俺。とりあえず落ち着けないと出ていけない。
深呼吸だ、深呼吸。
好き、か。俺は夢花のことどう思ってるんだろうな。まだいまいち答えが出ないな。
でも、どちらにせよ夢花が俺を好いてくれている理由を知るまでは付き合ったりはできないけどな。そんなの、たぶん失礼だ。
夢花はずっと初めて会った時から好きじゃないとできないような行動を取ってきた。それはきっと俺を知っていたから。でも、俺は夢花のことを知らない。
俺はきっとその訳を知らないと気持ちに答えられない。どうしていいのか分からない。
・・・・・・いつまでもこのままって訳にはいかないな。
階段の下を覗いてみる。そこには夢花が一人下から一段目に立っていた。そこに歩いて向かい出すと夢花はすぐに気づき、顔をこっちに向けた。
「待たせてごめんな」
「全然構わない」
いつもそんなふうに言ってくれるな。やっぱり優しいよな。
このまま知らないふりすることもできるけどそれは、なんかずるいよな。
「ごめんな。実はさっきの話聞いてたんだ。隠れて聞いててごめん」
「・・・・・・なんで謝るの?」
夢花は訳がわからないみたいな顔をして尋ねてくる。
「え、いや、黙って聞かれてたら嫌だろ」
「全然いい。拓斗になら私何されてもいいと思ってる」
ほんと、なんでそんなに俺のこと思ってるんだよ。俺にはちんぷんかんぷんだ。
なんなんだよ、何されてもいいって。俺は嫌なことは嫌って言ってほしいんだけどな。嫌なこととかないのか?
「理由は聞かないのか?」
「必要ない」
「そっか」
ここで、終わればきっと今日もいつもと同じような日になる。
駄目だな、あそこまで言われたんだ。そろそろ前に進まなきゃ。疑問を重ねて先送りにするんじゃなくて、ちゃんと夢花の気持ちに正面から向き合おう。
とりあえず、俺が夢花のことどう思ってるのか整理するところからだ。
「突然だけどさ。今日の放課後って空いてる?」
「ッ‼︎空いてる!すっごく暇!」
めちゃくちゃ食いついてきた。元気だな。
「どっか一緒に行かないか?」
「うん‼︎」
申し訳ないことにどこ行くかは決まってないんだけどな。放課後までに考えよう。
それにしてもここまで喜ばれると不思議な気分になるな。
「でも、文化祭の準備はいいの?」
「ああ、大丈夫。一日ぐらいなら休んでる人もそこそこいるだろうし」
参加は一応まだ自由なんだから、一日くらいならめちゃくちゃ責められることもないだろう。それに準備は始まったばかりだしな。




