12:意見の出し合いについて
「えー、というわけで今日は文化祭の出し物を決めたいと思います」
六限目。週に一度あるクラスのことをする時間で担任に代わってクラスの委員長である二藤が教卓に立ち話を取り仕切る。
今は五月の初め、入学してからそろそろ一ヶ月が経とうとしている時分だ。思えば一ヶ月の間衝撃の連続だった。
もうほとんどの人がクラス内での自分の立ち位置を見つけている。俺はというもの、色々あってせいで高校に入って新しくできた友達は一人しかいない。よって俺はやはりほぼぼっちとなった。
「それじゃあ、何か意見のある人」
二藤がクラスメイト全員に問いかける。
出し物か、なんでもいいけどな。ちょっとマニアックすぎないものだったら。
文化祭までは一ヶ月と少し。来月の中旬か末どちらとも取れそうな日にあるからそれまでに準備を終わらせないといけない。
二藤が口々にいう案を聞いて黒板へと書いていく。喫茶店、お化け屋敷、劇、展示。大まかにはこの四つに分けられた。
どれもありがちだな。それでいい。むしろそれがいい。ここで変なことをやるとなると、どうなるかわかったもんじゃないからな。具体的な例は思いつかないけど。
ああ、屋台みたいなのが上がってないなと思ってたけど、それは主に部活でやるとか言ってたな。だからスペースが確約されてる教室でできることになるのが多いとか。部活に入ってない俺には関係ない話だったから忘れてた。入学式の前の説明会の話だし。
「うーん。でも、どれもありがちだな。もっと捻った案はないものか」
二藤の横に立っている副委員長、確か林橋が黒板を見つめ顎を撫でながら言う。
確かにせっかくだからインパクトを残したいみたいなのはわかるけど、ありがちでいいだろ。なぜかわからないけど、碌なものになる気がしないぞ。
「みんな、ちょっと時間取るから周りと話し合ってくれ。その後何も出なかったら多数決を取りたいと思う」
林橋が向き直って語りかけるとざわざわと教室内は賑やかになった。
まぁ、時間はまだあるし、こうもなるか。みんなで話し合っては、クラス内というか、席の近くに仲がいい人がいないと暇だからな。
「で、清原。何かいい案はあるか?」
隣の席にいる岩田が急に喋りかけてきた。
なんだよ急に。今はこの黒板の案の中で何になるか予想してたところだったのに。・・・・・・うーん。なんとなく喫茶店な気がするな。
岩田はたまにこうして話しかけてくる。
クラスの中心的人物の一人である岩田がなぜ俺みたいなやつに?って度々思ってるんだが。
「俺は迷路なんてどうかと思う」
迷路か。それなりに難しそうだな。教室はそこまで広いってわけじゃないから、複雑なのは作れないし、簡単なのでいいのなら、客が来てくれそうなコンセプトか何かをつけなきゃいけないし。
「それがいいと思うならとりあえず提案したらどうだ?」
「ああ、あとでそうするよ。それで、そっちは何かないのか?」
そんな聞かれても。思いつくようなことは大体言われたからな。それ以外がないわけではないが、さすがに難易度が高いし、考えただけでめんどくさそうだし、提案しても受け入れなさそうだ。
まったく俺のことなんて置いとけばいいのに。なんでわざわざこっちにくるかね。前の席の人達の話に入った方が楽しいだろうに。
「俺は何も思いつかない」
「まぁ、難しいよな。清原って部活入ってたっけ?」
「何も入ってないけど」
「そう。ちなみに俺はサッカー部」
知ってるよ。何回か話が聞こえてきたことがある。なんでも、部活内の評価は期待の星らしい。
普通に凄いと思うけど、それを踏まえればそんないかにも輝いてます!みたいなやつが俺みたいな日陰者に構うのか不思議だ。これが岩田の善性なのか。
「サッカー部も何かするのか?」
「ああ、毎年何かしら屋台を出してるらしい。今年もやるんだと先輩が息巻いてるよ」
そんなに気合が入るものなのか。
運動部、練習もあるだろうにそっちに現を抜かしていいのか?
「それじゃ、誰か新しく意見が出てきた人はいる?」
二藤の言葉が聞こえると教室はゆっくり静寂を取り戻していく。しかし、元通りになる前に意見を言うものが現れ、前よりも騒がしい雰囲気で進行していく。
「よし、じゃあ多数決取るぞ。みんな一旦伏せてな」
林橋の言葉でようやく賑やかな空気は流され、教室は沈黙に包まれた。
「じゃあ、順番に聞いてくぞー。まずは・・・・・・」
淡々と提案されたものが聞かれ、話が進んでいく。
多数決の時ってこうやって伏せたりするけど、進行する人によっては、次に行くまでの時間である程度、どれが多いとか少ないとか分かりそうだよな。
・・・・・・そんなのは大して関係ないのか。
「みんな、もういいよ」
二藤の声で顔を上げる。俺があげた頃にはもう視界に入る人はほとんどが顔を上げていた。
「よし。発表するぞ。一番多かったのは、喫茶店だ!」
おおーっと数名が感嘆のような声を出す。
なんか知らんけど合ってた。でも、このままさっと終わる気もしない。
「でも、ただの喫茶店だと味気なくない?」
一人の生徒が声を出して尋ねる。
「そうだな。何かコンセプトとか欲しいな」
林橋は考えるようなポーズを取って、その意見に共感する。
ほらな。やっぱりそういうこと言うだろ。まぁ、もともとそのままだとどうとかって林橋が言ってたしな。
コンセプト、と言われても、思いつかないな。とりあえず、その横に書いてあるメイド喫茶っていうのはなしだろ。
「メイド喫茶、どうだ?」
「味気なくない?」とか言ってた人が何か知らないけど推してきた。
そういえば、この案出したのもあなたじゃなかった?どんだけそれがいいんだよ。
「それはあんたが見たいだけでしょ」「嫌なんだけど」と少数の女子達から非難の声が聞こえてくる。意見しているのはクラスでも上位グループの女子達だ。
あーあ、言わんこっちゃない。
「冗談だよ、冗談」
男子が言うと女子も次第に静かになる。
冗談って言って収まったって言うことは彼はそういう立ち位置で確定しているのかな。まぁ、奇妙な場所だけど、そんな所にいれるのは本人の実力と頑張りの成果か。図太いと言うのかもしれないけど。
「じゃあ、和風なのはどうだ?」
隣の席の岩田が突然意見し出した。
「和風か。いいな。他に意見とか。反対の人はいるか?」
林橋が納得の色を見せるとクラスに問いかけるがみんな反対の色は見せない。
「よーし。じゃあ、三組の出し物は和風の喫茶店で決まりだー‼︎」
「「おー‼︎」」
林橋の掛け声で数名が声を上げる。
和風ってありがちな気がしなくもないけど、みんな納得してるみたいだし別にいいか。決まる時はあっさり決まるな。
意見がまとまったことを察知したようで、空いていたスペースに机を置いて何やら作業をしていた担任が前へと歩いてくる。
「よし決まったか。それじゃ、先生暇でくじ作ったから席替えするぞ」
「「やったー‼︎」」
出し物が決まった時よりも多くの人が声を出した。
一ヶ月以上先のことより、今目の前のことの方が大切か。
先生のお手製のくじが入った箱が回され一人ずつ紙を一枚引いていく。
「全員引いたか?よーし、それじゃ、これ見て、番号の席に座れー。目悪くて来たいやつは俺に言ってこい」
黒板に貼られたプロジェクタースクリーンに一つずつに数字が割り振られた席の数だけある長方形を割ったマス目が映し出される。
各々がそれに従い、席を移動し始める。
俺の席は一番後ろの、廊下から二番目か。
隣の席、一番廊下側には小山が座った。
後ろの次は隣か。なんか連続で近いと申し訳ないような気がするな。
「よろしく」
小山に挨拶をすると目を逸らされた。
俺何かしたかな?何もしてないと思うんだけど。
小山は頭を二、三度横に振った。
「よ、よろしく、お願いします」
初めの頃は顔を見て返事をしてくれたが、わずかな時間の中だが次第に顔は逸れ声も小さくなっていく。
それでも、ちゃんと返事してくれたな。人見知りであることは様子を見てなんとなくわかってたから、返事をくれただけでもいい方か。
「ああ、よろしく」




