11.幸せについて
週が明けて二日目。
俺はなぜか恒例になった夢花との下校をしている。
クラスは週が明けてから明確にグループ分けが施されているように感じた。たぶん、日曜の親睦会の影響だ。もちろん、それに参加していない俺は依然としてぼっちだ。
いや、ぼっちっていうのは性格じゃないな。中取もたまに教室に会いにくるし、何より夢花という存在がいる。
朝は一緒に登校。昼はいつもの場所で一緒に食事。で、放課後は今みたいに一緒に帰るのが慣習化されつつある。
最近は、聞き飽きたのか、興味がある相手全員に答えたのか、夢花との関係を聞かれることもほとんどなくなったな。
まぁ、それは俺も聞きたいことでもあるんだけど。
・・・・・・今、いっそのこと聞いてみようかな。
いや、なんかむすっとされそうだし、はっきりとは言ってくれなそうだからやめとくか。
「ねぇ、今日ってお・・・・・・」
信号を待っているとつぶやくように夢花は口を開いた。
なぜ『お』から先を言わない?そこから先が肝心そうなのに。
今日は比較的口数が少ないと思っていたら、何か言いたいことか聞きたいことがあったからなのか。
こうやって話を切り出す時は大体突拍子もないこと言い出すけど、今回も例に漏れないのか。むしろ逆に楽しみだ。ちょっと程度は考えて欲しいけど。
「今日って何か特別なことがあったりする?」
目の前を車が通り過ぎると同時に夢花は言葉を紡ぎ直す。
いや「お」から始めないんかい。
その言い方、何か多少の確信を持って聞いてるように聞こえるんだけど。だって、普通そんなこと聞かなくない?
「なんでそんなこと聞くの?」
「・・・・・・なんとなくそう思ったから」
なんとなくでわかるのかすごいな。
そういえば最近、やけに思考を読んでくる人に会ったけど、実は夢花もその類なのか?
特別なことねぇ。ない訳じゃないよ、もちろん。でもそれは、到底夢花が知ってるはずのないことだし。そんな態度に出てたのか?そんなことないと思うけど。
実は夢花って結構鋭かったりする?
他になんかあったかなぁ。
・・・・・・駄目だ。何も思いつかない。
「いや、特に何もないと思うけど」
「ほ、ほんとに?何かない?」
なんでそこまで気になるんだ?俺って実はそんなに態度に出すわかりやすいやつだった?自分じゃ気づかないもんだなぁ。
「そうだなぁ。ない訳じゃないけど。別に夢花さんには関係ないよ」
「うん、うん。なになに?」
なんでそんなちょっと嬉しそうなの?ほんとに関係ないよ?
「今日母さんの誕生日なんだよ」
「うんうん」
ね、関係なかったでしょ。なのに、なんでそんなちょっとテンション高めなの?
「私もぜひ祝わせて欲しい」
「いやでも、そんな」
「ぜひ!」
ぐいっと前に詰めてくる。その後すぐに信号が青になる。一瞬だけでも紛らわすために信号が変わったことを伝え、横断歩道を渡る。
さて、どうしたものか。突然祝わせて欲しいと言われてもな。
「それで、ぜひ私も!」
やっぱりまだ聞いてくるよね。ここで引く訳ないだろうけどさ。
「祝うって言ったって、具体的に何するの?」
「家に行っちゃ駄目?」
「え?」
駄目・・・・・・って言う訳じゃないけど。唐突に言われるとびっくりするな。
こっちも家に行ったから断りずらいしな。
「それはいいけど、家に来て何するの?」
「プレゼント買ってくるよ」
「さすがにそこまでは」
「あとで家に行く」
「え、ちょっと」
プレゼントっていきなり渡されたら母さんも困るだろう。・・・・・・いや、母さんならめちゃくちゃ喜びそうだな。
それにこっちの返事無視して行く気満々だな。これ以上言っても聞かなそうだな。
・・・・・・仕方ないな。
◆
「たくとー。お客さんよ」
部屋のドアを叩いて母さんが連絡してくる。
誰かは聞かなくてもたぶん予想は当たってる。むしろ高校に入って俺の家に来そうなのって一人ぐらいだからな。
「早くしてあげなさい。待たせたら嫌われちゃうかもよ」
母さんの声は少し弾んでいるように聞こえる。
今ので確定したよ。母さんは色恋沙汰好きだからなー。まぁ、今回はそういうのとは違うと思うけど。
「はいはい今行くよ」
来ないとは思ってなかったけど、やっぱり来たな。来ると思ってたけど。
夢花は一回別れてプレゼント買いに行ったらしい。今来たということはプレゼントを買い終わったってことだ。
あれも持って行くか。夢花の目的があれである以上は合わせた方がいいだろうし。
ドアを開けて部屋を出る。母さんがいないからもう下に降りたのだろう。
リビングから話し声が聞こえる。
やっぱり家に上げてたか。母さんが外で待たせてるとも思ってなかったけど。
「拓斗遅いわよ」
リビングに入ると母さんは夢花とソファに座っている。
「待たせてごめん」
「全然構わない」
夢花は間髪入れずに答えてくる。
母さんの前でも態度は変わらないか。自分の親とは違うとしても、知ってる人の親となったら多少は緊張すると思うけど。
「あ、お義母さんこれを」
夢花は足元に置いていた袋を母さんに渡す。
いや、ちょっと待て。なんか今おかあさんの言い方に違和感を感じたぞ。気のせいだよな。
母さんは驚いた様子で袋を受け取る。
「これは?」
「今日が誕生日だと聞いたので、プレゼントです」
「まぁ!なんていい子なの!」
母さんは凄い勢いで夢花に抱きついた。
なんか引っかかる部分もあるけど喜んでるみたいでよかったよ。
「母さん、俺からもこれ」
母さんはこっちに向きかえると俺が差し出した袋を受け取った。母さんはこれ以上ないくらい満面の笑顔を浮かべている。
「ほんとは父さんと一緒に渡そうと思ってたんだけどな。でも、ちょうどいいし」
「もう、この子ったら」
「ちょっと」
恥ずかしいから抱きついてくるのはやめてくれよ。
肩を持って引き剥がすと母さんは不服そうな顔をした。
「夢花ちゃん」
「はい?」
いつの間にか名前知ってるし。インターホン押した時にでも言ったのか?
「拓斗のことだから色々大変してるでしょ?」
「そんなことは」
いや、失礼だな。俺なんか迷惑かけた?頼むからそうならはっきり言ってくれ。
「でも、気持ちはちゃんと伝わってるし届くから安心して。それに拓斗の心一回掴んだら離しちゃだめよ。ああ見えて結構執念深いから」
「なんだ?執念深いって」
「ごめんごめん。愛が重い」
それは変わってるのか?いい方向になってるのか?イメージ的にはそんなに変わらない気がするけど⁉︎
「ごめんって悪く言ってるつもりはないの」
俺の視線が伝わったらしく母さんは弁解し始めた。
それはわかってるけどさ。もうちょっと言い方なんか思いつかなかったのか。
「大丈夫です。手放すつもりなんて全くないので」
それは頼もしいって言っていいのか?こっちの方が愛重そうじゃない?
「あんたも幸せものねー。こんなに」
感慨深そうな顔を浮かべて母さんはこっちを見てくる。
「母さんはどうなんだ?」
「私?私ももちろん幸せよ。息子にプレゼントまで貰ってるからね」
そう。ならよかったよ。
俺からの贈り物ぐらいで幸せなんて言い過ぎな気もするけど、母さんが喜んでくれるなら今日はそれで十分だ。




