10:謎は増えるばかりについて
ふと時計を見てみると、時計は五時半を示していた。
もう、こんな時間か。意外に時間が経つのは早かったな。
夢花の家に来て、かれこれ三時間ぐらいは経ったのか。やったことといえば、雑談して、テレビ見たり、お母さんも交えて雑談したり・・・・・・ほとんど話をして過ごしてた気がする。
現状は三人でテーブルを囲んでいる。
今日だけでお母さんともかなり話したけど、話しづらさとか気まずさみたいなものは、案外感じなかったな。
きっとそれはあの人の人柄がそうさせてるんだろうな。明るく朗らかで包容力のある人だ。
「それじゃあ、そろそろおいとまするよ」
「え、もう・・・・・・」
そんな名残惜しく見ないでくれ。また明日も会えるだろ。
「あら、うちでご飯食べていかないの?」
「そんな、申し訳ないですし」
「いいの、いいの。あなたは夢花と仲良くしてくれてるみたいだし」
お母さんは体の前で手を軽く上下に振りながら笑ってのける。
仲良くしているだけで夕飯って振る舞ってもらえるものなのか。いや、母さんもたぶんそんなことしそうな気がするけど。さすがにそこまで迷惑かけるわけにはいかないよな。
「ぜひ、食べて行って」
俺が断ろうと口を開こうとした瞬間に夢花が念を押してきた。ぐいっと体を近づけて訴えかけてくる。
「わかったよ。ぜひご馳走になります」
まぁ、時間が遅くなると困る訳でもないし、今日ぐらい構わないか。一応、母さんに連絡だけしておこう。
スマホを取り出して母さんにメッセージを送る。簡単に『夕食は食べていくから、自分の分はいいよ』とだけ。
「それじゃ、すぐ作るからちょっと待っててね」
お母さんはキッチンへと歩いていく。
「そういえば、旦那さん・・・・・・お父さんは大丈夫なんですか?」
今日この家に来てからこの二人以外の人を見ていない。おそらく仕事なのは予想できるが、先に食事をしてもいいのだろうか。
お母さんは食材を取り出しているところを一瞬だけこっちを振り返る。
「もうすぐ帰って来ると思うわ。ほら、噂をすれば」
ガチャっと扉が開き、閉まる音がする。その後すぐに足音が聞こえ始めた。
「ただいまー!今帰ったよ」
リビングにやけにテンション高く、一人の男性が入ってきた。渋い、という言葉がよく似合うような容姿をしている。
きっとこういう人がイケオジって言われるんだろうな。なんか入ってきた時の印象はあんまりイケオジのイメージにはないけど。
ていうかこの家族美形しかいないな。親子揃って全員か。
「いやぁー。帰ってきたよ愛香・・・・・・っ!!」
キッチンの方を向いてイケオジは固まってしまった。
場所的にキッチンの近くにいる俺はリビングがある廊下からは見えず、そのまま入ってきても右を向かないと見えない位置にいたから今気付いたのだろう。
イケオジはそそっとキッチンの中に入り、お母さんの側に行く。
「ねぇ、お客さんいるなら言ってよ。すごい恥ずかしいじゃん」
「ああ、あれは清原拓斗くん」
お母さんは俺の名前を紹介するとイケオジの耳元に口を持っていき、小さく話している。もちろん、内容は聞こえない。
「なるほど、なるほど」
イケオジは何かを理解したように軽く頷き、こっちに寄ってきた。側までくると俺の肩を軽く叩く。
急に、何?一体あの人は何を言ったの?ちょっと訳がわからないんだけども。
「そうか、そうか。今日はゆっくりしていきなさい。私のことは好きに呼んでくれていいぞ」
そっか、じゃあ母親のことお母さんって呼んでるし、お父さんかな?ってそうじゃなくて、一体何を吹き込んだの?まずはそこの説明をしてほしいんだけど。
それにゆっくりしていってねと言われてもさっきまで帰ろうとしてたんですけどね。
あ、肩組んできたこの人。
「お父さん離れて」
夢花はムッとした顔で俺の腕を引っ張ってくる。
あのー、すみません。なんでこんなことになっちゃってるんですかね?左右に引っ張られてちょっと痛いし。
「いいじゃないか、夢花。それに父さんにも紹介してくれよ」
「その前に離れて」
「仲良いわねー」
お母さんはキッチンから優しく微笑んで作業を続けている。
助け舟は出してくれないのか。その前にたぶん、あなたのせいでこうなってるんですけどね?一体何を言ったらこんなことになるんですか?
「まぁ、まぁ。一旦座って話をしようか」
そう言ってお父さんは俺から離れるとテーブルを囲んでいる席に座った。
夢花も続いて席に座る。そして、その横にある席を軽く叩いた。
また、隣か。これは、大人しく従った方がいいんだろうな。
席に着くとお父さんは俺の顔をじっと見て微笑んだ。
「あ、お母さんさん手伝いますよ」
「いやいや、お客さんはじっとしてなさい」
なんとなく空気に耐えられず、逃げようとすると正面にいるお父さんに肩を押さえられて座らされた。
「それで、夢花。紹介してくれるんだろう?」
「ん。私の大事な人」
思わず声を出しそうになってしまった。
おいおい、ちょっと言い方があれじゃないか?それは一体どういう意味でかな?
というかお父さんにはそういうこと言うんだな。それだけ信用はしているってことか。いい家族だな、本当に。
「そうか、そうか」
うんうんって頷いてるけど、どういう解釈してるんですかね?
「仲良いわねー」
うん、お母さん。あとどれぐらいでできますかね?ちょっと急いでもらえると助かります。
◆
「本当にもう帰るのかい?」
「はい。お邪魔しました」
夕食を食べ終わると俺はそろそろ帰ると親子に伝えた。親子は依然としてまだ留めようとしていたがさすがに時間も相まってそこまで強くは言ってこない。
「送ってく」
夢花が隣にきて立候補し出した。
「いや、いいよ。時間も遅いし。一人でもちゃんと帰れるから」
「あ、じゃあ、俺が送っていこうか?」
「いらない」
お父さんが提案するもそれは夢花にあっさりと断られてしまった。ガーンとお父さんは肩を落としている。
あのー、なぜ、夢花が答えるの?やっぱりついてくる気満々なのか?
この際俺が大丈夫かどうかは関係ないんだろうな、きっと。
横を見ると夢花はこっちをじっと見つめている。
「わかったよ。それじゃ、お邪魔しました」
◆
「ここまででいいよ」
駅の前に着くと一旦足を止める。
「でも・・・・・・」
「さすがにこれ以上は遠くなりすぎちゃうからな。それに夢花さんみたいな可愛い子は一人になる時間が長いと危ないだろうし」
また、今日の昼みたいなことになるかもしれないからな。場合によってはそれ以上かも。なんにせよ、女の子が一人は危ないだろう。
俺は夢花が帰るのにはついて行けないし。ついていったら何のために来てもらったんだって話だからな。
あれ?なんで顔赤くなってるの?
「仕方ない」
「それじゃ、気をつけてな」
「・・・・・・また明日」
「また明日」
手を振られたので、手を振ってお返しする。
駅の中に入ると人で夢花の姿はあまりはっきりとは見えなくなった。それでも俺が見えなくなるまでいる気がするのはなんでなんだろうな。
ホームまで行くとちょうど、電車が来たので乗り込む。
人は案外少ないな。席もちらほら空いてるし。まぁ、ラッキーだったな。
ピロンとスマホが甲高い音を立てる。
なんだ?母さんかな?
スマホを確認すると一件、夢花のお母さんからメッセージが届いていた。
『ごめんなさい。やっぱりちょっと気になってしまって』
気になるって何が。そういえば、今日は俺の身の上話みたいなのあんまり聞かれなかったし、そういうのかな。
『夢花って最近変わったと思うの』
え?どういうことだろう?
『変わったとは?』
『なんとなく雰囲気が。入学式のあたりからそんな感じがするの。まだそんなに経ってないけど。だから高校ではどんな感じなのか気になって』
まさかの夢花の話。変わったって言われたってなー。出会ったの最近だからそこら辺はよくわからないな。
『自分といるときはいつも大体あんな感じですよ。それ以外の時はわからないですね』
今日家で過ごしている時も大して学校と違うとは感じなかった。ただ、夢花が自分のクラスにいる時はどんな感じなのかは知らないけど。
『そう。あの子、中学までは周りをよく気にして、周りに合わせて行動するタイプだったんだけど、高校でもそうなのかしら?』
周りに合わせて行動する?なんかイメージと違うな。
俺が知ってる夢花は自分のやりたいことに夢中というか、自分を貫いている感じだ。教室に来た時も周りに目もくれてなかったし。
だからそれはなんか違う気がする。
『自分が知ってる限りはちょっと違うような気がします』
『そっか。何かあったのかしらね。私にはいいことなのか悪いことなのかも判断つかなくて急に聞いてごめんなさいね』
『全然大丈夫ですよ。それに自分の意見を持つことはいいことだと思います』
『もしかして、あなたが変えたのかしらね?』
『それはどういう意味ですか?』
『どうなのかしら』
俺が変えた、か。
どっちともはっきり言えないな。夢花は出会った時からああだった。それが本当の自分だったのか、変わったのか。それは今は考えてもわからないな。
スマホを閉じるとちょうど、駅に停まった。
降りよう。
これから乗り込む人達の前を通って電車を出、駅のホームを歩いていく。
◆
日もだいぶ暮れてきた。結構暗いな。最近はこんな時間に出ることはなかったから、街灯の灯りが新鮮な気がする。
にしても、今日はなんか濃い一日だったな。
母さんのプレゼント買いに行って、夢花の家に行って。うん、特に後者が濃かった気がする。
明日からはどうなることやら。
あ、そういえば、今日は西公園に行かないでほしいって言われた理由聞くの忘れてたな。
・・・・・・別にいっか。特に問題もなかったし。
うん?なんだあれ?
ピタッと反射的に足が止まった。少し道の先に何かがある。ちょうど街灯と街灯の真ん中にいるせいではっきりとは見えないがおそらく人・・・・・・な気がする。
体勢から見るに壁にもたれかかっている。周りに他の通行人がいる気配はない。
こんなところで何をしてるんだ?・・・・・・もしかして、倒れてる⁉︎
急いで駆け寄ってみる。その人影は女性だった。
「大丈夫ですか」
「お、」
返事をした!よかった。意識はあるみたいだ。
「どうしました?」
「お腹空いた」
「は?」
なんか久々に間抜けな声が出た気がする。
いや、初めて見たな、行き倒れなんて。とりあえずどうしたらいいんだ、この場合って。
「ど、どこかにチェーン店とかない?」
「そこまで案内すればいいんですか?」
「うん」
「ちょっと、返事しながら目を閉じないでください⁉︎案内しますからもうちょっと頑張って!どこでもいいでよね?」
◆
「はー。生き返るー。本当に少年は何もいらないのかい?奢るのに」
女性は牛丼にがっつきながら尋ねてくる。
「いいですよ。さっき食べたばっかなんで」
「ふーん」
女性は大盛りにした牛丼を今二杯目を食している。
どんだけ食べるんだよ。どんだけお腹空いてたんだよ。
店を案内したら、帰ろうと思ったけど、なんかお礼がしたい、話し相手が欲しいと言って引き止められてしまった。
「なにー。そんなじろじろ見て」
「見てないですよ」
「またまたー。私が美人だからって惚れちゃダメよ」
なんかため息が出そうになった。なんでだろう?
確かに美人なことは否定しないけど、そんな簡単に惚れないって。
「いや、身長意外と高いなって思っただけですよ」
ここに連れてくる時、肩を貸す羽目にまでなったがこの女性は俺よりも高かった。俺だって平均の少し上ぐらいはあるんだけどな。たぶんこの人は百八十は超えてると思う。
「いやー。なんで私があんなところで倒れてたのか気になってるんでしょ?」
バレてたか。といっても誰だってそれは気になると思うけど。
「私、この辺りに今度店を出すんだけど、それの準備してたら、熱中しちゃって、今日一日何も食べてなくて、ここには最近来たばかりだから、店の場所も分からなかったんだよね」
それであそこで倒れていたと。そんなことあるんだ。というか、家には何もなかったのか?一日食べなかっただけで、倒れるぐらいにまでなるのか?
「あ、一日断食したぐらいでそうはならんだろって思ってるでしょ」
なんでわかるの?そうだけどさ。
「私、食べないとやってられないんだよね」
それは見てればなんとなくわかる。でも、食べないとやってられないならなんで一日断食できたの?
「ああ、食べなかった理由は私は熱中すると他のこと忘れるからだよ」
完全に思考が読まれてる。なんかちょっと怖いよ。ここまでくるとさ。
ああ、もう牛丼も半分くらいになってる。そのいいスタイルのどこに入ってるんだろう。
「それにしても君、ごっついの待ってるねー」
何言ってるのこの人。持ってるって言ったって、今あるのはスマホと財布が入った、小さめの鞄ぐらいだし、ごっついのなんてないけどな。
「ああ、物体として持ってるって訳じゃないよ。私見えるんだよね。占い師だから」
は、はあ。占い師ってそんなの見えるんだ。なんか、すごいですね。
「信じてないでしょ」
「まぁ、はい」
「でも、私には見えるの」
「じゃあ、なんですかそのごっついのって」
「それは分からないよ。なんかそんな感じのものを持ってるってだけで」
うーん。やっぱりにわかには信じられないな。そもそも初対面だし、相手の言うこと全部信じろって言うのも無理あるけど。
「あ、そうだ。じゃあ、占ってあげようか。今日のお礼として」
「いえ、結構です」
「そう言わずに」
「大丈夫です」
「じゃあ、勝手にやるね」
女性は不思議なカードを取り出した。顔の前に持ってきて何やら念じているように見える。
「うーん。調子悪くてあんま見えないや」
うん。じゃあ、やっぱ無理があるね。
「あ、でも一つわかったのは再来月、何か大きなことが訪れるよ」
大きなこと?再来月って何かあったかな。ああ、そうだ確か文化祭があるんだった。
確かに大きなことだけど、ごっついの関係あった今?
「君が今思ってるやつの中で何かが起こるみたいだね」
「はぁ」
「信じてよ。これでも占いなら天下一品なんだから」
そう言われましても。そもそも占いってどこまで信用していいんだろう?わかんないな。
「ま、今日はもう帰ろうか。今日はありがとね。よかったらお店に来てね」
そう言って女性は会計へと向かう。 俺も店を出るために立ち上がった。そのまま歩いて店を出る。
結局あの人なんだったんだろうな。再来月、文化祭。何かあるならその何かを教えてくれればいいのに。占いもそこまで万能じゃないのか。
とりあえず、今日は帰ろう。ほんとに濃い一日だったな。最後のも結構重たかった。




