1:告白のいなし方について
ーーーズキッ!
いって。またか。今日はなんか定期的に頭痛がするな。それになんか眠いし。
今日は高校の入学式だ。そんなわけで、俺、清原拓斗は今日からはれて高校生となった。
だというのに初日から決して軽くはない頭痛に苛まれるとは、我ながらほんとについてない。
それにこの頭痛なんか変だし。痛みが続くんじゃなくて、ふとしたら急に痛みが襲ってくる。俺は偏頭痛とかそういった病気を一切持ってないし、ほんとになんだこれ?
はぁー、しんど。帰りたい。
といっても今日の予定はちょうどさっき全部終わったから、もう帰れるんだけど。
俺が帰らないのは今日からクラスメイトとなった人達に話しかけるべきか悩んでいるからだ。
こういうのは最初が肝心。同じクラスに成り立てなら話しかけやすいが、時間が経つにつれてどんどんそれが難しくなっていく。
この一年ぼっちは避けたいけど、今眠すぎてちょっとめんどくさい。
教室内を見回すと机の数に比べて人の数が少ない・・・・・・気がする。
ちょこちょこ、帰ってる人いそうだし、もう帰ってもいいかな?
ーーーズキッ!
いてっ!またか。
ほんと勘弁してくれよ。
「お前、大丈夫か?」
「え?何が?」
いきなり喋りかけられたからうまく返せなかった。
話しかけてきたのは隣の席の人だ。名前は確か、い、い・・・・・・うーん、だめだ、思い出せない。
名前順に座っているから二列目の俺の隣に座っている一列目の彼は「い」からであってると思うんだけど。
「いや、今日たまに、さっきみたいに頭抑えてたから」
毎度頭痛がするたびに左手は頭を押さえていた。今回もそうだ。この人はその様子をよく見ていたらしい。
そういえば、考えたことがなかったけど頭痛がすると人は頭を押さえるが理由はよくわからないな。別に押さえたところで特に何か変わるような気はしないのに。いや、何か変わるのか?
まぁ、なんでもいいや。結局やめることはできないだろうし。やったところで何か不利益が生じるわけでもないし。
「あー。大丈夫、大丈夫」
俺は笑顔を作りながら言う。それでも彼は少し心配そうな顔をしてきた。
それにしても初対面だというのに心配してくれるとはいい人だな。
ーーーズキッ!
今回は早いな。いつもはもうちょい間隔あったじゃん。いちいち覚えてないし、別に数えてなかったからわかんないけど。
あーあ、心配そうな顔がもっと深刻になったよ。まったく。
「しんどいなら早く帰った方がいいんじゃないか?」
「そうだな。そうさせてもらうよ」
ちょうどさっきまで帰ろうかどうか考えていたし、ちょうどいい。他人にも勧められたから今日はもう帰ろう。
高校生活は始まったばかりだ。今日の分はまた取り返せるだろ。
俺は席を立った。隣の彼が席を立つ気配はない。
「それじゃ、また明日」
「ああ、また明日」
隣の彼は俺の返事を聞くと前を向いた。座ったままの状態だ。
他の人に話しかけに行ったり、帰ったりしないのか?
理由はちょっと気になるけど、そんなことを聞ける間柄じゃないしな。それに聞かれたくないかもしれないし。余計な詮索はやめとこう。
俺は教室のドアへと向かう。教室内にはすでにいくつかのグループができている。
グループの中心にいるのは明るいような印象を持たせる生徒。つまり、俺から言わせれば陽キャという種類の人達だ。
俺みたいな特徴のない奴にはなるのが難しい種類。しかしながら、正直なりたいかと言われたら微妙な種類だ。
俺だけかもしれないけど・・・・・・。
実際なったら、色々めんどくさそうっていうか。たぶん根本的に性格がそういうのに向いてないんだろうな。
「おっす、清原。偶然」
廊下に出て数歩進むと中取昌雄が話しかけてきた。
中取は俺の中学からの知り合いで紺色のフレームの眼鏡をかけている。中学ではずっと同じクラスだったが今回は別々のクラスになってしまった。
「久しぶり。相変わらず、元気そうだな」
「元気だけが俺の取り柄だからな」
それでいいのか?とは話していて毎回思う。
中取は自分ではこう言っているが取り柄なんてもっと持ってる。
気配りがうまいし、話してて面白いし、それに豆知識が豊富だ。
「そうそう、一組にすっげぇ美人がいるらしいの。しかも、二人」
いつにもましてハイテンションだ。
それにしても美人か。だからさっきから妙に一組に方向に向かう人が多かったのか。
「なぁ、ちょっと見に行かねえ?」
「いや、遠慮しとくよ」
「そうか・・・・・・」
他のクラスでも初日に噂になるほどだ。全くもって興味がないと言ったら嘘になるが、わざわざ見に行こうとは思わない。
これから同じ学校に通うんだ、そのうち目に入ることはあるだろうし、クラスも違う俺みたいな特徴のない奴と仲良くなるのも大変だろうしな。
ーーーズキッ!
またなのか?いい加減早く終わってくれよ。ほんとに。
中取の方を見るとちょっと表情を曇らせている。
こりゃ、また顔にでも出て、中取にも心配かけちゃったか?
「悪いな。ちょっとしんどいからもう帰るよ」
「大丈夫か?一人で帰れるか?」
「大丈夫だよ。そこまでひどくない」
「そうか、お大事にな」
俺はそのまま心配そうな顔を浮かべる中取と別れた。
それにしても全然治らないな。いや、痛みがいちいちなくなるせいで治ってるか判別はつけづらいんだけど。
ひどくなっても困るし、一応薬局で薬買って帰るか?効くかどうかはわからんけど。
薬局は帰り道の途中にあるし、お金も持ってるしそうするか。
「ありがとうございました」
買った薬が入った袋を右手にぶら下げ、店を出る。
何が効くかわからなかったからとりあえずテレビとかでやってたやつにしたけど大丈夫かな?
買い物行くまでに治るかなー、なんて思ってたけど全然そんなことなかったな。
むしろ今からは治ってくれるなよ。なんか損した気分になるから。
俺は歩きながら少し辺りを観察する。
この道が高校までの最短距離。つまり常用する通学路。
これからはこの景色がいつものものになるんだな。代わりに前までのものはいつもではなくなると。そうなると少し寂しく感じるもんだな。
「あ、あの!」
俺は道の真ん中で立ち止まる。
地理的な問題なのか、時間的な問題なのかわかんないけど周りには人がいないし、多分俺だよな。
声的にはたぶん女性。でも、聞いたことない声だな。一体誰だろ?
振り返るとそこには一人の女子生徒がいた。
俺と同じ高校の制服を着てる。入学式で渡されたコサージュ?もつけてるし同じ一年生か?
にしても、えらく美人だな。もしかして中取が言ってた美人ってこの人か?でも、話しかけられる覚えなんてないな。
この人に見覚えがない。こんな美人一度会ったら忘れないと思うんだけど。
なんだ?美人女子生徒が急に駆け寄ってきた。
え?なになに?怖い怖い。俺、なんかした?
あれかな?落とし物とかかな?でも、手にそれっぽいもの持ってないし・・・・・・。
ギュッ
・・・・・・はい?
これはいったい何事だ?
ものすごい美人が駆け寄ってきたと思って立ちすくんでたら止まることなく胸にダイブしてきた。
どゆこと?
「ーーーッ」
?
彼女を見ると若干肩を震わせている。それになんか小さくすすっているような声も聞こえるし、もしかして泣いてる?
なんで?
見知らぬ人の胸の中で泣くなんて、何があったらそうなるの?誰か教えて。
というか何この状況。意味わかんない。
「あの、大丈夫?」
俺が声をかけると彼女は勢いよく顔を上げた。
その瞳には涙が浮かんでいる。
え、これ、俺が泣かせたってこと?ほんとになんで泣いてるのさ。
そんなじっと見てないで教えてくれよ。
「あ、あの」
俺が彼女の顔を注視できないで目を逸らしていると、彼女はゆっくり声を出した。再び彼女の方に目をやると何やら覚悟を決めたような顔をしてる。
え?これ何言われんの?
ねぇ、俺が何したっていうの?
謝る、謝りますから早く続きを言ってください。今のままじゃ何に謝ればいいのかわからない。
「わ、私と、付き合ってください」
・・・・・・・・・・・・へ?
ちょっと何言ってるのかわからないな。
「え、あの・・・・・・」
「付き合ってください」
あれぇ?聞き間違いじゃなかったよ。
聞き間違いであって欲しかったなー。なんて。
「あの、誰かと間違えてませんか?」
「いや、あなたで合ってる」
あ、俺なんですか。そうなんですか。ふーん。で、なんで?
なんなの?ほんとに俺この人に出会った思い出ないよ!ゼロのはずだよ!
俺、引っ越す前に仲の良かった子がいたとか、旅行先で不思議な子に会ったとかそういったこと一切なかったよ?
俺はラブコメの主人公じゃないんだよ?
それが何これ?
何?今は初対面の人に告白するようなことが当たり前なの?俺が置いていかれてるの?
ねぇ、もう意味わかんないとかそういうレベルじゃないんだけど!
・・・・・・一旦落ち着こう。クールダウンだ。クールダウン。
「その、ほんとに俺で合ってる?」
「間違えるわけない」
「なんで俺なの?」
「・・・・・・?好きだから意外に理由は見つからない」
ワーオ。好きとまで言いましたよ、このお方。
一体どういうことなんでしょうね?誰かわかった方いらっしゃいます?
あれか?一目惚れってやつか?俺みたいな特徴のない奴に?
百歩譲ってそうだったとしても流石に初手告白なんて大胆なことしないよな。
あれじゃないか。なんか罰ゲームとかじゃないか。具体的には何も思いつかないけど、そんな感じだろ。
じゃないとこの状況飲み込めないよ、俺。
「だめ、やっぱり、無理」
ほら。見てください。無理頂きました、無理。
やっぱり罰ゲームかなんかだったんだな。じゃないと俺みたいな奴に初対面で告白するなんて考えられないもんな。
あー。よかったよかった。
それはそれで無理とか言われるのはすごい傷ついたけど。
ていうかこの人いつまでくっついてるんだろう?
かなり恥ずかしいってか緊張するんだけど。
なんか必死にこっち見てくるし、結構力強く服掴まれてるから離れづらかったけど、無理ならもう離れてもらって。
「キスしてもいい?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほへぇ?
もう、理解しようとするのやめようかな?
無理ってキスを我慢するのが無理だったってこと?
アッハッハ、意味わかんねぇ。
彼女が顔を近づけてくるのを流石に肩を掴んで止める。
さっきまでは緊張で触りづらかったけど、流石にキスまでくれば話は別だ。
顔を離すついでに体も一旦離れさせる。
なんかすごい不満げな顔してるけど、それは一旦無視だな。
「君はほんとに俺のこと好きなの?」
「そうだとずっと言ってる」
「そっか。でも、ごめん。やっぱりいきなりは付き合えないよ」
「やっぱり私じゃ駄目?」
すごいしょんぼりした顔してる。
くそ!可愛いなこの子!
でも、やっぱり初対面ではきついだろ。
「そうじゃなくて、俺まだ君のこと知らないからさ」
「あなたは、私のこと知りたいってこと?」
「まぁ、そういうことになるかな?」
あ、今度は顔がすごい明るくなった。
表情豊かだなー、この子。
「じゃあ、いくらでも教えてあげる。私のこと、なんでも!」
うん。なんとなくこんな感じのことになるような気がしてた。
うん、ほんと。なんでこうなったんだろ。
「いや、お互いゆっくり知っていこう。その方がより理解が深まると思うし」
「つまり、その分長く一緒にいられるってこと⁈」
だーめだ。この子すんごいポジティブだ。
どうしたらいいんだろうな、これ。
俺、一体何をしでかしたの?
あれ、そういえば驚きの連続で名前聞くの忘れてたな。
「聞くの忘れてたけど名前はなんて言うの?あ、俺は清原拓斗」
「私、宮咲夢花」
宮咲夢花。やっぱり知らない名前だ。
やっぱり初対面だよな俺達。なのに距離の詰め方おかしくない?
いや、俺は人付き合いが得意な方ではないけど、明らかにこれは変な気がするよ。
「それじゃ、宮咲さん。今日はもう帰ろう」
「あ、家まで送る」
「いやいやいや、そこまでしてもらわなくて大丈夫だから。気持ちだけ貰っとくよ」
「・・・・・・そう」
なんでそんなしょんぼりするの?
すごい申し訳なくなってくるじゃん。
「あの・・・・・・」
「どうかした?」
帰ろうとした矢先に宮咲は俺のことを呼び止めてきた。
今度は一体何?
あれか?ここまできてやっと、嘘でしたーってネタバラシの時間か?
宮咲はポケットの中を探ってスマホを取り出した。
「連絡先交換したい」
スマホをこちらに向けて近づけてくる。
だよな。この状況でスマホ取り出したら、大体そうくるよな。
まぁ、断る理由は特にないし、連絡先の交換ぐらいで不利益を被ったりしないだろ。
俺は鞄にしまっているスマホを取り出して連絡先を交換した。
宮咲は今日一番の笑顔を作っている。
「じゃ、また明日」
「あ、うん、また明日ね」
俺が別れの挨拶をすると宮咲は大事そうにスマホを抱えて返した。
はぁー。今日は色々あったな。
といっても、入学式の他にはさっきのことしか思いつかないけど。
ほんとに、なんで宮咲は俺に告白してきたんだろ。
急に話しかけてきて、泣いて、告白してきて・・・・・・羅列したらほんと意味わかんないな。
俺が宮咲のこと忘れてるだけなのか。でも、ほんとにわからない。
けど、今日初対面だったとしても流石にあの行動はおかしいし。
あー、誰もいなかったと思うけど、同じ学校の人とかに見られてないといいな。
あんな美人だとみんな興味持ってるだろうし、変に恨まれるのは嫌だし、目立ちたくもないし。
ピロンと俺のスマホが通知音を鳴らした。
確認すると宮咲から一通メールがきていた。
『私が必ずあなたのことを幸せにしてみせます』
これ、返信した方がいいかな?でも、なんて送ればいいの?
あー、誰かほんと、どういうことなのか教えてくれ。