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再会、そして殴打

ビートルギルドではこれからの職業案内ができなくなるといわれていたので、私はそのまま王都にあるクイーンギルドに来た。

ルーツミの下町情緒あふれる、よくあるタイプの小上がりのある居酒屋ではなく、パブ形式の立ち飲みのテーブルが並んで若い人で賑わっていた。


私はやや気難しそうな、初老のギルド主に話しかけた。 


「あの、私、他のギルドに所属してたんですけど、今度閉鎖されることになってしまって…こちらで仕事やクエストを紹介してもらえないでしょうか?」

「ああ……女勇者さんね。ビートルギルドから話は聞いてるよ。でもねえ…」

「でも?」

「今はクエストに対して求人の数が多すぎて、紹介できる仕事がないんだ。魔王がいなくなってしまったから、今はモンスターの残党狩り要請がたまにあるくらい。あと、あなたは今、パーティではなく一人だよね? ソロはちょっと危ないよ」

「ソロって……パーティーをこれから組めばいいのでは」

「パーティーって言ってもねえ。言いにくいんだけどねえ、あなたの年齢……38だっけ? この年齢の勇者パーティーについていく人って、いないでしょ。音楽やってる人と同じでね、やっぱりこういうのって見えない年齢の縛りがあるもんだよ」

「そう、ですか……」


クイーンギルドの言葉は、唐突な解雇宣告に近いものだった。

ここまで必要とされていない自分に気づかなかった。



(ギルド主にはああ言われたけど、自分でパーティーメンバーを探せば案外なんとかなる……かも?)


ーーだって私は魔王戦の一歩手前まで行ったんだもの。それに、魔法だって現役時代より勉強している。

変な自負があって、私はテーブルで飲み交わしている人たちに声をかけてみようと思った。

だが、よく見るとみんな私より若かったり、それにすでに長くパーティーを組んでいるような人たちで固まっている。

私は、ぎりぎり同じ年齢に見えなくもない四人組のパーティーに話しかけた。


「あ、あの……私、女勇者なんですけど、よかったらパーティー組みませんか?」

「ああ? 誰?」

「……えっ、その年で冒険に出るつもり?」

「おばさん、冗談きついて。わいらかて、体力使う狩り中心のクエストこなすメンバーで少数精鋭だから、ちょっとこれ以上のメンバーはなあ」

「うん……………それに、あなたはたぶん私たちより、ひとまわり上の世代ですよね。私たち、25歳前後で固まったメンバーなので」


酒の入った男たち三人と、無口な女僧侶は冷ややかな目を向けた後、再び会話に戻ってしまう。

がやがやという騒音が私の不安と孤独をさらに押し上げてくる。


(そうか、そうだよね……私の世代でいまだにモンスター狩りなんてやってる人、ほとんどいない)



私は唇をぎゅっと噛んだ。

不安が押し寄せるのは、ここは少年から初老までいるビートルギルドと違って、ほぼ若い人たちで溢れているのもある。

いまだに冒険者を志す人がいるのだと安心する一方で、私のような年齢の女性がいないことが気がかりだった。



(一人でも……一人でもいい。私がパーティーを組める人が見つかれば)


「ねえ、そこのお姉さん……遊ばない?」


後ろから声をかけられる。

振り返ると、半分酒の入ったひよっ子のようななよなよした体の男二人組がこちらを見て、「あっなんでもないです……」といわんばかりに目を逸らして別の女性のところにそそくさと行った。


(ーーーーしかも顔を見たら逃げるとか失礼すぎる。なんなの、ここ。まるで出会いを求める普通の居酒屋みたいなものじゃない。どうしちゃったのよ、最近のギルドは!?)



店を出ようと歩いていると、ふと大きな背中にぶつかった。

金髪の男はふと振り返るが、気にせず目の前にいる女性と歓談を続けようとする。


「いやあ、君本当にかわいいね。最近僕、個人用に馬車とナンショールに海の見える高級別荘を買ったんだ。僕がよかったら特別に魔法を教えてあげるからここに連絡して……」

「いやあん。どうしましょう、嬉しいけど、彼氏がなんていうかな……」

「今週末なら、君の家に馬車をつけられるからさ。ナンショールの海を見に行こうよ」


(しかも女も彼氏持ち……王都の風紀は思ったより乱れているのね)


ーーくだらないナンパの会話だと思ったが、私は襟元の徽章を見逃さなかった。


「何してるの……ローレン?」

すると、ローレンはしまったと言わんばかりにこちらを見ている。酒のグラスを持った左手の薬指に、今日はサファイヤの大きな指輪はつけていなかった。


「どうしたの、ローレン様?」

目の前の若手魔法使いと思われる少女は、ローレンをうっとりと見つめている。お酒のせいか、ローレンが何か魔術を使ったのかはわからない。

だが、私は先ほどの話を聞いて、嫌な予感がした。


「ローレン……羽振りがやたらいいみたいだけど、身重の奥さんがいるんでしょう。こんなところで何をしているの?」

「ふん。美しい女性と話すのは我が第二の使命……あっちへ行ってくれ」

「そうじゃないわよ。ちょうどいいところで会ったわ、ビートルギルド取り潰しの件、撤回してよ。こちらのギルドに集約するだなんていうけど、あなたみたいに半分出会い喫茶位にしか使ってない人ばかりじゃない。王都ではこんな体たらくなギルドの運営をするのに、ビートルギルドは潰すというの?」

「い、いやあ、まあ最近は業務効率化がね……」

「効率化効率化って、あなたのいう効率化って一体なんなのよ?」


私はふと、先ほどのローレンの話していたやたら羽振りのいい話を聞き逃さなかった。ナンショールの別荘といえば、最近宣伝されて人気の投資先になっている高級別荘地だ。

「まさか、ビートルギルドを売るお金を横領して……」

口の端からのぼった言葉で、私はローレンの顔から一気に脂汗が出るのを見逃さなかった。


ーー私は気づくと、ローレンが魔法を詠唱する前に横っ面を殴り倒していた。




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