セカンドキャリアを考える
ギルドが閉鎖されるというので、私は王都にある一般人向けの転職を斡旋している職業案内所に行くことにした。
私は窓口のキャリアカウンセラーの女性と話していた。
「はい、前職は勇者で……雷魔法だけ最上級までできます。あとは回復魔法まで満遍なく中級で」
「あー、そういうキャリアだと、この年齢からでは結構きついですね。初めての業界だとなかなか雇ってくれませんから」
「勇者だとダメなんですか?」
「勇者っていっても、全国から年間50人はなれるんですよ。世の中には結構元勇者っていますからね。あと、勇者ってパーティーに作戦指示しますよね? 『変なリーダーシップが職場の和を乱すから』って理由で、NG出してる企業も多いんですよ」
「そうですか……じゃあ、職業訓練とかは受けられないですか?」
「あー、それが。ギルドは別の保険加入してますよね? うちは王国保険だから、こちらの保険でやってる講座や職業訓練は一切受けられないんですよ、ごめんなさいね」
女性のギルド冒険者がほぼ100%婚活に走る理由がこれらしい。
一応、他の求人なども探してみたが、元女勇者の肩書きが邪魔する仕事が大半だった。
(はあ、それに、ここにはモンスターを狩るとかスリリングな仕事はなかなか万人に開かれていないわね。公務員でも考えようかな)
王国の正規兵士に志願しようと兵士志願所に行くも、やはり年齢制限がある。
(あとは、何ができるだろう……それに、今月の生活費がもうないわ)
最近は1日二食に切り替えたり、野菜スープを薄めて作っている。
心なしか、あれだけ筋骨隆々だったものが一回り小さくなっている気がする。ダンジョンを2日以上彷徨うことができた体力も、今は少し落ちた。
(困ったわ。私自慢の筋肉も、この食生活では維持ができない)
冒険者だった頃は、肉があればそれでよかった。だが、このままでは冒険者として干からびてじう以前に、体が倒れてしまう。
(「老けたな、お前」)
王都のショッピングストリートを歩いていると、硝子ばりの店の前で、ふと、あいつの顔と声が蘇ってくる。
数日前のギルドの出来事で言い放たれたローレンの言葉ーーーー
ふと、自分の格好に目がいく。
相変わらず冒険者のような格好。ぼろぼろの旅用ブーツ。
そして、背中に帯びた大剣がないので、やや猫背になってきた背中、筋肉が急に運動量を失ったので、変な部分で太っているように見える。
(唇の色、薄くなったなあ……)
ちょうど立ち止まったのは、化粧品の店だ。
(巷の女の子たちはこんなのを着けているんだ……)
ちょうど、季節は王国の創立者が天に召され、そして新たな世継ぎが生まれた日をしのぶ降誕祭で、この時に町中はカップルだらけになる。
男性から女性へ贈る用の化粧品のコフレには、レッドオレンジの可愛い口紅などが入っていた。
(いいなあ、普通の男女はこのようなものを降誕祭でもらえるのだな。ローレンはプレゼントなんか一度もくれたことなかったし、口紅なんか、ダンジョンから弱い敵が出なくなる無色の修道院製のリップ以外、使ったことないなあ)
私の前では幻の中で、色付きの唇で微笑む男女がはしゃいでいた。
雪がうっすらと積もる王都で、柔らかな水銀灯の灯った大通りをデートをする……
(ーーただそれだけでよかったんだ。そんな思い出が欲しかったんだ)
ローレンの温もりは、宿屋で気が向いた時とか、ダンジョンのセーブポイントのテントでしか感じたことがなかった。あれだけ命をかけて一緒に戦っていたのに。
ふと値段を見ると、昨今の物価上昇もあって、一つの限定ポーチが20,000Gと書いてあった。
凍える初冬のハマニマス王国には、木枯らしが吹いていた。